ヒルマ・アフ・クリント《10の最大物,グループIV,No. 3,青年期》1907年
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
ヒルマ・アフ・クリント展
2025年3月4日(火)-6月15日(日)
東京国立近代美術館
https://www.momat.go.jp/
開館時間:10:00–17:00(金、土は20:00まで)入館は閉館30分前まで
休館日:月(ただし3/31、5/5は開館)、5/7
企画担当:三輪健仁(東京国立近代美術館 美術課長)
展覧会URL:https://art.nikkei.com/hilmaafklint/
東京国立近代美術館では、抽象絵画を創案した画家として近年再評価が高まるヒルマ・アフ・クリントのアジア初となる大回顧展「ヒルマ・アフ・クリント展」を開催する。
ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944/スウェーデン、ストックホルム生まれ)は、スウェーデンの王立芸術アカデミーを1887年に優れた成績で卒業後、主に肖像画や風景画を手がける職業画家として活動。また児童書や医学書の挿画に関わったり、後にはスウェーデン女性芸術家協会(1910年発足)の幹事という実務的な仕事を担ったりと、多方面で活躍した。自身の制作においては神秘主義思想に傾倒し、1896年に特に親しい4人の女性と「5人(De Fem)」というグループを結成。交霊術の体験を通して膨大な数のドローイングを残した。アフ・クリントはこの体験を通じて、ワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアンら同時代のアーティストに先駆け、自然描写に根ざしたアカデミックな絵画とは異なる抽象表現を生み出した。1944年、1,000点をはるかに超える作品やノート類の資料などすべてを甥に託し、81歳で逝去。作品はほとんど展示されることなく、長らく限られた人々に知られるばかりだったが、1980年代以降いくつかの展覧会で紹介され、21世紀に入ると、表現の先駆性や緻密な体系性など、モダン・アート史上、きわめて重要な存在として評価された。2013年にストックホルム近代美術館からスタートしたヨーロッパ巡回の回顧展「Hilma af Klint – abstrakt pionjär (Hilma af Klint – A Pioneer of Abstraction)」(抽象の先駆者)でその全貌が明らかになり、100万人以上を動員。2018年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された回顧展「Hilma af Klint: Paintings for the Future」は、当時の同館史上最多となる60万人以上の動員を記録した。以降、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(シドニー、2021)やテート・モダン(ロンドン、2023)、デン・ハーグ市美術館(オランダ、2023-2024)、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館 K20(デュッセルドルフ、2024)など、世界各地で大規模な展覧会が開催された。2025年は本展のほかにニューヨーク近代美術館での個展が控えている。
ヒルマ・アフ・クリント《ポピー》制作年不詳
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
ヒルマ・アフ・クリント《知恵の樹,Wシリーズ,No. 1》1913年
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
本展では、高さ3m超・10点組の絵画〈10の最大物〉(1907)をはじめ、すべて初来日となる作品約140点を出品。代表的作品群「神殿のための絵画」を中心に構成し、スケッチやノートなどの資料、同時代の神秘主義思想・自然科学・社会思想・女性運動といった多様な制作の源の紹介をまじえ、5章立ての構成により画業の全貌を明らかにする。
第1章「アカデミーでの教育から、職業画家へ」では、アカデミー在学中に制作された人体デッサンや、あるいはこの時期に制作されたと思われる植物図鑑のように緻密な写生などから、正統的な美術教育で習得した技術の高さを見て取ることができる作品を展示。また職業画家として制作した肖像画なども紹介する。
第2章「精神世界の探求」では、アフ・クリントの思想や表現を形成し、決定づける要因となっていったスピリチュアリズムに関心を持ち始めた時期に焦点を当てる。交霊術におけるトランス状態において、高次の霊的存在からメッセージを受け取り、それらを自動書記や自動描画によって記録した「5人(De Fem)」の作品などを展示する。
ヒルマ・アフ・クリント《エロス・シリーズ,WU/薔薇シリーズ,グループII,No. 5》1907年
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
第3章「神殿のための絵画」では、1906年から1915年にかけて制作された、全193点からなる作品群「神殿のための絵画」に注目。その中でも、人生の4つの段階(幼年期、青年期、成人期、老年期)を描いた、高さ3メートルを超える10点組の大作〈10の最大物〉を中心に構成する。また、アフ・クリントの関心事である二項対立とその解消が表現された〈白鳥〉など、精神的世界と科学的世界、双方への関心を絵画として具現化した作品を展示する。
第4章「「神殿のための絵画」以降:人智学への旅」では、「神殿のための絵画」に連なりながらも、より幾何学性や図式性が増した1917年の「原子シリーズ」や、1920年の「穀物についての作品」を紹介。介護していた母親が亡くなった1920年以降に人智学への傾倒を深めると、創始者であるルドルフ・シュタイナーから思想面だけでなく作品制作でも強い影響を受け、幾何学的、図式的な作品から、水彩のにじみによる偶然性を活かした表現へと変化していった時期の作品を展覧する。
第5章「体系の完成へ向けて」では、人智学や宗教、神話に関わるような具体的モチーフを回帰させながら、晩年まで続いた水彩を中心とした制作を紹介。制作の一方で、1920年代半ば以降 、自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業を開始。「神殿のための絵画」を収める理想のらせん状の建築物や、その建物内部への作品配置計画を記した資料など、厳密な体系性を目指していたかの証左となる、編集者的、アーキビスト的作業に注目する。
なお、関連映画として、2022年に公開された「見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界」(配給:トレノバ)が、3月8日(土)より、東京・ユーロスペースにて再上映される。
ヒルマ・アフ・クリント《白鳥,SUWシリーズ,グループIX:パート1,No. 1》1914-1915年
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
ヒルマ・アフ・クリント《白鳥,SUWシリーズ,グループIX:パート1,No. 17》1915年
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation