映画の教室2019 日本の女性監督―道を拓いた女たち @ 国立映画アーカイブ


『日本百科映画大系 眞空の世界』撮影中の中村麟子監督

 

映画の教室 2019 日本の女性監督―道を拓いた女たち
2019年10月9日(水)、10月23日(水)、11月6日(水)、11月20日(水)、12月4日(水)
国立映画アーカイブ
https://www.nfaj.go.jp/
会場:国立映画アーカイブ 小ホール
時間:各日19:20開始(開場:19:00)※研究員による約15分の解説付き
定員:151名(各回開始後の入場は不可)
企画URL:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/filmclassof2019-female/

 

国立映画アーカイブでは、所蔵作品の中から映画芸術や映画保存を学ぶ上で重要な作品を、ひとつのテーマの下に構成したプログラムを研究員の解説付きで上映する「映画の教室」を開催する。10月9日から12月4日まで隔週水曜、5回にわたって開かれる今回のテーマは、「日本の女性監督―道を拓いた女たち」。

1936年、溝口健二の下でキャリアを積んだ坂根田鶴子が劇映画『初姿』(第一映画)を監督して、日本初の女性映画監督が登場した。本プログラム第1回(10月9日)は、坂根が助監督を務めた溝口作品にも出演し、戦前、戦中、戦後と数々の作品に出演した日本映画史を代表する女優、田中絹代が初めて監督した『恋文』(1953)を取り上げる。「日頃考えていることを全体的に表現してみたい、それにはやはり監督にならなければ駄目だ」と語っていた田中は、本作のほか、『月は上りぬ』(1955)、『乳房よ永遠なれ』(1955)、『流転の王妃』(1960)、『女ばかりの夜』(1961)、そして、最後の監督作品『お吟さま』(1962)の計6作品を監督した。初監督作品『恋文』では、丹羽文雄の原作を木下恵介が脚色し、森雅之、久我美子、宇野重吉、香川京子らとともに田中自身も出演している。

戦中にはプロレタリア映画運動の中で記録映画を監督した厚木たかをはじめ、文化・記録映画の分野で女性が演出を手がけるようになる。第2回(10月23日)は、1944年に日本映画社に入社し戦後は日映科学映画製作所で数々の科学映画・教育映画を監督した中村麟子の『日本百科映画大系 眞空の世界』(1953)、岩波映画製作所で時枝俊江が監督した『絵図に偲ぶ江戸のくらし―吉左衛門さんと町の人々―』(1977)、藤原智子が桜映画社で監督した『歌舞伎の立廻り』(1981)を上映する。

 


『恋文』撮影中の田中絹代監督


『わたしがSuKi』 ©企画制作パオ

 

第3回(11月6日)はアニメーション映画を特集。学研アニメーションにおける重要人物のひとり、神保まつえが監督した『いねむりぶうちゃん』(1959)と、同じく学研アニメーションを代表する演出家だった渡辺和彦が監督を務め、プロデューサーを神保が務めた『雪の女王 THE SNOW QUEEN』(1978)、そして、木下忠司と関根致子のプロダクションK&Sが制作し、木下恵介が監修した、1979年放映のテレビアニメーション・シリーズ「赤い鳥のこころ 日本名作童話シリーズ」から、森脇真琴が監督した『風の母子』(1979)を上映する。

第4回(11月20日)は、2011年に他界した槙坪夛鶴子の『わたしがSuKi』(1998)を取り上げる。1960年代よりテレビや教育映画のスクリプターを務めた槙坪は1985年に企画制作パオを設立した。また、学校・教育問題に関心を向け、性教育をテーマにした作品を手がけ、全国の学校・公共施設での上映という形で観客に作品を届けた。『わたしがSuKi』は、実話を基に、援助交際や性暴力、薬物などの問題を、生徒にわかりやすく伝えるために製作された。

第5回(12月4日)は、1970年代初頭にピンク映画の監督としてデビューし、400本以上の作品の監督、プロデューサーを務める浜野佐知が初の自主映画として製作した『第七官界彷徨―尾崎翠を探して』(1998)を上映する。浜野は本作のみならず、老年女性の性愛をテーマにした『百合祭』(2001)、女性同士の愛を描いた『百合子、ダスヴィダーニヤ』(2011)、新作『雪子さんの足音』(2019)など、女性たちの生/性に向き合った作品を発表している。

 


『第七官界彷徨―尾崎翠を探して』©旦々舎

 

また、国立映画アーカイブは10月10日から10月20日まで長瀬記念ホール OZUで『日墺洪国交樹立150周年 オーストリア映画・ハンガリー映画特集』を開催。同館所蔵の日本語字幕付きプリントを中心に、両国大使館が提供した作品を加えた計16本を10のプログラムで紹介する。10月11日と20日に上映が予定されているプログラム「マリア・ラスニッヒ作品集」では、2014年に他界したラスニッヒが1970年代にニューヨークで制作した実験的な映像作品を中心に紹介。ドイツ語圏内における女性初の絵画科教授就任(ウィーン応用芸術大学)や第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ「生涯功績への金獅子賞」の受賞などの経歴を重ね、フェミニスト的視点を備えた前衛美術の先駆者としても知られるラスニッヒの映像作品をまとめて鑑賞する貴重な機会となる。なお、展示室(7F)では展覧会『映画雑誌の秘かな愉しみ』を12月1日まで開催している。

 


『マリア・ラスニッヒのバラッド』

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