『冬の河童』1995年、監督・脚本・編集/風間志織 ©風間志織
日本の女性映画人(3)——1990年代
2025年2月11日(火)-3月23日(日)
国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU(2階)
https://www.nfaj.go.jp/
休館日:月
定員:310名(各回入替制・全席指定制)
上映会URL:https://www.nfaj.go.jp/film-program/women202502/
国立映画アーカイブでは、日本映画の歴史において、さまざまな分野で活躍した女性映画人の作品を紹介する特集上映を、2022年度に「日本の女性映画人(1)——無声映画期から1960年代まで」、2023年度に「日本の女性映画人(2)——1970-1980年代」と時代を区切って開催してきた。本年度の特集では、1990年代前後の作品を含め、劇映画、ドキュメンタリー、実験映画、アニメーションなど計52作品(37プログラム)を上映し、それぞれの女性映画人を顕彰するとともに、日本映画史を見据える新たな視点を提示する。
無声映画期から1980年代以前の日本の映画界では、俳優出身の女性監督が台頭し、記録映画やピンク映画の分野では多くの作品を発表する女性監督の活躍も見られた一方で、一般劇映画の作り手として女性監督がキャリアを築いていくのは困難だった。本特集が焦点を当てる1990年代は、ようやく継続的に作品を発表する女性監督が目立ち始めた、日本映画史において女性が監督を「職業」とし始めた最初の時代に位置付けられる。
アメリカ留学中に手がけた短編映画で評価を得て、角川春樹製作の『ぼくらの七日間戦争2』(1991)で長篇監督デビューを果たした山﨑博子、イギリス留学を経て日英合作で長篇第1作『ヴァージニア』(1993 ※本上映プログラム外)を監督した佐藤嗣麻子、CMディレクターを経て松竹配給作品『人でなしの恋』(1995)の監督・脚本を手がけた松浦雅子は、大手映画会社のもとで拡大公開される作品を手がけた女性監督の先駆として特筆すべき存在。本特集では、2月22日の『エコエコアザラク Wizard of Darkness』の上映後に佐藤嗣麻子によるトークイベント、3月1日の『ぼくらの七日間戦争2』の上映後には山﨑博子と広島市映像文化ライブラリー 映像文化専門官の森宗厚子によるトークイベントを実施する。
一方、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)で頭角を現した風間志織は自身が脚本、編集も手がけた監督作品『冬の河童』(1995)でロッテルダム国際映画祭のタイガー・アワード賞(グランプリ)、河瀨直美は個人映画で注目を浴びた後の長篇デビュー作『萌の朱雀』(1997)でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞。インディーズ的才覚を持った新世代の女性映画作家として国内外で高く評価された。
『ぼくらの七日間戦争2』1991年、監督・脚本/山﨑博子
『K-20 怪人二十面相・伝』2008年、監督・脚本/佐藤嗣麻子 ©2008「K-20」製作委員会
同時代には、イメージフォーラム・フェスティバル(IFF)など個人映画・実験映画の発表の場を通じて、多くの女性映像作家も台頭した。本特集では、1980年代から身体表現と映像制作に取り組み、太陽に会いに出かけた女性の魂が放浪するさまを日記映画的アプローチで描いた『小口詩子のおでかけ日記』(1988)で1989年にIFF大賞を受賞した小口詩子、都市で一人暮らしをする若い女性を主人公に、部屋が媒介する妄想を客体化された身体性と詩的モノローグ『桃色ベビーオイル』(1995)で1996年にIFF大賞を受賞した和田淳子、幻想的かつブラック・ユーモアの効いた世界観を展開した寺嶋真理、身体と容姿にまつわる関心を突きつめることで「自己と他者」の関係を探求した歌川恵子らを取り上げる。寺嶋の『女王陛下のポリエステル犬』(1994)にはやなぎみわが出演。兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館)の「アート・ナウ’94 : 啓示と持続」にも出品された。
さらに、次の世代につらなる先駆的な自主映画・実験映画を手がけた1990年代以前の女性映画人の作品として、アメリカ留学中に1960年代の女性解放運動に触発され、帰国後はフェミニズム関連の書籍の翻訳や執筆活動を行なう傍ら、1970年代からはフェミニズムの視点によるビデオ作品の制作を始めた道下匡子の作品や、当時、記録映画の助手を務めながら自主映画を発表していた鵞樹丸(本名・村上靖子)が、女性を中心としたスタッフ、キャストを集めて製作、鎌倉時代の歩き巫女と現代の団地に暮らす女性を対比しながら、女性にとっての自由と解放とは何かを問いかけた『わらじ片っぽ』(1976)も上映する。
『小口詩子のおでかけ日記』1988年、監督・撮影・出演/小口詩子
『超愛人』1994年、監督・脚本・撮影・企画・編集/歌川恵子
『わらじ片っぽ』1976年、監督・製作/鵞樹丸
ドキュメンタリーの分野では、1970年代に日本の女性解放運動であるウーマンリブに関わっていた友人・史子の死をきっかけにリブ運動に参加した人々に取材した栗原奈名子の『ルッキング・フォー・フミコ』(1993)、女性たちの歴史を掘り起こす趣旨で立ち上げた〈女たちの歴史プロジェクト〉の第1作として、山上千恵子、瀬山紀子が手がけた『30年のシスターフッド 70年代ウーマンリブの女たち』(2004)、羽田澄子が大正から昭和初期に社会主義的労働運動に参与した活動家の女性たちが一堂に会した1982年の座談会に始まり、その後に撮られたインタビューを加えて構成したドキュメンタリー『女たちの証言―労働運動のなかの先駆的な女性たち』(1996)、東京国際女性映画祭が15周年記念を迎えるにあたり熊谷博子が監督した、20人以上の日本の女性監督たちが映画作りについて語るドキュメンタリー『映画をつくる女性たち』(2004)を上映。
ピンク映画からも、暴力に依らない対等な性的関係をかかげ、300本ものピンク映画を監督した浜野佐知による初の一般映画『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』(1998)をはじめ、浜野の旦々舎で助監督を務めた後に監督デビューした小谷内郁代が同性愛者の結婚を題材にしたロードムービー『境界線の向こう側』(1998)、俳優として多数のピンク映画に出演した後に監督デビューした吉行由実が結婚制度に縛られたくないカップルとゲイの友人の三角関係を爽やかに描いたピンク映画『発情娘 糸ひき生下着』(1998)、数々のピンク映画の脚本を手がけた西田直子の脚本作品『多淫OL 朝まで抜かないで』(2000)、『姉妹OL 抱きしめたい』(2001)を上映。本特集では、小谷内と吉行、西田の作品を紹介するプログラムにおいて、それぞれ女性専用席を設けている。
そのほか、1990年代に頭角を現した女性の映画プロデューサーにも焦点を当て、長年にわたり阪本順治監督作品を支えた椎井友紀子、原将人監督の『20世紀ノスタルジア』(1997)の製作を務めた佐藤美由紀、映画美学校の立ち上げにも参加した松田広子、夫の小川紳介が残した記録フィルムをもとに中国人女性監督の彭小蓮を監督に据えて『満山紅柿』(2001)を製作した白石洋子の仕事も紹介する。
『ルッキング・フォー・フミコ』1993年、監督・脚本・解説・製作・編集・録音/栗原奈名子
『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』1998年、監督/浜野佐知 ©旦々舎
『満山紅柿』2001年、監督/小川紳介、彭小蓮、製作/白石洋子