2024年注目の国際展

約3年間の大規模改修工事を経て、3月にリニューアルオープンする横浜美術館を主要会場とする横浜トリエンナーレをはじめ、2024年はディルイーヤ・ビエンナーレ、シドニー・ビエンナーレ、ヴェネツィア・ビエンナーレ、釜山ビエンナーレ、マニフェスタ、リヨン・ビエンナーレ、バンコク・アート・ビエンナーレなどが開催予定。昨年取り上げた台北ビエンナーレは11月に開幕し、3月24日まで台北市立美術館で開催している。

また、2024年9月の開幕を予定していたイスタンブール・ビエンナーレは2025年に開催を延期。昨年、諮問委員会が満場一致で推薦したデフネ・アヤスのキュレーター就任を同ビエンナーレ財団が却下し、諮問委員会のメンバーでもあったイヴォナ・ブラズウィックを任命した。エルドアン政権による政治的影響を疑わせるその対応に、諮問委員会の複数のメンバーが辞任。昨年末、財団ディレクターのビゲ・オールが辞職し、年初に新たなディレクターとしてケブセル・ギュレルが就任。ブラズウィックもキュレーターを辞任し、新しい規定の下で展覧会を準備し直すため開催延期を決定した。

 


The 2024 Diriyah Contemporary Art Biennale curatorial team. Image courtesy of Diriyah Biennale Foundation. Top (from left to right): Ana Salazar, Dian Arumningtyas, Ute Meta Bauer, Wejdan Reda, Anca Rujoiu. Bottom (from left to right): Alanood A Alsudairi, Rose Lejeune, Rahul Gudipudi

 

ディルイーヤ・ビエンナーレ
「AFTER RAIN」

2024年2月20日(火)-5月24日(金)
https://biennale.org.sa/contemporary-art-biennale-2024/
アーティスティック・ディレクター:ウテ・メタ・バウアー

サウジアラビアの首都リヤド郊外に位置するディルイーヤで、2022年に続く2度目の開催となるビエンナーレは、数々の国際展に携わってきた経験豊富なウテ・メタ・バウアー(南洋理工大学現代美術センター ディレクター)が、5人の共同キュレーターと共にキュレーションを手がける。サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国や東南アジア出身のアーティストを中心とした80名/組の作品やプロジェクトなどを通じて、この地域の複雑な歴史、人間と自然との連続性、人工的環境の調査や周辺の景観の観察、耳を傾けることの重要性を探求していく。

 


24th Biennale of Sydney Artistic Directors Cosmin Costinaș and Inti Guerrero at White Bay Power Station. Photo by Joshua Morris.

 

第24回シドニー・ビエンナーレ
「Ten Thousand Suns」

2024年3月9日(火)-6月10日(月)
https://www.biennaleofsydney.art/ten-thousand-suns/
アーティスティックディレクター:コスミン・コスティナス&インティ・ゲレロ

近年のシドニー・ビエンナーレは一貫して、オーストラリアにおける支配的な語りを脱中心化する試みを積み重ねてきた。コスミン・コスティナスとインティ・ゲレロをアーティスティック・ディレクターに迎える第24回展も「Ten Thousand Suns(1万個の太陽)」を総合テーマにその姿勢を引き継ぐものとなる。新たな主要会場に、シドニー郊外のニュー・サウス・ウェールズ州遺産の旧火力発電所を大幅に修復、保存した「ホワイトベイ・パワーステーション」が加わり、ニューサウスウェールズ州立美術館、シドニー現代美術館など計6カ所の展示会場で、風間サチコやダムタイプ、円奴らを含む90名以上のアーティストが作品を発表する。また、ビエンナーレの一環として、昨年末より既にシドニー・オペラハウスの外観に、トレス海峡諸島のマレー島、マレー民族出身のゲイル・マボ、ニュージーランド(アオテアロア)のテ・ララワ民族およびナプヒ民族出身のニーカウ・へンディンの作品のプロジェクションマッピングを行なっている。

 


第8回横浜トリエンナーレ ロゴビジュアル 提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 

第8回横浜トリエンナーレ
「野草:いま、ここで⽣きてる」

2024年3月15日(金)-6月9日(日)
https://www.yokohamatriennale.jp/2024/
アーティスティック・ディレクター:リウ・ディン[劉⿍]、キャロル・インホワ・ルー[盧迎華]

前回のラクス・メディア・コレクティヴに続き、海外拠点のアーティスティック・ディレクターの選出となった横浜トリエンナーレ。北京出身のリウ・ディン[劉⿍]とキャロル・インホワ・ルー[盧迎華]は、中国の小説家、魯迅の詩集『野草』に着想したテーマ「野草:いま、ここで⽣きてる」を掲げ、その人生哲学を個⼈の⽣命の抑えがたい⼒が、あらゆるシステム、規則、規制、⽀配や権⼒を超えて、尊厳ある存在へと⾼められるもの、⾃由で主体的な意思をもった表現のモデルとして提唱する。昨年11月に参加アーティスト第1弾を発表し、既に前売チケットの発売を開始している。

 


Claire Fontaine, Foreigners Everywhere (English), (2005) Tecnolux ultra violet, 10mm glass, back-painted, framework, electronic transformer, cables. Photo: Studio Claire Fontaine ©︎ Studio Claire Fontaine Courtesy of Claire Fontaine and Galerie Neu, Berlin

 

第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ
「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」

2024年4月20日(土)-11月24日(日)
https://www.labiennale.org/en/art/2024
キュレーター:アドリアーノ・ペドロサ

