2025年注目の国際展

国際展という枠組みをどのように解釈し、具現化していくのかという課題を抱えるなか、2025年も世界各地で、さまざまな国際展が開かれる。東アジアでは、春夏秋の3会期制を採用する瀬戸内国際芸術祭2025を皮切りに、8月にソウル、9月に愛知、岡山芸術交流、11月に上海、台北と続く。また、4月には第36回サンパウロ・ビエンナーレが昨年からプレ企画として展開する「Invocation」を日本でも開催。下記に取り上げなかった国際展にも、環境への関心の高いヘルシンキ・ビエンナーレ(6月開幕)や中央アジアを代表する国際展を目指し第1回開催を迎えるウズベキスタンのブハラ・ビエンナーレ(9月開幕)なども注目。そのほか、国立アートリサーチセンター(NCAR)の「アーティストの国際発信支援プログラム」に採択されたハワイ・トリエンナーレ2025は2月、アジアトリエンナーレ・マンチェスター2025は11月に開幕する。

 


 

シャルジャ・ビエンナーレ16
「to carry」

2025年2月6日(木)-6月15日(日)
https://www.sharjahart.org/en/whats-on/details/sharjah-biennial-16-to-carry/
キュレーター:アリア・スワスティカ、アマル・ハラフ、ミーガン・タマティ゠クネル、ナターシャ・ギンワラ、ゼイネップ・オズ

前回30周年を迎えた中東地域最大の国際展は、アリア・スワスティカ(ジョグジャカルタ)、アマル・ハラフ(ロンドン)、ミーガン・タマティ゠クネル(テ・ファンガヌイ・ア・タラ/ウェリントン)、ナターシャ・ギンワラ(コロンボ、ベルリン)、ゼイネップ・オズ(イスタンブール、ニューヨーク)のそれぞれ異なる都市を拠点に活動する5名のキュレーターによる共同キュレーション制を採用。「to carry(持ち運ぶ)」のテーマの下、世界各地から参加する140名以上のアーティストの作品により異なる視野の交錯と共鳴を展開する。第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ コソヴォ館の個展で特別表彰を受けたドルンティナ・カストラティ、パレスチナ出身で同地とニューヨークを拠点に活動するキュレーターのアダム・ハッジヤヒア、同じくパレスチナ出身のミュージシャン兼サウンド・リサーチャーのビント・ムバレ、レバノン出身のアーティスト兼キュレーターのヘレナ・カザン、さらに、香港のアートシーンにおける映像表現の先駆的な存在として知られるエレン・パウ、高知出身でニューヨークを拠点に活動する池添彰らによる80点以上の新作が発表される。

 


Elizabeth Price, SLOW DANS GOMA, Glasgow, January 2023. Photography by Andrew Lee.

 

リバプール・ビエンナーレ2025
「BEDROCK」

2025年6月7日(土)-9月14日(日)
https://www.biennial.com/
キュレーター:マリー゠アン・マッケイ

英国最大の国際展リバプール・ビエンナーレは、地元の美術機関「ブルーコート」に長く務め、現在は英国内の文化遺産とアーティストによるコラボレーションを計画するアーツ&ヘリテージのディレクターを務めるマリー゠アン・マッケイがキュレーションを務める。マッケイは、リバプールの特徴的な地形と社会的基盤を支える信念を表すものとして「BEDROCK」をテーマに掲げ、参加アーティストらとともに、この都市の形成の基盤となり現在もその影響を残す植民地主義と帝国主義の遺産がもたらす喪失感に向き合う。参加アーティストには、2012年のターナー賞受賞作家のエリザベス・プライスや、《Mining the Museum》(旧・メリーランド州歴史協会博物館/現・メリーランド州歴史文化センター、1992-1993)で知られるフレッド・ウィルソンから、自身の映像制作だけでなく展覧会企画や出版などを通じてイングランド北西部におけるアジア・アフリカ系アーティストの紹介にも取り組むアンバー・アカウヌ、日本人の祖母を持つアンナ・ゴンザレス・ノグチ、台湾とオランダを拠点に活動するチャン・チーチュン[張致中]など、30組が名を連ねる。

