しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム @ 豊田市美術館


dot architects + contact Gonzo《GDP(Gonzo dot party)》アートエリアB1 2020年 photo: Ryo Yoshimi (参考図版)

 

しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム
2024年10月12日(土)-2025年2月16日(日)
豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/
開館時間:10:00–17:30 入場は閉館30分前まで
休館日:月(祝日の場合は開館)、12/28-1/17
展覧会担当:千葉真智子(豊田市美術館学芸員)、石田大祐(豊田市美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/anarchism_and_art

 

豊田市美術館では、制度化され、統治されることへの抵抗・逃走の姿勢=アナキズムに芸術の本来的な力を認め、芸術と社会に関わりながらも軽やかに抵抗・逃走し、あえて「しないでおく」ことの可能性も含めて、生き、創造する人々の実践を紹介する「しないでおく、こと。― 芸術と生のアナキズム」を開催する。

芸術=創造とは、いまだ了解されない認識や知覚の領野を拡張していく営みであり、ゆえに「芸術」として名づけられ、ひとつに回収されてしまうことへの抵抗をあらかじめ含んでいる。このことは、未知未踏の領野を取り込み制度化することで国⼟や資本を拡張してきた近代以降の思考自体への抵抗になぞらえることもできる。芸術を含むあらゆる場で、旧来の制度や差別への連帯闘争が試みられているが、小さな個別の差異を均してしまう危うさと隣り合わせにあるとも考えられる。この状況において、私たちの個々の表現や⽇常的な振る舞いは、いかにひとつに回収されることなく共存し、それでも抵抗の力を持ち続けることができるか、アナキズムの実践といえるそれぞれの試みを本展で紹介する。

 


ポール・シニャック《ポルトリュー、グールヴロ》1888年 ひろしま美術館蔵


ラースロー・モホイ=ナジ《アスコーナのオスカー・シュレンマー》1927年 東京都写真美術館蔵

 

展覧会は5章により構成される。第1章「新印象主義とアナキズム」では、アナキズムと美術との関わりを示す重要な出発点として、アナキズム運動が本格化した19世紀末にその思想に深くコミットした新印象主義の作家たち、カミーユ・ピサロポール・シニャックジョルジュ・スーラの作品を紹介。絵の具の混色を避け、全ての色彩を等しい単位で配置することで画面の均衡を図った方法論自体に、個々人の自由とその「調和」によるユートピア社会の実現をうたったアナキズム思想との親和性を見出す。

第2章「モンテ・ヴェリタのユートピア」では、19世紀末以降に都市生活から逃れ、さまざまな思想の持ち主たちが集いコミュニティを形成したスイス、アスコナの「モンテ・ヴェリタ(真理の山)」を拠点とした活動に注目する。第一次世界大戦前後にドイツで起こった新しい舞踊「ノイエ・タンツ」の理論的創始者であるルドルフ・フォン・ラバンが同地で舞踊学校を主宰し、ハンス&ゾフィー・トイバー=アルプ夫妻やフーゴ・バルらダダイストが集い、ヴァルター・グロピウスやラスロー・モホイ=ナジらバウハウスの作家たちが訪れるなど、芸術家やアナキスト、菜食主義者たちにとってのユートピアであったモンテ・ヴェリタの歴史的展開を資料と作品により紹介する。

第3章「シチュアシオニスト・インターナショナルとアスガー・ヨルン」では、デンマークを代表する作家であり、体制に与することなく広範な活動を展開したアスガー・ヨルンと、ヨルンがギー・ドゥボールらと共に1957年に結成したシチュアシオニスト・インターナショナルの実践を紹介する。第二次世界大戦後に急進する資本主義体制をかいくぐり日常の革命を試みたシチュアシオニスト・インターナショナルは、剽窃と引用、転用と漂流といった手法を用いながら、都市生活を読み替えていった。本章では、ヨルン美術館の協力のもと、ドゥボールとヨルンが協働で手がけた《Fin de Copenhague》《Memoire》や、蚤の市で入手した古い絵に加筆変更を加えるヨルンの〈modications〉絵画など11点の作品を展示する。

 


アスガー・ヨルン《甘い生活Ⅱ》1962年 ヨルン美術館蔵 ©Donation Jorn


集団行為《第3案》1978年

 

第4章「ロシアの集団行為」では、ソ連時代の1976年にアンドレイ・モナストィルスキーを中心に結成され、現在まで非公式芸術としてさまざまなアクションを展開し続けるロシアの集団行為を取り上げる。モスクワ郊外や自室を舞台に、正面から抵抗することなく、体制の外側で非公開、非公式に稀有な実践を続けてきた集団行為は、2011年のヴェネツィア・ビエンナーレでロシア館代表となり注目を浴びたが、膨大なロシア語テキストを伴うため日本ではほとんど紹介されてこなかった。本章では、後期ソ連の非公式芸術研究者の生熊源一の協力の下、集団行為の重要なアクションを写真、映像、訳出したテキストなどにより紹介。また、初期の重要な参加者のひとりであったイリヤ・カバコフの作品もあわせて展示する。

第5章「制作と生活と展示」では、ドイツ、ベルリンを拠点に活動し、家事労働と創造の間を行き来する作品を制作したマルガレーテ・ラスペの多面的な活動に改めて注目する。ラスペは自宅を開放し、ウィーン・アクショニスムやフルクサスの作家に場を提供し自主企画展を運営した。本章では、昨年亡くなったラスペのインスタレーションを再現する。また、建築家集団ドットアーキテクツ、アーティスト集団Contact GONZOなどが入居する大阪、北加賀屋の協働スタジオ「コーポ北加賀屋」、ユーモアと毒をもって体制と大衆の関係と捻れを問い続ける作品を制作する芸術家集団オル太、移動しながら生活と制作と発表とを渾然一体として続ける大木裕之の3組が、本展のためにインスタレーションを制作する。

会期中には、講演会、展示室でのゲストトーク、パフォーマンス、担当学芸員によるギャラリートークなどの関連イベントを開催予定。詳細は公式ウェブサイトにて後日発表される。

 


マルガレーテ・ラスペ《明日も、明日も、そしてまた明日も、スウィングさせる!》1974年 ©️Deutsche Kinemathek / Margaret Raspé


オル太《耕す家:不確かな生成》2022年 撮影:加藤甫(参考図版)


大木裕之「アブストラクト権化」展示風景 ANOMALY東京 2024年 撮影:村田冬実 ©Hiroyuki Oki, Courtesy of ANOMALY(参考図版)

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