三瀬夏之介 

アートと呼ばざるをえないもの

取材・文:山岸かおる(編集部)  写真:永禮賢


『J』2009年(部分) 墨、胡粉、金粉、和紙、アクリル 250 x 400 cm

「新しい日本画」という括りで語られ、また自らもそれに対峙してきた作家が、今年、若手の現代美術作家の登竜門であるVOCA賞を受賞した。

「奈良で生まれ育ち、京都という古い町で絵を学び、日本画ブームのときには今あるべき日本画という『証拠』を作ろうと思っていたのですが、ちょっと頭でっかちになっていたしんどさもあり、そこから現代美術でも日本画でもない、奈良に住む自分がつくる自前の絵を描く、ということにたどり着きました。それが少しかたちにできてきたかなと思っています」

既成のジャンルには収まらない、自分の足下から必然的に立ち現れてくる表現を追求し、素材や技法、支持体そのもののあり方から問い直し、小さくちぎった紙にあらかじめ絵を描いたものを張り合わせていくというコラージュの手法を作り出した。これは多視点を導入し、自身を混乱させるという試みであり、空間に合わせて大きくすることも、小さく折り畳むこともできるという。

「高校野球やWBCにはいろいろな国や地域の代表が出てくるけれど、ルールは一定ですよね。そのなかで独特なフォームだけどすごいホームランを打つ、というのが理想で。独自の表現でありながら、現代美術の作品としても勝負できるものを作りたい」と語る。アートにおけるホームランは「絵を見た瞬間、腰を抜かすようなノックアウト」。言葉が追いついてこないような美術でしかできないもの、自分がいまいるローカルな場所で切実なものを表現したいという。

受賞作『J』では、アクリルや墨、胡粉、金属粉、自ら作った絵の具など複数の画材を用いている。また大仏の手やネッシー、UFOなど大小多様な要素が混在した画面に、光を表わす十字文様が無数にちりばめられている。

「ごちゃごちゃしているから整理したほうが良いとか、気持ちを反映しすぎているとか言われるんですけど、今はそれでいいと思っています。自分は現代のロマン主義者でしょう。最終的に人間は孤立無援なんですよね。芸術が人を救うなんて作家が言うのはおこがましすぎると思うんですが、でも僕の作品、キラキラしているでしょ。あれは最後にやる作業なのですが、なんとか世界を祝福したい。最終的には絵自体が光を放てばいいなと思っています」

奈良の高校で美術を教えていたが、この4月より山形にある東北芸術工科大学で日本画コースの教鞭を取っている。山形という土地から刺激を受け、そこから生成される新たな作品がどのようなものになるのか、期待したい。

みせ・なつのすけ
1973年、奈良県生まれ、山形県在住。99年、京都市立芸術大学大学院(絵画専攻)修了。2006年、五島記念文化賞美術新人賞受賞。同年、グループ展『MOTアニュアル2006 No Border「日本画」から/「日本画」へ』(東京都現代美術館)に参加。09年冬、佐藤美術館にて個展『冬の夏』を行う。2010年、第一生命ギャラリー(東京)での個展を予定している。

初出:『ART iT 第24号』(2009年6月発売)

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