未完の始まり:未来のヴンダーカンマー @ 豊田市美術館


 

未完の始まり:未来のヴンダーカンマー
2024年1月20日(土)-5月6日(月・祝)
豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/
開館時間:10:00–17:30 最終入館は閉館30分前まで
休館日:月(2/12、4/29、5/6は開館)
企画担当:能勢陽子(豊田市美術館学芸員)
出展作家:リウ・チュアン、タウス・マハチェヴァ、ガブリエル・リコ、田村友一郎、ヤン・ヴォー
展覧会URL:https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/wunderkammer/

 

豊田市美術館では、2024年4月26日に隣接地に総合博物館(設計:坂茂)が開館するにあたり、リウ・チュアン、タウス・マハチェヴァ、ガブリエル・リコ、田村友一郎、ヤン・ヴォーの実践とともに、改めてミュージアムと社会との関係や、展示における政治的・美学的意義を探る企画展「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」を開催する。

博物館や美術館など、ミュージアムの原型は、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパの王侯貴族の邸宅に設けられた「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」にあると言われる。絵画や彫刻に加え、動物の剥製や植物標本、地図や天球儀、東洋の陶磁器など、世界中からあらゆる美しいもの、珍しいものが集められた部屋は、見知らぬ広大な世界を覗き見ることができる、小さいながらも豊かな空想を刺激する空間であった。その後18世紀の啓蒙の時代に入ると、美術品や博物資料などの収集品の公開は、社会の進歩に貢献する教育的・道徳的意義を持つとの理念に基づいて、美術館や博物館が設立されるようになった。しかし、大航海時代の始まりとともに形成されたヴンダーカンマーには、集める側と集められる側の不均衡や異文化に対する好奇のまなざしも潜んでいた。21世紀の現在、植民地時代に収奪された遺物の返還や、白人男性を中心に編まれてきた美術史の再検討が進み、欧米を中心に形成されてきたミュージアムの見直しが世界中で進められている。

また、かつて「博物館行き」とは物の生命の終わりを意味していたが、近年の現代美術においては、文化人類学的思考や歴史研究的アプローチを取り入れることで、アーティストたちは事物を別の文脈に置き直したり、まったく異なるものと組み合わせることで、新たな意味を創り出している。本展に参加する5人のアーティストもまた、歴史や資料を調査・収集して、現代のテクノロジーを交えながら、時を超えた事物の編み直しを試みてきた。その実践は本展においても、国や地域のアイデンティティとはなにか、画一化していく世界のなかで伝統はどうなっていくのか、文化の真正性とはなにかを、未来に向けて問いかけるものとなる。

 


リウ・チュアン《リチウムの湖とポリフォニーの島Ⅱ》2023年 Courtesy of the artist


タウス・マハチェヴァ《Tsumikh(鷹にて)》2023年 Courtesy of the artist

 

リウ・チュアン(1978年中国湖北省生まれ)は、急激に変化する現代の中国の姿を映し出す表現を、映像、彫刻、インスタレーション、パフォーマンスと多岐に渡る手段で発表してきた。近年は、フィールドワークによる世界の周縁や都市のインフラストラクチャーの調査を踏まえ、サイエンスフィクション的な想像力が、地域固有の伝統や文化の未来の行方を占う映像作品を制作している。近年の主な展覧会に、アジア・アート・ビエンナーレ2019(台中)、「もつれるものたち」(東京都現代美術館、2020)。2023年には活動拠点の上海で個展「Lithium Lake and Island of Polyphony」(アンテナ・スペース)を開催した。本展には、エネルギーの獲得や情報の集積と連動するグローバル経済が世界を画一化していくなか、なお豊かで多様な文化的、民族的な声や音楽が存在することを示す最新映像作品《リチウムの湖とポリフォニーの島Ⅱ》(2023)を出品。

タウス・マハチェヴァ(1983年モスクワ生まれ)は、旧ソビエト連邦下にあったダゲスタン共和国の自身のルーツをもとに、近代以降の伝統のありか、文化の真正性、国家と結びつくアイデンティティに対する考察を、映像や彫刻、インスタレーションとして展開してきた。2017年にモスクワ市近代美術館で個展「Cloud Caught on a Mountain」を開催。そのほか近年の主な展覧会に、ヨコハマトリエンナーレ2020や第14回光州ビエンナーレ(2023)など。本展では、新作を含む映像のほか、彫刻、レリーフ、オブジェを展示。マハチェヴァの祖父であり、日本でも知られる詩人のラスール・ガムザートフの国民的詩人としての記録と私的な記憶の差異を浮かび上がらせながら、なにが公的な像を形成するのかを問う映像作品《Tsumikh(鷹にて)》(2023)も発表する。

