返還映画コレクション(2)――第一次/二次・劇映画篇 @ 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU


渡邊邦男『熱砂の誓ひ』1940年

 

返還映画コレクション(2)――第一次/二次・劇映画篇
2024年7月30日(火)-8月23日(金)
国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU(2階)
https://www.nfaj.go.jp/
休館日:月
定員:310名(各回入替制・全席指定制)
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/repatriated_film202407/

 

国立映画アーカイブでは、東京国立近代美術館が1968年に「返還映画」を冠した特集上映を組んで以来、およそ半世紀ぶりの開催となった昨年度の「第一次・劇映画篇」に続き、「返還映画コレクション(2)――第一次/二次・劇映画篇」を開催する。

1964年、戦後接収された戦前・戦中期の日本映画約1,400本がアメリカ議会図書館に残存している事実が判明。日米双方による事前調査と折衝を経て、1967年11月8日に東京国立近代美術館とアメリカ議会図書館が「交換協定文書」に調印し、日本側が返還を希望した可燃性フィルム群の返還が実現した。「返還映画」の中には、戦時期に米国内の各地で日系人から接収されたものや、戦後に民間情報教育局(CIE)の覚書「非民主的映画の排除」によって上映を禁止された劇映画の一部等が含まれる。国立映画アーカイブでは、1967年の第一次から1984年の第四次にかけて返還された可燃性フィルムの収蔵時の経緯等について再調査を実施し、収蔵時期の明確になったコレクションから順次(再)公開する方針を固めている。

本企画では、社団法人・日本映画製作者連盟(当時・以下映連)加盟の大手映画会社4社(松竹、東宝、大映、日活)が優先的に返還を希望した第一次返還映画を継続して取り上げる。さらに、映連各社が原版を所持していたために実際は返還を受けていないにもかかわらず、上述した1968年の特集上映時に「返還映画の特集〈第二期〉」で上映された作品群、ならびに第一次返還時に誤送されてきた『高山彦九郎』(1928)や『日本剱豪傅 新月寶藏院流』(1945)と併映する第二次返還映画を含め、計27本の劇映画を24プログラムに組んで上映する。

 


渡邊邦男『白蘭の歌』1939年


阿部豊『燃ゆる大空』1940年


マキノ正博『阿片戰爭』1943年

 

一部上映作品の概要は以下の通り。満鉄の技師(長谷川)と満洲の豪族の娘(李)が互いを想いながらも周囲の策謀と時流によって引き裂かれていく物語を描いた『白蘭の歌』[総集篇](1939)は、東宝映画と満洲映画協会の提携で製作された歌謡映画。本作の成功を受けて、長谷川一夫と李香蘭(山口淑子)の共演作が続けて製作され、『支那の夜』 [前後篇](1940)と『熱砂の誓ひ 』[前後篇](1940)とともに「大陸3部作」と称されるようになった。本企画では3作品をすべて上映。8月10日(土)の『白蘭の歌』の上映回は韓燕麗(東京大学大学院総合文化研究科教授)の講演、8月17日(土)の『支那の夜』の上映会は板倉史明(神戸大学大学院国際文化学研究科教授)の講演付き。

皇紀二千六百年記念映画として製作された『燃ゆる大空』(1940)は、陸軍飛行学校の元教官だった航空部隊の中隊長(大日方傳)が、かつての教え子たちを率いて戦火をくぐり抜けていくが、やがて一人また一人と部下を失っていく物語。陸軍省の後援により九七式戦闘機の実機を大量に投入して撮影されており、また、円谷英二と奥野文四郎による特殊技術撮影も高く評価された。円谷英二は、マキノ正博が監督を務めた『阿片戰爭』(1943)でも特殊技術を担当。D・W・グリフィスの『嵐の孤児』(1921)を、「大東亜共栄圏」建設を訴える国策映画へと大胆に翻案した本作には、当時「軍国の女神」とも称された原節子が、髙峰秀子とともに出演。多数のエキストラによる群衆シーンの迫力からも、戦時下のイデオロギー的戦略を支えていたものが窺える。

 


清水宏『信子』1940年


黒澤明『一番美しく』1944年

 

清水宏が獅子文六の同名小説を映画化した『信子』(1940)は、九州から上京し、私立女学校に赴任した体操教師の信子(高峰三枝子)が実直に生徒たちに向き合い、権威的な校風に変化をもたらしていく物語。戦前の女性たちによる学校共同体をとおして、清水は集団のなかの個人の尊厳を問いかける。黒澤明の監督第2作『一番美しく』(1944)は、兵器用の光学レンズを製造する軍需工場で勤労に励む女子挺身隊の少女たちの姿を描く。黒澤は実際に新人俳優たちを工場労働に従事させて、リアリティを打ち出すことを企図した。

『高山彦九郎』(1928)は、昭和3年(1928)に御大典記念映画として製作された。第一次返還希望リストに掲載されていなかった本作は、『丹下左膳 第1篇』の代わりに誤送されたもの。全体(149分)の半分以上が欠落しているものの、物語の展開に躍動感をもたらすカット割りや、空間に奥行きを与えるフレーミングなど、無声の時代劇としての創意に溢れている。本企画では、第二次返還映画の『貝殻一平』 [第一篇]との併映。8月3日(土)の上映回は上屋安由美のピアノ伴奏付き。

 


後藤岱山『高山彦九郎』1928年

 


同時開催
日本映画と音楽 1950年代から1960年代の作曲家たち
2024年4月9日(火)-8月23日(金)
国立映画アーカイブ 展示室(7階)
開室時間:11:00-18:30(4/26、5/31、6/28、7/26は11:00-20:00)入室は閉室30分前まで
休室日:月、5/7-5/12)
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/japanese-cinema-and-music2024/

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