 


Zasha Colah, Curator of the 13th Berlin Biennale for Contemporary Art Photo: Moritz Haase

 

第13回ベルリン・ビエンナーレ
2025年6月14日(土)-9月14日(日)
http://13.berlinbiennale.de/en
キュレーター:ザーシャ・コラー

昨年11月に市議会上院で年間200億円を超える文化予算の削減案が可決されたベルリン。2002年より長きにわたりディレクターを務めたガブリエレ・ホルンの後を継いだアクセル・ヴィーダー(前ベルゲン・クンストハル ディレクター)には厳しい船出となる。第13回展のキュレーターを務めるのは、イタリア・ボルツァーノの「Ar/Ge Kunst」で共同アーティスティック・ディレクターを務めるムンバイ出身のザーシャ・コラー。長期にわたる抑圧下における芸術的想像力や市民的不服従の芸術的行為に関心を抱いてきたコラーは、ムンバイに共同設立した複合アートスペース「Clark House Initiative」(2010-2022)や、ベルリン、ダカール、ミラノなど複数の都市を繋いで脱中心的な実践を展開する団体「Archive」(2020-)など、さまざまな協働的プロジェクトに携わってきた。第13回展に向けて、ベルリン市内に生息しているキツネの存在を出発点に「逃散性(fugitivity)」というコンセプトを掘り下げていく。

 


Artistic directors of the 13th Seoul Mediacity Biennale, from left to right: Hallie Ayres, Anton Vidokle, and Lukas Brasiskis. Courtesy the Seoul Museum of Art.

 

第13回ソウル・メディアシティ・ビエンナーレ
2025年8月26日(火)-11月23日(日)予定
https://mediacityseoul.kr/
アーティスティック・ディレクター:アントン・ヴィドクル、ハリー・アイレス、ルーカス・ ブラシスキス

前身となる「ソウル・イン・メディア」(1996、1998、1999)を引き継ぎ、2000年から名称を変えながら第13回目の開催を迎えるソウル・メディアシティ・ビエンナーレ。前回から採用された公募制によりアーティスティック・ディレクターに選ばれたのは、オンライン・アート・プラットフォーム「e-flux」の創設者のひとりとして知られるアントン・ヴィドクル、霊的な信念体系を通じた先住民と西洋の知識の調和などに関心を持つキュレーターのハリー・アイレス、実験映像などの研究を専門に、映像メディアの限界と可能性を掘り下げるキュレーションや執筆に取り組むルーカス・ ブラシスキスの3名。前回の上海ビエンナーレでも協働したキュラトリアル・チームは、交霊会あるいは会議を意味する「séance」をキーワードに据えて、「現在」を理解するためにオカルトやスピリチュアル、神秘的な伝統を利用してきた近現代の芸術的実践の数々を取り上げる。昨年11月末に行なわれたプレイベント「Notes for a Séance」では、キュラトリアル・チームの3名によるトークのほか、ブルース・コナー、マヤ・デレン、ジョーダン・ベルソン、シャーナ・モールトン、久保田成子、チェン・インルー[陳瀅如]の映像作品の上映が行なわれた。

 


© 2024 Daisuke Igarashi All Rights Reserved.

