ターナー賞2018


Charlotte Prodger Portrait (2017) Photography ©︎Emile Holba 2018

 

2018年12月4日、ロンドンのテート・ブリテンにて、イギリスに活動拠点を置くアーティストを対象とした現代美術賞であるターナー賞の授賞式が行なわれ、本年度の受賞者に、グラスゴーを拠点に活動するシャーロット・プロジャーが選出された。プロジャーには賞金25,000ポンド(約360万円)、プロジャーのほか、最終候補に残ったフォレンジック・アーキテクチャー、ナイーム・モハイエメン、ルーク・ウィリス・トンプソンにはそれぞれ賞金5,000ポンドが授与された。最終候補4組による展覧会は、テート・ブリテンで2018年1月6日まで引き続き開催している。

本年度のプレゼンターを務めた作家のチママンダ・ンゴズィ・アディーチェに名前を呼ばれ、登壇したシャーロット・プロジャーは、「スコットランド政府による高等教育の無償化、制作費だけでなく生活費に対するアーティストへの奨学金や助成金無くしてはこの場に立つことはなかっただろう」と同国の美術への財政的支援への感謝を述べるとともに、クィア・アイデンティティを持つ自伝的な内容を扱う自身の制作活動をさまざまな形で支える友人たちへの感謝の意を述べた。

シャーロット・プロジャー(1974年ボーンマス生まれ)は、iPhoneで撮影した素材のみで全編を構成した映像作品「BRIDGIT」が注目されているが、その選択は20年以上に及ぶ制作活動において、絶え間なく変化を続ける映像フォーマットに対する探求の延長線上に位置付けられる。同じく対象作品のひとつ「Stoneymollan Trail」は、1999年から2015年の間に撮影した個人的な映像素材を繋ぎ合わせた映像作品で、個人史のみならず近年の映像のフォーマットの変遷も窺えるものとなっている。近年は、その映像実践を通じて、身体、風景、アイデンティティ、時間の複雑な緊張関係を探っている。近年の主な個展に『Subtotal』(スカルプチャー・センター、ニューヨーク、2017)、『Charlotte Prodger』(クンストフェライン・デュッセルドルフ、2016)、『8004-8019』(Spike Island、ブリストル、2015)、企画展に『Always Different, Always the Same: An essay on Art and Systems』(ビュンドナー美術館、クール、スイス、2018)、『Coming Out: Sexuality, Gender and Identity』(バーミンガム美術館、2017)、『Weight of Data』(テート・ブリテン、2015)などがある。2014年にはグラスゴー・フィルム・フェスティバルでマーガレット・テイト・アワードを受賞。2019年の第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ・スコットランド館での個展が決定している。

 


Charlotte Prodger BRIDGIT (2016) Single channel video with sound, 32 Minutes. Coutesy of the artist, Koppe Astner, Glasgow and Hollybush Gardens, London. Video Still.


Charlotte Prodger Stoneymollan Trail (2015) Single channel video with sound, 43 Minutes. Coutesy of the artist, Koppe Astner, Glasgow and Hollybush Gardens, London. Video Still.

 

映像を中心に制作するアーティストが最終候補を占めたことが話題となった本年度だったが、いずれの候補もそれぞれの手法を用いて、政治問題や人権問題を扱っている点にも注目が集まった(各最終候補のプロフィールと選出対象となった展覧会については、過去記事を参照)。また、本年度の審査は、審査委員長のテート・ブリテン ディレクターのアレックス・ファーカソンをはじめ、美術批評家でArtReview誌編集委員のオリヴァー・バッシアーノ、クンストハレ・バーゼル ディレクターのエレナ・フィリポヴィッチ、ホルト-スミッソン財団 エグゼクティブ・ディレクターのリサ・ル・ファーブル、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授で小説家のトム・マッカーシーが務めた。

1984年に設立されたターナー賞は、過去1年間の展覧会などの活動実績を基に、イギリスを拠点に活動するすべてのアーティストを対象としている。50歳未満という条件が撤廃された昨年度は、同国におけるブラック・アーツ・ムーブメントの先駆的存在として人種やジェンダーの問題を扱った活動で知られるルバイナ・ヒミッドが、62歳という同賞史上最高齢での受賞を果たした。なお、最終候補4組による展覧会は、2011年以降、テート・ブリテンとロンドン以外の都市の美術機関を隔年で会場としており、2019年の会場はケント州マーゲイトのターナー・コンテンポラリーに決定している。

 

ターナー賞https://www.tate.org.uk/art/turner-prize

 

ターナー賞2018
2018年9月26日(水)-2019年1月6日(日)
テート・ブリテン
https://www.tate.org.uk/

 

 


 

歴代受賞者
2017|ルバイナ・ヒミッド
2016|ヘレン・マーティン
2015|アッセンブル
2014|ダンカン・キャンベル
2013|ロール・プルーヴォ
2012|エリザベス・プライス
2011|マーティン・ボイス
2010|スーザン・フィリップス
2009|リチャード・ライト
2008|マーク・レッキー
2007|マーク・ウォリンジャー
2006|トマ・アブツ
2005|サイモン・スターリング
2004|ジェレミー・デラー
2003|グレイソン・ペリー
2002|キース・タイソン
2001|マーティン・クリード
2000|ヴォルフガング・ティルマンス
1999|スティーヴ・マックイーン
1998|クリス・オフィリ
1997|ジリアン・ウェアリング
1996|ダグラス・ゴードン
1995|デミアン・ハースト
1994|アントニー・ゴームリー
1993|レイチェル・ホワイトリード
1992|グレンヴィル・デイヴィー
1991|アニッシュ・カプーア
1990|中止
1989|リチャード・ロング
1988|トニー・クラッグ
1987|リチャード・ディーコン
1986|ギルバート&ジョージ
1985|ハワード・ホジキン
1984|マルコム・モーリー

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