2026年4月15日に行なわれた「NCAR×AWARE 女性アーティスト リサーチフェローシップ」採択フェロー発表会の様子。前列中央の左から山田裕理、小田原のどか
2026年4月15日、国立アートリサーチセンター(NCAR)とArchives of Women Artists, Research and Exhibitions(AWARE)は、日本における女性アーティスト研究を推進するための「NCAR×AWARE 女性アーティスト リサーチフェローシップ」の第1回採択者に、彫刻家、評論家の小田原のどかと、東京都写真美術館学芸員の山田裕理を採択したと発表した。
本フェローシップは、視覚芸術分野で活躍し日本に所縁を有する女性アーティスト(自己の性別についての認識が女性、または自己の性別についての認識が男女という二元的な枠組みに限定されないノンバイナリーである者)に関する研究が対象。審査委員長の仲町啓子は「応募された19件の研究対象は多岐のジャンルにわたり、応募者の国籍も多様で、また研究方法にも個性的なものが多く見られました」とし、選考にあたり、「支援対象研究を遂行するに足る実績と準備状況については、短期間に相応な成果を得るため重要視しました」とコメントした。
小田原のどか(宮城県生まれ)は、彫刻家、評論家。版元主宰。芸術学博士。これまでに、国際芸術センター青森[ACAC]、熊本のつなぎ美術館などで個展を開催してきた。2024年には宮城県芸術選奨新人賞を受賞し、2026年に受賞記念展「↓(1985−)」(塩竈市杉村惇美術館)を開催した。主な単著に『近代を彫刻/超克する』(講談社、2021)、『モニュメント原論:思想的課題としての彫刻』(青土社、2023)、編著に『この国(近代日本)の芸術:〈日本美術史〉を脱帝国主義化する』(山本浩貴との共編、月曜社、2023)など。表現の現場調査団メンバー、横浜国立大学教員。
山田裕理(千葉県生まれ)は、近現代写真史を専門とし、IZU PHOTO MUSEUM学芸員を経て、2018年より現職。主な企画展に「フィオナ・タン アセント」(IZU PHOTO MUSEUM、2016)、「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」(2021)、「本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語」(2023)、「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」(2025)ほか、「愛について アジアン・コンテンポラリー」(2018)を笠原美智子と共同企画、「リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真」(2021)をナタリー・キングと共同企画。(※会場名の表記がないものはすべて東京都写真美術館)
小田原のどかによるプレゼンテーションの様子 提供:NCAR×AWARE
山田裕理によるプレゼンテーションの様子 提供:NCAR×AWARE
4月15日の東京日仏学院での採択フェロー発表会では、小田原と山田がそれぞれ研究内容についてプレゼンテーションを行なった。
小田原は、これまで周縁化されてきた近代日本における女性彫刻家の活動に光を当てることを研究テーマに据え、彼女たちが直面した制度的・社会的制約から美術史を再検証する。美術史家、リンダ・ノックリンの論文「なぜ女性の大芸術家は現れないのか」(1971)や若桑みどりの『女性画家列伝』(1985)がいずれも画家の女性たちを対象としてきたことに触れ、重要な仕事としつつも、彫刻家の女性たちはさらに周縁化されてきたと指摘。また、彫刻家の高村光太郎は1920年の短文「女性彫刻家」で、彫刻は腕力を要する仕事であり、女性には適さないかもしれないと記していると言及。小田原はこうした言説に加え、1900年創立の私立女子美術学校で彫塑科の卒業生が14年間でわずか2名にとどまり、同科が廃止された事実を挙げ、女性が彫刻を学ぶ機会自体が制度的に閉ざされていたことを指摘した。
こうした時代状況を踏まえ、小田原は2025年より院展・文展・帝展の彫刻部門でそれぞれ初めて入選した女性彫刻家——作田輝(木内輝)、太田嘉女野、久原濤子の調査を進めてきた。今回のフェローシップでは、ともに岡山県出身の太田嘉女野(1903-1986)と久原濤子(1906-1994)の2名に焦点を当てる。1925年の院展彫刻部門に女性として初めて入選した太田は、これまで没年が不明だったが、結婚後の改姓が判明したことで、1986年に没していたことがわかったという。今後は作品の所在を突き止める。久原は1931年の帝展彫刻部門に女性として初めて入選。小田原の調査により、その入選作《男の首》の石膏原型の現存が確認され、美術館への収蔵を後押ししたいと語った。また、岡山から東京に出て彫刻を学ぶ選択をしたふたりの足跡をたどることで、東京中心に構築されてきた美術の歴史を検証し直したいとした。
山田は、明治期を中心に昭和前期までに活動した女性写真家に関する展覧会や文献調査を通じて、その評価および研究の現状を整理するとともに、女性写真家の写真実践が近代日本の写真文化の形成に果たした役割を明らかにしようと試みる。近年、国際的に日本の女性写真家への関心が高まっている一方で、近代における研究の蓄積は依然として不十分であることに触れた。これまでの展覧会では、19世紀の女性写真家として紹介されるのは島隆(1823-1899)のみで、そこから1940年代に活動を始めた山沢栄子(1899-1995)まで大きく飛躍してしまうが、この間に女性写真家が存在しなかったわけではないと述べた。
今回のフェローシップでは、島に加え、芝居写真の写真館を営んだ塙芳埜(1848-1884)、変装写真・扮装写真を撮影していたとされる山本古登女(生没年不詳)の3名を調査対象とする。島はこれまでも日本初の女性写真家として紹介される機会があったものの、夫・島霞谷との協作のあり方や開業したという写真館の実態にはなお調査が必要であるという。塙の作品は東京都写真美術館に数点が収蔵されているが、活動の全体像は十分に解明されていない。山本については文献をもとに名前や活動は確認できるものの作品自体はいまだ確認できていない。一次資料を中心としたアーカイブ調査により、女性写真家たちの活動の具体像を明らかにし、写真史のみならず近現代の日本社会をジェンダーの観点から捉え直すことを目指すとした。
研究成果は、NCARおよびAWARE公式ウェブサイトにて2027年夏以降に公開を予定している。
選考委員(五十音順、所属先は選考委員会実施時点)
天田万理奈(AWARE日本代表、キュレーター)
大谷省吾(NCAR作品活用促進グループリーダー、東京国立近代美術館副館長)
小勝禮子(美術史・美術批評)
建畠晢(草間彌生美術館長)
仲町啓子(実践女子大学名誉教授、秋田県立近代美術館特任館長)
水野僚子(日本女子大学国際文化学部国際文化学科 准教授)
国立アートリサーチセンター:https://ncar.artmuseums.go.jp/
AWARE:https://awarewomenartists.com/aware_japan/