100年以上の歴史を誇る同ビエンナーレ史上初のラテンアメリカ出身のキュレーターとして、アドリアーノ・ペドロサが、「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」を総合テーマに掲げる第60回展。さまざまな領域で「Foreigner(よそ者)」とされてきたアーティストを点在する「Nucleo Contemporano(ヌクレオ・コンテンポラノ)」、根強い欧米中心のモダニズムの境界や記述を問い直すべく、ラテンアメリカやアフリカ、中東、アジアの20世紀の作品を特集した「Nucleo Storico(ヌクレオ・ストリコ)」の両部門を展示構成の特徴とする。300を超える参加アーティストのリストには、日本からブラジルに帰化したトミエ・オオタケ(大竹富江、1913-2015)、ブエノスアイレス生まれの日系2世の画家、カズヤ・サカイ(酒井和也、1927-2001)も名を連ねる。ナショナルパビリオンは、初参加のベナン、エチオピア、東ティモール、タンザニアを含む90カ国が出展。日本館は毛利悠子の個展を開催。毛利の指名により、韓国出身のイ・スッキョンが同館初の日本人以外のキュレーターを務める。なお、イスラエルによるガザのパレスチナ人に対する非人道的行為に抗議し、ヴェネツィア・ビエンナーレからイスラエル館を除外するよう求める運動「Art Not Genocide Alliance」に対して、2024年2月28日、同ビエンナーレ事務局は要望に応じない旨を発表した(90カ国が参加する同ビエンナーレのナショナル・パビリオンのリストにパレスチナ館の名前はない)。また、同ビエンナーレ事務局はイランにおける女性差別を理由に同国の参加を認めないよう求める「Woman Life Freedom Europe」「Woman Life Freedom Italy」による抗議運動に対しても同じく応じないと発表している。

 


Museum of Contemporary Art Busan (MOCA Busan), 2018 Photo: ART iT

 

釜山ビエンナーレ2024
2024年8月-11月
http://www.busanbiennale.org/BBOCen/
アーティスティック・ディレクター:フィリップ・ピロット、ヴェラ・メイ

展覧会案およびアーティスティック・ディレクターの公募制を採用している釜山ビエンナーレは、ベルギー出身の美術史家(フランクフルト芸術大学教授)のフィリップ・ピロットと、ニュージーランド出身のインディペンデント・キュレーターのヴェラ・メイが、同ビエンナーレ初の共同アーティスティック・ディレクター体制で展覧会制作を行なう。釜山の特徴を反映しつつも、世界に存在する独特な文化的、精神的な生き方の数々を主題に取り入れた展覧会案は、都市における日常空間の利用や、地域の人々、団体、文化芸術機関とのさまざまな形でのパートナーシップを検討するものとなる。

 


From left to right: Cristina Castells, Imma Vilches, Ariadna Amat, Mireia Mascarell, Penélope Cañizares, Hedwig Fijen, Filipa Oliveira, David Linares, Óscar Abril, Gisel Noè, Andreu Dengra, Raquel Morcillo, Joan González © Pietro Bertora / Manifesta 15 Barcelona

 

マニフェスタ15 バルセロナ
2024年9月8日(日)-11月24日(日)
https://manifesta15.org/

都市巡回型のプラットフォームとして、2年に一度、開催都市を変えながらヨーロッパの文化的地勢図を観察してきたマニフェスタ。前回のプリシュティナ(コソヴォ)(※その様子は杉田敦の連載に詳しい)に続く、マニフェスタ15 バルセロナは、開催地域をバルセロナ都市圏の12都市に拡張し、文化生産への分散的かつ協働的なアプローチの開発を試みる。昨年の春より、社会生態学的な変化を調査、促進するとともに、地元コミュニティや国際的な文化生産に携わる人々との継続的な対話を交わしながら、芸術と文化と社会の関係性を再編を目指す。

 


Installation view “16th Lyon Biennale: manifesto of fragility,” Museum of Contemporary Art of Lyon (macLyon), 2022 Photo: ART iT

 

リヨン・ビエンナーレ2024
2024年9月21日(土)-2025年1月5日(日)
https://www.labiennaledelyon.com/en
キュレーター:アレクシア・ファーブル

17回目を迎えるリヨン・ビエンナーレは、長きにわたりヴァル゠ド゠マルヌ現代美術館のチーフキュレーターを務め、現在はパリ国立高等美術学校の学長を務めるアレクシア・ファーブルがキュレーターに就任。ホスピタリティの実践を探求、拡張するために、「人間関係」というテーマを中心に据える。第17回展では、19世紀半ばから2019年までフランス全土で稼働する貨物列車の整備と修理のために利用されていた巨大な敷地を改修した「Les Grandes Locos」が主要会場として新たに加わり、さまざまな表現を通じて、その歴史や、そのアイデンティティを構成する物語、ケアや修復の実践を引き継いでいく。

 

 

バンコク・アート・ビエンナーレ2024
「Nurture Gaia」

2024年10月24日(木)-2025年2月25日(火)
https://www.bkkartbiennale.com/
アーティスティック・ディレクター:アピナン・ポーサヤーナン

過去3回同様、アピナン・ポーサヤーナンがアーティスティック・ディレクターを務めるバンコク・アート・ビエンナーレ(キュラトリアルチームの一員として、三木あき子も参加)。ギリシャ神話の大地の女神、また巨大な生態系としての地球を意味するガイアを育む「Nurture Gaia」をテーマに、自然(nature)と養育(nurture)の違い、女性性(femininity)と女性的な価値観(feminine values)という複雑に入り組んだ概念、エコ・ポリティクス、アニミズム、超自然的なものとの観想的な関わりに焦点を当てる。バンコク芸術・文化センター(BACC)を中心に、サヤーム博物館や王宮寺院など複数の会場で開催。バンコク中心部の再開発事業による大型複合施設「One Bangkok」もそのひとつとなる。

Copyrighted Image