風間サチコ《ゲートピア No.3》2019年
ファランジュ
2024年9月1日(日)-11月23日(土)
KAG
https://gallerykag.jp/
開廊時間:11:00–19:00
休廊日:月
展覧会URL:https://gallerykag.jp/2024/08/2129/
キュレーター:川上幸之介
2024年4月に倉敷に新設されたばかりのギャラリーKAGでは、フランスの思想家、シャルル・フーリエが提唱し、実現しなかったものの近代アナーキズムやダダに影響をもたらした「ファランジュ」をタイトルに掲げ、風間サチコ、坂口恭平、ジェン・リウ、绘造社(ドローイング・アーキテクチャー・スタジオ)、マイケル・ラコヴィッツの作品を通じて、今日の芸術の可能性を検討する展覧会を開催する。キュレーションを手がけるのは、「Punk! The Revolution of Everyday Life」や「Bedtime for Democracy」など、数々の企画を手がけてきたアーティストの川上幸之介。
19世紀初頭、シャルル・フーリエ(1772-1837)は農業を中心に生産と消費の自律したサイクルによる2,000人程度の共同社会「ファランジュ(アソシエーション)」の建設を試みたが、そのアイディアは実現することなく、フーリエは晩年困窮の中で亡くなる。しかし、この理想郷を作ろうとした運動と思想は、ピエール・プルードンら近代アナーキズムに影響を与えるとともに、ベルリン・ダダのヨハネス・バーダーが全人類のための記念碑を提唱、レトリスト・インターナショナルのジル・イヴァン(イワン・チェチェグロフ)のハシエンダ、シチュアシオニスト・インターナショナルのコンスタント・ニーヴェンホイスのニューバビロンへと受け継がれていく。また、これらアーティストたちと同時代を生きたフランスの哲学者、アンリー・ルフェーブルは、私たちが何気なく生活する日常空間を、社会、国家といった政治的諸力によって作為的に生産されているものと捉えた。
「合理性を現実的なものへと還元し、即時的な欲求充足によって枯れていく 批判的想像力は、日常生活において、どのように取り戻すことができるか。」本展では、資本と国家が収奪しつつある空間に対し、芸術が、いかにしてカウンター・スペースとなりえるのかを検討し、今日におけるイデオロギーや新植民地主義、ディストピアとユートピア、 疎外といった側面を照らし出す作品を紹介する。
風間サチコ《ゲートピア No.3》2019年
坂口恭平『モバイルハウス 三万円で家をつくる』集英社、2013年
風間サチコ(1972年東京都生まれ)は、徹底的なリサーチによる裏付けを元に、ブラックユーモアや風刺を交えた表現を通して現代社会の過去と現在を考察。マンガのようなモチーフにより不条理でナンセンスな人間を描き、世界の暗部を浮き彫りにしてきた。本展出品作品は、黒部川第三発電所建設を支えた労働者に焦点を当て、エジプトのナイル川流域に建設するアスワン・ハイ・ダムにより水没の危険が懸念された遺跡群を高台へと移転したヌビア遺跡群移設プロジェクトと問題を重ねつつ、近代化の影を照らす。アブ・シンベル小神殿をモチーフとした6体の像は、歩荷の男女、ダイナマイトを持った朝鮮人、掘削やずり出しの作業員に置き換えられ、版画とともに展示される版木からは歴史に残されされない朝鮮人の姿が象徴的に削り取られている。
建築家、作家、アーティストの坂口恭平(1978年熊本県生まれ)は、路上生活者の家を建築学的に調査した論文を発表し、それを元にした写真集『0円ハウス』(2004)をはじめ、フィールドワークに基づいた著作を多数発表している。本展に出品する《ミニマムショップ》、《机の家》といったドローイングは、坂口が幼少期に家の中に作った秘密基地とハウスメーカーが作る家の間や、すでにあるものを見て想像し、そのなかに家の機能を発見するという枠組の断片によって展開される思考都市として捉えられる。また、路上生活者の老人から啓示を受け、ノウハウを学んだモバイルハウスの設計に至る連続写真も併せて展示する。
ジェン・リウ(1976年ニューヨーク州スミスタウン生まれ)は、過去と現在におけるイデオロギー論争を織り交ぜた物語を創作している。本展出品作品《ザ・ピンク・ディタッチメント(桃紅色娘子軍)》は、中国の文化大革命の最中に上演が許された《紅色娘子軍》(1964)を参照した作品。原作は、中国国民党をバックにした地主の横暴に立ち上がった女性農民が、紅色娘子軍を組織して倒して革命を起こすバレエ映画だが、本作では、食品、ナショナル・アイデンティティ、動物の擬人化、工場生産における効率性、歴史修正主義による過去の書き換え、女性の役割といった問題を扱い、赤(共産主義)と白(資本主義的市場改革)の対立に対する融和としてピンクを提案する。そして、そのピンクは完璧に設計され大量生産されたホットドッグに象徴される。
Jen Liu, The Pink Detachment (2015)
DAS, Taobao Village – Smallacre City (2018)
绘造社(ドローイング・アーキテクチャー・スタジオ)は、2013年にリー・ハンとフー・イェンによって北京に設立、建築ドローイング、デザイン、都市計画の実践に取り組んできた。建築、アート、大衆文化、日常生活から着想し、エンジニアリング・ドローイング・ソフトウェアを用いて、壮大で複雑な都市景観のイメージを創り出す。本展では、虚構の農村「淘宝(タオバオ)村」を描いた《Taobao Village – Smallacre City》(2018)を発表。この虚構の農村部の住民は、アリババ・グループが所有する人気のeコマース・プラットフォーム、タオバオでオンライン・ショップを運営している。「Smallacre City」という副題が示すように、本作はアメリカ合衆国の建築家、フランク・ロイド・ライトが1920年代から30年代にかけて開発した投機的プロジェクト、ブロードエーカー・シティを批判的に再解釈したもの。ライトのユートピア的ビジョンである農地分散型居住が自家用車によって実現されたのに対し、現代のタオバオ・ヴィレッジは高速インターネットとデータ駆動型物流によって実現される。
マイケル・ラコウィッツ(1973年ニューヨーク州グレートネック生まれ)は、シカゴを拠点に活動するイラク系アメリカ人アーティストで、現在はノースウェスタン大学の芸術理論と実践の教授を務める。本展で紹介する《paraSITE》(1998-ongoing)は、ホームレスのために設計された特注のインフレータブル構造で、建物の暖房・換気・空調(HVAC)システムの外部取出し口に取り付け可能なシェルター。建物から出る暖かい空気が、二重膜構造のシェルターを膨らませると同時に暖める。ラコウィッツは、マサチューセッツ州ボストンとケンブリッジ、ニューヨーク市で30人以上の身寄りのない人々にこのシェルターを配布し、以来、このプロジェクトを通じてシカゴでは毎年、シェルターが建設・配布されている。
Michael Rakowitz, paraSITE (1998-ongoing)