奈良原一高『静止した時間』@ タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム


© Narahara Ikko Archives / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film, Tokyo

奈良原一高『静止した時間』
2015年6月27日(土)-8月8日(土)
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム
http://www.takaishiigallery.com/
開廊時間:11:00-19:00
休廊日:日、月、祝
※オープニング・レセプション:6月27日(土)18:00-20:00

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでは、日本写真史における戦後新世代を代表する写真家のひとりとして知られる、奈良原一高の個展『静止した時間』を開催する。

奈良原一高は1931年福岡県生まれ。早稲田大学大学院在学中に軍艦島と桜島の黒神村を舞台にした作品を発表した個展『人間の土地』で頭角をあらわすと、和歌山の女性刑務所、北海道の修道院をそれぞれ取材し二部構成でまとめた「王国」で日本写真批評家協会賞新人賞を獲得する。59年には東松照明、細江英公らとセルフ・エージェンシー「VIVO」を設立する(61年解散)。その後、パリ(62-65年)、ニューヨーク(70-74年)と拠点を移しながら世界各地を取材し、数多くの展覧会を開催している。近年の主な個展に、『Ikko Narahara』(ヨーロッパ写真美術館、パリ、2002-2003年)、『時空の鏡:シンクロニシティ』(東京都写真美術館、2004年)、『王国』(東京国立近代美術館、2014-2015年)など。

本展では、奈良原が62年から3年間滞在したヨーロッパで撮影した作品をまとめた写真集『ヨーロッパ・静止した時間』(1967年)収録の約15点を展示する。64年に「ヨーロッパ64年」として『アサヒカメラ』、「静止した時間」として『カメラ毎日』に発表したものを詩集を編むように編集した同写真集は、日本写真批評家協会作家賞、芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞を受賞している。

リュクサンブール公園の黄ばんで重く垂れたマロニエの並木路を恋人たちはだまって歩いていた。20代のあとを30代の男と女が……、30代のあとを50代の2人がと……その姿は老年にいたるまで、まるでひとつの相似形の流れを見るように腕組みかわしたまま、ぼくの眼の前に現われては消えていった。ぼくはわずか10分間のあいだに人間の一生の姿を見せられている思いがした。そして彼等が通り過ぎた、その後に来る死の時間を想った。(中略)たち現われては消えてゆく彼らの歩みは、一枚一枚の写真が近づいて来るみたいに、彼等はあまりにも遠い時間の吹き抜ける瞬間に落ちこんでしまっているようだった。僕はこのようなよみがえるべき大きな時間の一点を<静止した時間>と呼んだ。それは果てしない予感に迫られた時間とでもいえようか、そこには悲しみといったような感情も、孤独といった言葉もふさわしくなかった。
奈良原一高「手のなかの空」『ヨーロッパ・静止した時間』鹿島出版会、1967年、pp.186-187


© Narahara Ikko Archives / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film, Tokyo

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