 


ガブリエル・リコ《El Horóscopo de Jesús (Dan, Richard & Joseph) II》2023年 Photo: Keizo Kioku, Courtesy of the artist and Perrotin


田村友一郎《Ars》2017年

 

ガブリエル・リコ(1980年メキシコ、ラゴス・デ・モレ生まれ)は、動物の剥製、貝殻や枝などの個人的な思い出など、発見・収集した素材にネオン管などの日常的な物を組み合わせ、現在の人間と神話、また自然環境との新たな関係を探求している。2019年にはアスペン・アート・ミュージアム(アメリカ合衆国コロラド州)で個展「The Discipline of the Cave」、2023年にはペロタン東京にて個展「THE PROPAGATION OF TEURÁRI」を開催している。本展では、グアダラハラに拠点を置くリコが長く共同制作を行なってきたメキシコの先住民に捧げた作品を展示。動物崇拝に基づく鹿を取り入れた作品や、彼らの伝統的な技である毛糸絵やガラスビーズを用いた作品を展開し、現在の消費社会と神話を再び結びつける。

田村友一郎(1977年富山生まれ)は、土地固有の歴史や文化、大衆の関心、自身の興味に基づく幅広い題材から、ときに意外な方法でそれらを繋ぎ合わせ、映像を含むインスタレーションを制作してきた。逸脱や迂回にみえる制作過程を経て独自のナラティブを構築するその作品は、フィクション性やフェイク感のなかに、国家のヘゲモニーや文化的コンプレックスといった重要な問題を浮かび上がらせる。2018年に京都市立芸術大学@KCUAにて個展「叫び声/Hell Scream」を開催。そのほか主な展覧会に、国際芸術祭あいち2022やアジア・アート・ビエンナーレ2019(台中)。本展には、時空を超えた人類規模の技術の進展を扱う新作を出品する。

ヤン・ヴォー(1975年ヴェトナム、バリア生まれ)は、幼少時に家族とともにヴェトナムから逃れてデンマークで育った自身や家族の経験と、彼らの存在を否応なく翻弄する世界の覇権、そして欧米を中心とした文化の真正性の解体とその修復を連想させる作品を発表してきた。その特徴的な展示には、ギリシア彫刻やキリスト像などの美術品、木箱や椅子などの日用品、オークションで買い集められたヴェトナム戦争に関わる私物が、ときに直接的、ときに比喩的に、詩のごとく空間に配置される。「Danh Vo: Take My Breath Away」(ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ニューヨーク、アメリカ合衆国、2018)、「Noguchi for Danh Vo: Counterpoint」(M+パビリオン、香港、2018)、「ヤン・ヴォー ―ォヴ・ンヤ」(国立国際美術館、大阪、2020)、「Danh Vo」(ウィーン・セセッション、オーストリア、2021)などが近年の主な展覧会として挙げられる。本展では、自らが育てる庭の花々をiPhoneで撮影した写真を発表する。

 


ヤン・ヴォー ギュルデンホーフ、2023年10月 Photo: Nick Ash

 

関連イベント
出品作家によるトーク①
2024年1月20日(土)14:00–
登壇:タウス・マハチェヴァ(出品作家)、鴻野わか菜(ロシア現代美術・詩研究)
会場:豊田市美術館 講堂

出品作家によるトーク②
2024年1月21日(日)14:00–
登壇:リウ・チュアン(出品作家)
会場:豊田市美術館 講堂

出品作家によるトーク③
登壇:田村友一郎(出品作家)、ミラクルひかる(ものまねタレント)
開催日時、場所未定

担当学芸員によるスライドトーク
2024年1月28日(日)、2月17日(土)、3月30日(土)14:00–15:00
会場:豊田市美術館 講堂

※その他の関連プログラムは決まり次第、公式ウェブサイト等で発表

 


同時開催
新収蔵品展
2024年3月19日(火)-5月6日(月・祝)
豊田市美術館 展示室4、5

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