ターナー賞2021


Array Collective are announced as the winner of Turner Prize 2021. photo by Matt Alexander

 

2021年12月1日、世界有数の現代美術賞として毎年国際的な注目を集めるターナー賞の本年度の受賞者に、ベルファストを拠点に活動する11人のアーティストによるアレイ・コレクティブが選ばれた。イングランド中部、コヴェントリーにあるハーバート美術博物館で開かれた授賞式では、プレゼンターを務めた歌手のポーリーン・ブラックからアレイ・コレクティブに賞金25,000ポンド(約376万円)が授与された。アレイ・コレクティブをはじめ、最終候補に選ばれたブラック・オブシディアン・サウンド・システム、クッキング・セクションズ、ジェントル/ラディカル、プロジェクト・アート・ワークスによる展覧会は、同美術博物館で2022年1月12日まで開催している。

昨年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、例年より多くのアーティストの活動を支援するという判断を下し、10人/組のアーティストや団体にそれぞれ10,000ポンドを助成する「ターナー・バーサリー」が実施された。過去1年間という選考対象の期間に大多数のアーティストが公の場で展覧会を開くことができなかった本年度は、社会の改善や変革のためにアートを用いて、コミュニティと密接な協働を継続してきたアーティスト・コレクティブの実践が、長引くコロナ禍において改めて評価され、ターナー賞史上初めて、最終候補すべてをアーティスト・コレクティブやアーティスト主導のプロジェクトが占めることとなった。

 


Array Collective, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by Doug Peters


Array Collective, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by David Levene

 

北アイルランドを拠点とするアーティストとして同賞初の受賞者となったアレイ・コレクティブ(Array Collective)は、リプロダクティブ・ライツ、ジェンダー不平等、ジェントリフィケーションなど、さまざまな社会政治的問題に応答するために、2016年から市民運動への参加や公共空間への介入における協働的なアクションを積極的に展開している。ユーモアとDIY的なアプローチを特徴とするアレイ・コレクティブの活動は、バナーやプラカードの制作やワークショップ、路上でのパフォーマンス、専門家やアクティビストを招いたレクチャーの企画など多岐にわたり、そのような活動を通じて北アイルランドの伝統的なアイデンティティの再考を試みている。

ターナー賞の展覧会のための新作《The Druithaib’s Ball》(2021)では、古代ケルトの儀式の場を参照したインスタレーションと、アイルランド由来の無許可でアルコール飲料を提供するパブ「シビーン」を設えた。架空のシビーンでは、過去に企画した同名イベントを元に制作した映像作品や北アイルランドの映像製作機関「北アイルランド・スクリーン」のデジタル・フィルム・アーカイブを上映、さまざまな抗議運動のバナーを天井に張り巡らせるなど、トラウマ、ダーク・ユーモア、閉塞感、解放感といったものが共存する空間をつくりあげた。審査委員会は、アレイ・コレクティブの北アイルランドに迫る差し迫った社会政治的問題に対する、ユーモアと真剣さと美を伴う、希望に満ち溢れたダイナミックな活動をターナー賞に値するものと評価し、その活動や価値観を歓待の雰囲気を持った没入型の展示空間として見事に具現化したと称賛した。審査員を務めたのは、アーロン・セザール(デルフィナ財団ディレクター)、キム・マッカリース(グランド・ユニオン プログラム・ディレクター)、ラッセル・トーヴィー(俳優)、ゾーイ・ウィットリー(チゼンヘールギャラリー ディレクター)、そして、審査委員長のアレックス・ファーカーソン(テート・ブリテン館長)。

 


Array Collective, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by David Levene


Array Collective, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by David Levene

 

ターナー賞は1984年の創設以来、時代に応じて形を変えながら40年近くにわたって、イギリスの現代美術の発展に貢献するとともに、現代美術に対する幅広い関心を生み出してきた。現在はイギリス生まれ、あるいはイギリスを拠点に活動するアーティスト/アーティスト・コレクティブを選考対象に、前年の展覧会を含む活動実績により最終候補を選出、同年に最終候補による展覧会を開催し、受賞者を決定する形式を採用している。2017年に1991年から採用されていた年齢制限を撤廃したことで、同国におけるブラック・アーツ・ムーブメントの先駆的存在であるルバイナ・ヒミッドが62歳という史上最高齢で受賞したり、2019年には、Brexitをはじめ世界各地で政治的危機が叫ばれ社会の分断が危ぶまれるなかで、連帯を呼びかけるメッセージを発するために最終候補4名がひとつのコレクティブを形成し、共同受賞を実現したりするなど、単なる美術賞の枠を越えたメッセージを美術界および社会に提示している。2011年以降は最終候補による展覧会と授賞式を、ロンドンのテート・ブリテンとロンドン以外の都市の美術機関で隔年毎に開催してきたが、来年はテート・リバプールでの開催が決定している。

 

ターナー賞https://www.tate.org.uk/art/turner-prize

 


Black Obsidian Sound System, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by David Levene


Cooking Sections, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by Doug Peters


Gentle/Radical, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by David Levene


Project Art Works Collective, Installation view “Turner Prize 2021”, Herbert Art Gallery & Music, Coventry, England, 2021 photo by Doug Peters

 


 

