Tokyo Contemporary Art Award 2024–2026


 

2024年1月18日、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペースは、Tokyo Contemporary Art Award 2024–2026の受賞者に、梅田哲也と呉夏枝の2名を選出したと発表した。授賞式および受賞記念シンポジウムは2024年2月17日に開催予定。

梅田哲也(1980年熊本県生まれ)は、現地にあるモノや日常的な素材と、物理現象としての動力を活用したインスタレーションを制作する一方で、パフォーマンスでは、普段行き慣れない場所へ観客を招待するツアー作品や、劇場の機能にフォーカスした舞台作品、中心点を持たない合唱のプロジェクトなどを発表。先鋭的な音響のアーティストとしても知られる。近年の主な展覧会や公演に「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」(ワタリウム美術館、東京、2023)、奥能登国際芸術祭2023(珠洲、石川)、「梅田哲也 イン 別府『O滞』」(別府市内各所、大分、2020)、「うたの起源」(福岡市美術館、2019)、東海岸大地藝術節」(台東、台湾、2018)、また、パフォーマンスとして「Composite: Variations / Circle」(Kunstenfestivaldesarts 2017、ブリュッセル)など。

選考において、「歴史やシステムといった重いテーマを扱いつつ、人間の感覚への信頼にもとづいた表現は詩的で軽やかで、空間の物理的な制約をポジティヴに解釈、転用する手腕にも優れています。鑑賞者の体験を重視する作品からは、作家の倫理的な態度を見ることができ、鑑賞者が自発的に場の探索を始められる丁寧かつ親密な仕掛けが特徴的です。視覚文化に対する明確な理解にもとづいた分野を超えたストーリーテリングによってそれらを統合する表現力は突出したものでした」と、発表する場所の地政学的、環境的特徴に対する洞察が、自身の表現言語で翻訳され、作品として昇華されている点が高く評価された。

 


梅田哲也「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」展示風景(ワタリウム美術館、東京、2023)撮影:後藤秀二


梅田哲也「うたの起源」展示風景(福岡市美術館、2019)撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

 

呉夏枝(1976年大阪府生まれ)は、主に、織、染、ほどくなど、繊維素材にまつわる技法を用い、写真、テキスト、音声などを併用したインスタレーション作品を制作。在日韓国人三世の出自を背景に、言葉にされなかった個人の記憶―沈黙の記憶―をめぐる制作や、ワークショップを通しての対話や経験をもとに、記憶の継承の可能性を探求している。現在は、日本とオーストラリアを拠点に活動している。近年の主な展覧会に、「KANTEN観展: The Limits of History」(Apexart、ニューヨーク、2023)、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京)、「展示と対話のプログラム アートセンターをひらく 第Ⅱ期」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2019)、個展「手にたくす、糸へたくす」(小山市車屋美術館、栃木、2019)、「交わるいと『あいだ』をひらく術として」(広島市現代美術館、2017)、個展「—仮想の島— grandmother island」(MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w、京都、2017)など。

選考において、「大きな歴史およびそこで掬いきれない個人の小さな物語の両方への等しい眼差しが特徴で、染、織といったテキスタイルの形をとる制作それ自体も地政学、女性史、移民・移住の歴史を表象するものとなっています。物質文化としてのテキスタイルの技法と素材を丹念に研究し、かつ高い技術を備え、それらを表現する題材をコンセプチュアルに用いている点」が高く評価されるとともに、「現在作家が制作している作品群は、個人の生に焦点を当てるのみならず、階級と労働に関する調査を交差させたアプローチであり、歴史だけでなく、ジェンダーや移民、自然環境の問題とも接続可能である」とその潜在性が評価された。

 


呉夏枝《海鳥たちの庭》 2022年「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」展示風景(森美術館、東京)撮影:木奥惠三 画像提供:森美術館


呉夏枝《彼女の部屋にとどけられたもの》2019年 撮影:根本譲 画像提供:水戸芸術館現代美術センター

 

Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)は、中堅アーティストの海外展開を含む更なる飛躍の促進を目的に、東京都とトーキョーアーツアンドスペースが2018年に設立した現代美術賞。受賞者には、賞金300万円のほか、海外での活動支援(上限200万円)、東京都現代美術館での展覧会機会、モノグラフの作成や海外発信支援など、複数年にわたる継続的な支援が提供される。選考委員は、高橋瑞木(CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)館長兼チーフキュレーター)、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)、ソフィア・ヘルナンデス・チョン・クイ(クンストインスティテュート・メリー ディレクター ※肩書きは2023年選考会時のもの)、レズリー・マ(メトロポリタン美術館 ミン・チュー・シュウ&ダニエル・シュー アジア・アート部門 アソシエイト・キュレーター)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長/東京藝術大学大学院 准教授)、近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター)の6名が務めた。選考委員長の高橋は、「写真や映像といったデジタル・メディアを用いる作家が多かったですが、メディウムの選択や使い方、展示方法には新鮮さや驚きを感じるようなものは残念ながら少なかったです。自身の国籍や属性、ジェンダー・アイデンティティが制作当初の動機でありながら、そこから他の個人や集団の歴史、経験へと接続していこうとする意思が強く反映された作品が多く、作家が制作の過程で関わる人々と時間をかけて丁寧に信頼関係を築いていることに感心しました。マイノリティや移民の問題は、彼らが存在する場所の歴史や地政学に根付く問題ですが、その一方で、世界のあらゆるところにある問題であるとも言えます。マイノリティの問題を日本固有の問題として設定せずに語る方法を探ることで、大局的な問題が顕在化し、より多くの人々と作品を通して問題を共有する可能性が開かれるのではないでしょうか。」と選考における総評を述べている。

 

Tokyo Contemporary Art Award
https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/
授賞式|2024年2月17日(土)14:00-14:30(開場:13:30)
受賞記念シンポジウム|2024年2月17日(土)14:40-16:10
会場:東京都現代美術館 地下2階講堂
※入場無料・要事前申込・先着順。日英同時通訳配信あり。

受賞記念シンポジウム
登壇者:梅田哲也(オンライン参加)
呉夏枝
選考委員:野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)
鷲田めるろ(十和田市現代美術館 館長/東京藝術大学大学院 准教授)
近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター)
モデレーター:塩見有子(特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト] ディレクター/ TCAA選考会運営事務局)

 


歴代受賞者
2022–2024|津田道子、Saeborg(サエボーグ)
2021–2023|志賀理江子、竹内公太
2020–2022|藤井光、山城知佳子
2019–2021|風間サチコ、下道基行

Copyrighted Image