 

国際芸術祭「あいち2025」
「灰と薔薇のあいまに」

2025年9月13日(土)-11月30日(日)
https://aichitriennale.jp/
アーティスティック・ディレクター:フール・アル・カシミ

前身のあいちトリエンナーレ時代から8月(前回の国際芸術祭「あいち2022」は7月30日)に開幕してきた国際芸術祭「あいち」は同芸術祭初の秋開催を採用。主な会場は、愛知芸術文化センターのほか、窯業が盛んな瀬戸市の愛知県陶磁美術館および瀬戸市内のまちなかとなる。芸術監督を務めるフール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター)は、詩人アドニスの詩集『灰と薔薇の間の時』に着想を得た「灰と薔薇のあいまに」をテーマを既に発表。参加アーティストも順次発表、昨年9月には国立新美術館でトークイベントも開催(アーカイブ映像)するなど開幕に向けた準備が進んでいる。なお、昨年5月にはフール・アル・カシミの第25回シドニー・ビエンナーレ(2026年開催予定)のアーティスティック・ディレクターへの就任も発表された。

 


Christine Tohmé Photo credit: Tanya Traboulsi, 2024.

 

第18回イスタンブール・ビエンナーレ
第1期|2025年9月20日(土)-11月23日(日)
第2期|2026年通年(※地元美術機関との共同プログラム)
第3期|2027年9月18日(土)-11月14日(日)
https://bienal.iksv.org/en
キュレーター:クリスティン・トーメ

キュレーターの選考過程におけるエルドアン政権の影響が疑われる不可解な対応をめぐって、当初予定した2024年の開催を延期し、昨年1月より財団ディレクターにケヴセル・ギュレルを迎えるなど新たな体制を整えた上で開幕を目指す第18回イスタンブール・ビエンナーレ。キュレーターには、ベイルートに拠点を置く現代美術協会「アシュカル・アルワン」を創設し、現在もディレクターを務めるクリスティン・トーメが就任した。展示のみならず制作過程や日常的な交流などを重視するトーメの姿勢を取り入れ、会期の枠組みを2025年から2027年までの3年間に大幅に変更。3年間という時間を活かし、地元コミュニティとより深く関わった、イスタンブールという都市が抱えるさまざまな問題や背景、共同体をめぐるプロジェクトやコラボレーションが期待される。

 


Conceptual team for the 36th São Paulo Biennial, from left to right: Keyna Eleison, Alya Sebti, Bonaventure Soh Bejeng Ndikung, Henriette Gallus, Anna Roberta Goetz and Thiago de Paula Souza © João Medeiros / Fundação Bienal de São Paulo

 

第36回サンパウロ・ビエンナーレ
「Nem todo viandante anda estradas – Da humanidade como prática [Not All Travellers Walk Roads – Of Humanity as Practice]」

2025年9月6日(土)-2026年1月11日(日)
https://36.bienal.org.br/
チーフ・キュレーター:ボナベンチュラ・ソー・べジェン・ンディクン
コンセプチュアル・チーム:アリア・セブチ、アナ・ロベルタ・ゲッツ、チアゴ・ドゥ・パウラ・ソウザ
コ・キュレーター・アット・ラージ:ケニア・エレイソン
ストラテジー&コミュニケーション・アドバイザー:ヘンリエッタ・ガルス

1951年設立という半世紀以上の長い歴史を誇るサンパウロ・ビエンナーレは、第36回展のチーフ・キュレーターにカメルーン出身で長きにわたりベルリンを拠点に活動、SAVVY Contemporaryの創設ディレクターを務めるボナベンチュラ・ソー・べジェン・ンディクンを任命。ンディクンを中心とするキュラトリアル・チームは、アフロブラジル作家を代表する詩人、コンセイサォン・エヴァリストの詩「Da calma e do silêncio [Of calm and silence]」に着想し、総合テーマを「Not All Travellers Walk Roads – Of Humanity as Practice」に決定した。例年よりも会期を4週間ほど拡大し9月に開幕する展覧会に先駆けて、世界各地の文化機関の協力の下、「Invocation」と称するイベントを企画。昨年は既に第1回をモロッコのマラケシュのLE 18, MarrakechFondation Dar Bellarjで、第2回をグアドループのレザビームのLafabri’Kで開催。2025年には第3回を2月にタンザニアのザンジバル、第4回を4月に日本で開催する予定。各地で展開される「Invocation」は、9月にビエンナーレのメイン会場のシッシロ・マタラッツォ・パビリオンに結集する。

 


Kitty Scott, Photo courtesy the Shanghai Biennale.

