Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022

2020年2月28日、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペースは、藤井光と山城知佳子をTokyo Contemporary Art Award(TCAA)2020-2022の受賞者として発表した。

TCAAは中堅アーティストを対象に海外での展開も含め、更なる飛躍を促すことを目的に、東京都とトーキョーアーツアンドスペースが2018年に設立し、昨年発表された初代受賞者には風間サチコと下道基行が選ばれている。最適な時期に最善の支援内容を提供する必要性を重視し、受賞者には賞金300万円のほか、海外での制作活動支援、東京都現代美術館での展覧会の機会、日英表記のモノグラフの作成など、2年間にわたる継続的な支援が提供される。

 


藤井光《核と物》2019年


藤井光《第一の真実》2018年

 

藤井光(1976年東京都生まれ)は、「芸術は社会と歴史と密接に関わりを持って生成される」という考え方のもと、さまざまな国や地域固有の文化や歴史を、綿密なリサーチやフィールドワークを通じて検証し、同時代の社会課題に応答する作品を発表している。各分野の専門家との領域横断的かつ芸術的協働をもたらす交点としてのワークショップを企画し、そこで参加者とともに歴史的事象を再演する「リエナクトメント」の手法をはじめ、過去と現代を創造的につなぎ、歴史や社会の不可視な領域を構造的に批評する試みを行なう。藤井は1995年に渡仏し、2004年にパリ第8大学美学・芸術第三博士課程DEAを修了。近年は「リエナクトメント」の手法を採用した《日本人を演じる》で日産アートアワード2017を受賞。2019年には3.1独立運動から100年を迎えてソウル市立美術館で企画された『Zero Gravity World』でベトナム出身の日本在住者が2.8独立宣言を読む《2.8独立宣言書|日本語で朗読する》を発表。同年の『あいちトリエンナーレ2019:情の時代』では、日本統治下の台湾で製作された国策プロパガンダ映画を、愛知県内で学び働く若い外国人が「再演」した映像インスタレーション《無情》を発表した。また、昨年はパリのカディストにて個展『核と物』を開催し、今後開幕予定の東京都現代美術館とカディスト・アート・ファウンデーションとの共同企画展『もつれるものたち』への参加も決まっている。

本賞の選考に際し、これまでの作品に一貫する歴史的な事象や忘却された記憶を、映像を通じて現代の私たちが見る作品として昇華させる明晰な方法論を持ち、それが美的な質を備えている点が評価された。同時に、新作の提案において、戦後史に作家自身の過去を通して向き合う主観的なアプローチを採用するという、新たな展開への期待が制作活動の支援に適切な時機と判断された。

 


山城知佳子《チンビン・ウェスタン 家族の表象》2019年 ©️ Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates


山城知佳子《土の人》2016年版、協力:あいちトリエンナーレ2016 ©️ Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

 

山城知佳子(1976年沖縄県生まれ)は、出身地である沖縄の地理的政治的状況と歴史を制作背景に、東アジア地域で取り残された人々の声、体、魂を探りつつ、アイデンティティ、生と死の境界、歴史的記憶の移り変わりをテーマに制作活動を行なう。その詩的イメージとストーリーテリングを特徴とする映像は、複数の意味をイメージと鑑賞者の間に生み出し、時にファウンドフッテージの再活用、ボイスパフォーマーの採用、マルチチャンネルのスクリーンの使用など、さまざまな手法を効果的に使い、映像の潜在性と映像におけるパフォーマンスの可能性を掘り下げている。山城は2002年に沖縄県立芸術大学大学院環境造形専攻を修了。近年は、2016年に沖縄と済州島を舞台に声/音を効果的に使った映像インスタレーション《土の人》を『あいちトリエンナーレ2016:虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅』で発表し、2018年には同作の劇場版で第64回オーバーハウゼン国際短編映画祭でゾンタ賞を受賞。2018年の京都国際舞台芸術祭では京都芸術センターで展示《土の人》と新作パフォーマンス《あなたをくぐり抜けて―海底でなびく 土底でひびく あなたのカラダを くぐり抜けて―》を発表。昨年は、国立新美術館の企画展『話しているのは誰? 現代美術に潜む文学』で辺野古をめぐるふたつの家族の物語を中心に描いた新作《チンビン・ウェスタン 家族の表象》を発表している。

本賞の選考に際し、作家自身の身体によって主題を内面化した視点から歴史の問題を扱う表現の独自性の高さが評価された。また、これまで試してきた身体表現をより大きなスケールで作品化する新しい形式を獲得し、沖縄の問題にある普遍性を捉え、沖縄以外のトピックへと関心を拡げていくタイミングにおいて、国外の美術関係者との交流が作家のさらなる展開を後押しする機会になると判断された。

TCAAの選考プロセスは、国内外の有識者からなる選考委員に公募者を含む候補アーティストの推薦を依頼、議論を通じて最終候補を決定する。最終候補となったアーティストの事前調査、スタジオ訪問などを実施し、アーティストの思考や作品表現、キャリアステージへの理解を深めた上で最終審査を行ない、受賞者2名を決定する。TCAA 2020-2022の選考委員は前回と同じく、神谷幸江(ジャパン・ソサエティー、ニューヨーク ギャラリー・ディレクター)、住友文彦(アーツ前橋 館長/東京藝術大学大学院 准教授)、ドリュン・チョン(M+ 副館長/チーフ・キュレーター)、マリア・リンド(キュレーター、ライター、エデュケーター)、キャロル・インハ・ルー(北京インサイドアウト美術館 ディレクター)、近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラム・ディレクター)が務めた。最終選考は、コロナウィルスの流布により複数の選考委員の日本への渡航を見合わせながらも、インターネットをつなげてすべての選考プロセスを共有した。選考委員長の神谷幸江は「ネットという通信手段により距離による壁を越え、共有しコミュニケーションを深めることが叶うことを確認できた一方、疾病や災害も含む想定外の状況変化により、容易かった他国間の行き来や体験の共有は簡単に遮断されてしまうことも痛感することとなった」とコメントを残している。なお、授賞式の詳細は、後日、公式ウェブサイトにて発表予定。

 

Tokyo Contemporary Art Award
https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/


 


 

歴代受賞者
2019-2021|風間サチコ、下道基行

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