Tokyo Contemporary Art Award 2022–2024


左:津田道子 Photo: 飯川雄大 右:Saeborg(サエボーグ) Photo: ZIGEN

 

2022年1月12日、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペースは、Tokyo Contemporary Art Award 2022–2024の受賞者に、津田道子とSaeborg(サエボーグ)を選出したと発表した。授賞式および受賞記念シンポジウムは2022年3月20日に開催予定。

津田道子(1980年神奈川県生まれ)は、鏡やフレーム、映像装置を配置したインスタレーションやパフォーマーとの共同作業によるパフォーマンスなどを通じて、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作している。2013年に東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程映像メディア学専攻を修了。2017年には文化庁メディア芸術祭アート部門の新人賞を受賞。近年の主な展覧会に、『六本木クロッシング2019展:つないでみる』(森美術館、2019)、『あいちトリエンナーレ2019 情の時代』(四間道・円頓寺エリア・伊藤家住宅)、『TOKAS Project Vol.2 「FALSE SPACES 虚現空間」』(TOKAS本郷、2019)、『「インター+プレイ」第1期』(十和田市現代美術館、2020)、個展『トリローグ』(TARO NASU、2020)、第10回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(クイーンズランド州立美術館、ブリスベン、2021)などがある。

近年、津田は小津安二郎の映画におけるカメラフレーム内で「振付された」人物の動きの分析から不可視のジェンダーロールを可視化するパフォーマンス作品を展開しており、そのようなノンバーバル・ランゲージに対する綿密な探究を通じて、因習がいかに個の内面に影響を与えるのかを明らかにしている。また、美術教育の現場にもジェンダースタディや社会的な実践を取り入れ、自身の関心の領域を拡大しつつ新しい表現に挑戦している。こうした津田の諸実践は、鑑賞者に内省と社会における相互理解を生み出すために、個人的な変革ではなく、構造的な変化の必要性を批判的に自覚させるもので、その活動を貫く関心と動機の一貫した強い制作態度が高く評価されての受賞となった。

 


津田道子《東京仕草》2021年「Back TOKYO Forth」展示風景、東京国際クルーズターミナル、2021年
Photo: Akira Arai(Nacása & Partners Inc.)


津田道子《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。》2016-2020年「オープン・スペース 2016 メディア・コンシャス」展示風景、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、2016年 Photo: 山本糾

 

サエボーグ(1981年富山県生まれ)は、家畜や糞虫などさまざまな生き物を模したラテックス製のボディスーツを自作し、自ら装着して行なうパフォーマンスを発表してきた。そのパフォーマンスは国内最高峰のフェティッシュパーティー「デパートメントH」で初演された後に国内外の国際展や美術館で発表されてきた。2006年に女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻を卒業。2014年には第17回岡本太郎現代芸術賞で岡本敏子賞を受賞。その後も『六本木アートナイト2016』(六本木ヒルズ A/D gallery)、『TAG: Proposals on Queer Play and the Ways Forward』(ペンシルヴァニア大学/ICA、2018)、『第6回アテネ・ビエンナーレ』(Banakeios Library、2018)、『Dark Mofo 2019』(Avalon Theatre/MONA、ホバート、オーストラリア、2019)、『あいちトリエンナーレ2019 情の時代』(愛知県芸術劇場)、『Slaughterhouse17』(Match Gallery/MGML、リュブリャナ、2019)、『Cycle of L』(高知県美術館、2020)などがある。

サエボーグは、その活動初期から人間と家畜の関係を劇画化したパフォーマンスで、屠殺やケア、命の再生産や消費にまつわる生命と感情をめぐるポリティクスを扱ってきた。玩具を連想させる鮮やかな色のラテックスのコスチュームや舞台装置は、生と死という普遍的で「重い」主題に相反する「明るさ」や「軽さ」といった感覚を鑑賞者に与えるが、同時に動物の生命を消費財として扱う人間の無邪気な残酷さをも想起させる。彫刻としての身体やパブリックパフォーマンスを含むその作品は、象徴性、挑発、痛烈な批評、伝染性のダイナミズムに満ちており、また、ボディスーツによって拘束され、不自由になったパフォーマーの身体が必然的に「ケア」されるようになるという構造をポジティブなものとして捉える視点は、強さと弱さ、支える側と支えられる側、といった固定概念を問いなおす。今回の選考では、作家が社会的包摂活動に長くコミットし、その活動に強く関連づけられたあらゆる生命を平等に尊重しようとする制作態度や作品に、社会が真の多様化を目指すにあたり、多くの人々に共有されうるものを見て取ることができると評価された。

 


サエボーグ「Cycle of L」公演風景、高知県立美術館、2020年 Photo: 釣井泰輔


サエボーグ「東京レインボープライド2014『Slaughterhouse-10』」公演風景、代々木、渋谷、原宿を走行、2014年 Photo: 斉藤芳樹

 

Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)は、2018年に東京都とトーキョーアーツアンドスペースが中堅アーティストの海外展開を含む更なる飛躍の促進を目的に設立した現代美術の賞。受賞者には、賞金300万円のほか、海外での活動支援(上限200万円)、東京都現代美術館での展覧会の機会、日英表記のモノグラフの作成など、複数年に渡る継続的な支援が提供される。また、本年よりアーティストへの支援をより充実させるため、海外活動支援の充実や海外発信支援の強化などの見直しを行ない、支援期間の延長を決定した。選考委員を務めたのは、ソフィア・ヘルナンデス・チョン・クイ(クンストインスティテュート・メリー ディレクター)、高橋瑞木(CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)エグゼクティブディレクター兼チーフキュレーター)、キャロル・インハ・ルー(北京インサイドアウト美術館ディレクター)、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)、近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター)の6名。選考委員長のキャロル・インハ・ルーは、選考委員会ではスタジオ訪問を選考の重要な判断材料のひとつとして捉えており、「TCAAチームの優れた段取りのおかげで、実際に現地を訪問した選考委員も、オンライン参加の選考委員も、作家の創作活動について総合的に把握し、理解を深めることができた」と述べた。そして、スタジオ訪問におけるやりとりや深い関わりが、「受賞が誰になるのかという最終結果を決めるための手段だけではなく、選考委員にとって有意義な学びの場となっている。また、アーティストにとっても同様であることを願う」とその重要性を強調した。

 

Tokyo Contemporary Art Award
https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/
授賞式|2022年3月20日(日)14:00-14:30
受賞記念シンポジウム|2022年3月20日(日)14:40-16:10
会場:東京都現代美術館 地下2階講堂
※入場無料・要事前申込・先着順。オンライン配信あり(予約不要)
※申込方法やシンポジウムの内容など、詳細は公式ウェブサイトにて公開。

 


歴代受賞者
2021–2023|志賀理江子、竹内公太
2020–2022|藤井光、山城知佳子
2019–2021|風間サチコ、下道基行

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