歴代受賞者および最終候補
2020|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により中止。代わりに「ターナー・バーサリー」を実施。アリカ、リズ・ジョンソン・アルトゥール、オリート・アシェリー、シャワンダ・コルベット、ジェイミー・クルー、ショーン・エドワーズ、シゼル・マイネッヒ・ハンセン、イマ=アバシ・オコン、イムラン・ペレッタ、アルベルタ・ウィットル
2019|ローレンス・アブ・ハムダン、ヘレン・カモック、オスカー・ムリーロ、タイ・シャニ(※最終候補4名がひとつのコレクティブとして共同受賞)
2018|シャーロット・プロジャー、フォレンジック・アーキテクチャー、ナイーム・モハイエメン、ルーク・ウィリス・トンプソン
2017|ルバイナ・ヒミッド、ハーヴィン・アンダーソン、アンドレア・ビュットナー、ロザリンド・ナシャシャビ
2016|ヘレン・マーティン、マイケル・ディーン、アンテア・ハミルトン、ジョセフィン・プライド
2015|アッセンブル、ボニー・カンプリン、ジャニス・カーベル、ニコル・ヴァーマース
2014|ダンカン・キャンベル、シアラ・フィリップス、ジェームス・リチャーズ、トリス・ヴォナ=ミッシェル
2013|ロール・プルーヴォ、リネッテ・イアドム・ボアキエ、デヴィッド・シュリグリー、ティノ・セーガル
2012|エリザベス・プライス、スパルタカス・チェットウィン、ルーク・ファウラー、ポール・ノーブル
2011|マーティン・ボイス、カーラ・ブラック、ヒラリー・ロイド、ジョージ・ショウ
2010|スーザン・フィリップス、デクスター・ダルウッド、アンヘラ・デ・ラ・クルス、オトリス・グループ
2009|リチャード・ライト、エンリコ・デイヴィット、ロジャー・ヒオンズ、ルーシー・スケア
2008|マーク・レッキー、ルナ・イスラム、ゴシュカ・マキュガ、キャシー・ウィルクス
2007|マーク・ウォリンジャー、ザリーナ・ビムジ、ネイサン・コーリー、マイク・ネルソン
2006|トマ・アブツ、フィル・コリンズ、マーク・ティッチナー、レベッカ・ウォーレン
2005|サイモン・スターリング、ダレン・アーモンド、ジリアン・カーネギー、ジム・ランビー
2004|ジェレミー・デラー、クトゥルー・アタマン、ラングランズ&ベル、インカ・ショニバレ
2003|グレイソン・ペリー、ジェイク&ディノス・チャップマン、ウィリー・ドハティ、アーニャ・ガラッチオ
2002|キース・タイソン、フィオナ・バナー、リアム・ギリック、キャサリン・ヤス
2001|マーティン・クリード、リチャード・ビリンガム、アイザック・ジュリアン、マイク・ネルソン
2000|ヴォルフガング・ティルマンス、グレン・ブラウン、マイケル・レデッカー、高橋知子
1999|スティーヴ・マックイーン、トレイシー・エミン、スティーブン・ピピン、ジェーン&ルイーズ・ウィルソン
1998|クリス・オフィリ、タシタ・ディーン、キャシー・ド・モンショー、サム・テイラー=ウッド
1997|ジリアン・ウェアリング、クリスティン・ボーランド、アンジェラ・ブロック、コーネリア・パーカー
1996|ダグラス・ゴードン、クレイギー・ホースフィールド、ゲイリー・ヒューム、サイモン・パターソン
1995|デミアン・ハースト、モナ・ハトゥム、カラム・イネス、マーク・ウォリンジャー
1994|アントニー・ゴームリー、ウィリー・ドハティ、ピーター・ドイグ、シラゼー・ハウシャリー
1993|レイチェル・ホワイトリード、ハンナ・コリンズ、ヴォン・パオパニー、ショーン・スカリー
1992|グレンヴィル・デイヴィー、デミアン・ハースト、デイヴィッド・トレムレット、アリソン・ワイルディング
1991|アニッシュ・カプーア、イアン・ダヴェンポート、フィオナ・レイ、レイチェル・ホワイトリード
1990|中止
1989|リチャード・ロング、ジリアン・エアズ、ルシアン・フロイド、ジェゼッペ・ペノーネ、ポーラ・レゴ、ショーン・スカリー、リチャード・ウィルソン
1988|トニー・クラッグ、ルシアン・フロイド、リチャード・ハミルトン、デイヴィッド・マック、ボイド・ウェッブ、アリソン・ワイルディング、リチャード・ウィルソン
1987|リチャード・ディーコン、パトリック・コールフィールド、ヘレン・チャドウィック、リチャード・ロング、デクラン・マクゴナグル、テレーズ・オウルトン
1986|ギルバート&ジョージ、アート&ランゲージ(マイケル・ボールドウィン、メル・ラムズデン)、ヴィクター・バーギン、デレク・ジャーマン、スティーヴン・マッケンナ、ビル・ウッドロー
1985|ハワード・ホジキン、テリー・アトキンソン、トニー・クラッグ、イアン・ハミルトン・フィンレイ、ミレナ・カリノフスカ、ジョン・ウォーカー
1984|マルコム・モーリー、リチャード・ディーコン、ギルバート&ジョージ、ハワード・ホジキン、リチャード・ロング

Copyrighted Image