 

第15回上海ビエンナーレ
「Does the flower hear the bee?(花はミツバチを聞くのだろうか?)」

2025年11月8日(土)-2026年3月31日(火)
チーフキュレーター:キティ・スコット

中国で最も長く続く国際展として知られる上海ビエンナーレの第15回展のチーフキュレーターには、30年以上に及ぶキャリアを通じて、カナダ国立美術館(オタワ)のチーフキュレーターやヴェネツィア・ビエンナーレ カナダ館のキュレーターなどを歴任してきたキティ・スコットが就任。「Does the flower hear the bee?(花はミツバチを聞くのだろうか?)」の総合テーマの下、人間と非人間といった異なる知性が交差する領域を探求し、自然と文化の両方から学ぶことを通じて、作品と観客と環境との間に新しい感覚のコミュニケーションの構築を目指していく。(関連記事:第15回上海ビエンナーレのチーフキュレーターが決定

 


Curators of Taipei Biennial 2025, Sam Bardaouil (Right) and Till Fellrath (Left). Image courtesy of Taipei Fine Arts Museum.

 

台北ビエンナーレ2025
2025年11月-2026年3月
https://www.taipeibiennial.org/2025/
アーティスティック・ディレクター:サム・バードウィル&ティル・フェルラス

例年通り11月に開幕予定の第14回台北ビエンナーレは、ベルリンの国立ハンブルガー・バーンホフ現代美術館のディレクターを務めるサム・バードウィル&ティル・フェルラスがキュレーターに就任。2009年にキュラトリアル・プラットフォーム「artReoriented」を設立したバードウィル&フェルラスは、これまでに世界各地の70以上の美術機関での展覧会制作や協働プロジェクトを手がけている。近年の主な仕事に2019年に第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ アラブ首長国連邦館のキュレーション、2022年に第59回展のフランス館のジネブ・セディラの個展「Dreams Have No Titles」の共同キュレーション(特別表彰)、同じく2022年に第16回リヨン・ビエンナーレのキュレーションがある。台北市立美術館は、昨年、前回の台北ビエンナーレに出品した映像作品を紹介する展覧会「Small World Cinema」をニューヨークのスカルプチャー・センターで共催。台湾のアートシーンと国際的なアートシーンとの結びつきを積極的に推進している。(同展の巡回が予定されていたベイルート・アートセンターは、レバノンへのイスラエル軍の攻撃により、9月25日に一時休館を決定。以来、同館はレバノン全土の避難家族を支援する寄付拠点となった。現在は特に避難生活を送る子どもたちに向けたプロジェクト「Artists In Shelters」を実施している。)

 


 

タイランド・ビエンナーレ
「劫(Kalpa)」

2025年11月-2026年4月
http://thailandbiennale.org/
アーティスティック・ディレクター:アリン・ルンジャーン、デイヴィッド・テ

タイ王国現代芸術文化事務局(OCAC)主催のタイランド・ビエンナーレは、第1回(2018)はクラビ、第2回(2021)はナコーンラーチャシーマー(通称:コラート)、第3回(2023)はチェンライと毎回開催地を変えながら開かれている。11月に開幕予定の第4回展の開催地は、世界有数のリゾート地として知られるプーケット。ヴェネツィア・ビエンナーレにタイ代表で参加した経験を持つアーティストのアリン・ルンジャーンと東南アジアの近現代美術を専門にする批評家のデイヴィッド・テが共同でアーティスティック・ディレクターに就任し、「劫(Kalpa)」をテーマに掲げ、テクノロジーや資源利用、生態系の弱体化、資本主義による搾取などについて掘り下げながら、人間と自然、そして時間の関係を探究していく。

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