「望郷―TOKIORE(I)MIX」 山口 晃展 プレスカンファレンスインタビュー

「望郷―TOKIORE(I)MIX」 山口 晃展
プレスカンファレンスインタビュー
2012年2月10日(金) メゾンエルメス8Fフォーラム

エルメス(以下H): 山口晃さんによる今回の展覧会、本物のような電信柱もあり、仕掛け小屋のような部屋もありという、非常にウィットに富む、山口さんらしい展覧会となっております。
 タイトルは「望郷-TOKIORE(I)MIX」です。このTOKIORE(I)MIXという言葉のなかには、「東京リミックス」、「時折ミックス」、「時をリミックス」というような言葉遊びも入ったタイトルとなっています。まずは山口さんに、今回の作品のこと、タイトルのことなど、自由にお話しいただきたいと思います。

山口晃: 本日はお忙しい中、足をお運びいただきましてありがとうございます。絵描きをしております山口晃と申します。
 ご覧いただいたようなものができあがりました。電柱は、私が図面を書いて、工房に丸投げをいたしますと、頭上にあんなものができあがっていました。ああ、人に投げるというのはこんなに楽なのか、というのを改めて確認した次第です。それに引き換え自分で描くほうは、どうして描いても描いてもこんなにキャンバスが白いんだろう、と。キャンバスの白さをあらためて認識した次第です。・・・こういうことではなく、作品のことを話すんですよね。
 昨今は展覧会にタイトルをつけるのが流行っておりまして、なんぞつけろということでつけております。1年前に銀座の三越で展覧会をやったときも「東京旅ノ介」という題でしたので、また東京もどうかと思ったんですが、また東京にしてしまいました。ちょっと格好よく横文字で、「TOKIORE(I)MIX」なんてどうだろうと。さきほど、言葉遊びというご説明をいただきましたが、まさに遊びで、実はそんなに意味がないのですね。
 今回、三つの作品を作りました。電柱と仕掛け小屋と絵です。実は今回一番作りたかったのがこの小屋です。私、子どもの頃、豊島園という、練馬のほうにある遊園地にまいりまして、西洋のお化け館という2階建ての屋敷に行くとそこの一隅にある斜めの部屋がございました。皆さんご存じかどうか、あそこに入ると、めくるめく感覚を得られまして。床が斜めになっているだけなんですが、そこに入ると、あたかも床が動いているかのような、異常なぐらつきを感じまして・・・。あれ、ここはどういう仕掛けなのかしらって、外に出てみますと、床はちっとも動いてないのですね。あの感覚が懐かしくて作ってみたという、本当にそれだけです。ああいうものを作るためにはいろんな理屈を言って、エルメスの方を説得しないといけないのですが、結局は「作りたかったんだもん」、という速さのある言葉になってしまう。
 今、行きますと、もう豊島園にはないんですね。ないどころか隣にあったアフリカという豊島園屈指のアトラクションも壊されてしまっています。なぜあれを壊すんでしょう・・・。私がもう一度味わいたかった非常に懐旧的な思いについてですが、それをもう一度味わおうと、新たに作りだしますと、非常に建設的と言いますか手間も智恵も必要なわけです。「望郷」っていう言葉自体は後ろ向きな匂いがするのですが、「望郷」の「望」だけ取りだしますと、あれは希望の「望」であり、望むということなんですね。昔あったものを望んで、もう一度作り直すときに、同じに作ったらしょうがないので、あの時の感動曲線の再現になるのが一番大事かなと思っていました。私がいつも制作しますのも、懐かしいような、古めかしいような、体裁をとってはいるんですが、必ずそれそのものを目指したりしない。先達の目指したところを目指すという。古今見てみますと、意外と二番煎じというのは多いのです。芭蕉で言えば、奥の細道に行ったのは、あれは本当にミーハーな、歌枕を訪ね歩く旅なんですね。それが芭蕉のオリジナルとして後世に残っている。絵で言うと、セザンヌがあります。セザンヌはプッサンが好きで、アトリエに行くとプッサンの複製画が飾ってあるんです。セザンヌは自然を使ってプッサンをやり直すっていうようなことをやっていて、それが二番煎じにならないでオリジナルになっているというのが、含むところの大きい出来事だなと思いますね。若干古めかしいことをやっているけど、古いものとしてさらされて、意味がもうつけ足し尽くされてしまったもの。むしろ飽和していることによって、返って、変な主役が入り込む余地のないもの。手あかがつきまくっているがゆえに、さらに新しい菌がつかないもの。発酵させてさらに雑菌がつくのを防ぐということ・・・。すみません、これぐらいにいたします。
 そんなこんなで古い体裁とってはいますが、それが現代において、少しでも意義のあるものになったら、と思って制作いたしました。
 
 電柱はご覧いただければわかる通り、ちょっとSFチックになっています。電柱自体がもはや、片足をノスタルジーに突っ込んでいるように、街中ではどんどんあれを引っこ抜いて、地面に埋めてっていうのが進んでいるときに、それを作ってどうするんだという。完全に、変なベクトルが交差している、というようなものを作ってみました。

 絵の方はですね、私、雪舟がとても好きでして、何とか雪舟ができないかなと思ったんですけれども、殺生なことになってしまいました。なかなか、まだ道が遠いという状態でございますが、そういった中途の人間に、お叱りなり、お教えいただけたらと思います。そんな本日の展覧会でございます。

H:山口さん、ありがとうございました。

◆「望郷―TOKIORE(I)MIX」 山口 晃展

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