佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在 @ 水戸芸術館現代美術ギャラリー


佐藤雅晴《バイバイカモン》2010年

 

佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在
2021年11月13日(土)- 2022年1月30日(日)
水戸芸術館現代美術ギャラリー
https://www.arttowermito.or.jp/
開場日時:10:00-18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし1/10は開館)、12/27-1/3(年末年始)、1/11
企画:井関悠(水戸芸術館現代美術センター主任学芸員)

 

水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、ビデオカメラやスチルカメラで撮影した日常の風景をパソコン上でペンツールでトレースし、「ロトスコープ」と呼ばれるアニメーションの技法を用いた映像作品で知られる佐藤雅晴が、2019年に45歳の若さで亡くなるまでに手がけた制作の全貌を紹介する回顧展『佐藤雅晴 尾行−存在の不在/不在の存在』を開催する。

佐藤雅晴(1973年大分県生まれ)は、東京藝術大学大学院美術学科絵画専攻を修了した1999年にドイツに渡り、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーにガストシューラー(研究生)として在籍し、試行錯誤を重ねつつ、前述した手法にたどり着き、アニメーションや平面作品の制作をはじめる。ドイツ滞在中の2009年に第12回岡本太郎現代芸術賞で特別賞を受賞し、翌2010年に帰国し、茨城県取手市を拠点に移した佐藤だが、同年に上顎癌が発覚。以後、闘病生活を送りながら制作を続けながらも、2013年に川崎市市民ミュージアムとギャラリーαM、2016年には原美術館、2017年にはシドニーのアーティスト・ラン・スペース「Firstfraft Gallery」で個展を開催。2019年には『六本木クロッシング2019展:つないでみる』に出品。しかし、同年のKEN NAKAHASHIでの個展『死神先生』の会期中に、惜しまれつつも45歳で他界した。佐藤の作品はその死後もヨコハマトリエンナーレ2020や国際交流基金主催のオンライン展覧会『距離をめぐる11の物語:日本の現代美術』などで出品が続いている。

 


佐藤雅晴《東京尾行》2015-2016年


佐藤雅晴《SM》2015年

 

本展は、佐藤がドイツに渡って初めて制作した《I touch Dream #1》(1999)から未完となった最後の映像作品《福島尾行》(2018)まで、現存する全映像作品26点を60以上のスクリーンとモニターで紹介する。2016年の原美術館での個展に際して制作された《東京尾行》(2015-16)は、2011年の震災を経て、オリンピックへ向け変わりゆく東京の風景と佐藤の日常が日記のように刻まれた作品。佐藤は癌の再発、その後の放射線と抗がん剤による治療により、それまでのモチーフと背景のすべてをアニメーション化する制作が叶わなくなる状況で、モチーフとなる対象のみをアニメーション化することで制作の糸口を見つけ、12の映像に90もの東京の風景が映し出す作品として完成した。また、本展では《東京尾行》の発表の前年に制作され、未発表だった《SM》(2015)も初公開する。頭部のない下着一枚の男性が自身の首をつかみ、それを襖に打ちつける光景が延々と繰り返される同作からは、当時佐藤が感じていたであろう、ままならぬ自身の身体へのもどかしさ、制作への焦燥感を感じ取ることができる。一方、《SM》と同じ年に制作された《3月》では、ひとつの画面上にいくつものシーンがマンガのようにコマ割りされ、それぞれのコマに描かれた風景が別々の時間軸を動き、時計の針は2時46分を永遠にまわり続ける、佐藤が過ごした2015年の3月の静かな1日が描かれたかのような細やかな映像作品となっている。

そのほか、同館展示空間で独立した位置にある展示室9では、佐藤が余命宣告を受けたのち、病状の進行に伴う視力の低下などにより映像作品の制作が困難になるなかで制作した9点のアクリル画と1点の時計を素材とした「死神先生」シリーズを展示する。佐藤は「自宅から出れなくなって、自分が住んでいる家を改めて見ていて気になった物と、死と向かいあう中で生まれた心情が呼応して、今まで気にもしていなかった対象が愛おしく見えてきて、それらをなんとか記録したい」と考え、借家であった自宅が老朽化を理由に立ち退きを求められたこともあり、「誰の目も気にせずに、家と共に消えていく存在を、絵にしたい」という気持ちから、モチーフは自宅へと向かっていった。「死神先生」は、これまでの制作方法同様、撮影したモチーフをパソコンで形をトレースしたうえで、そこから初めて木製パネルにアクリル絵具で描いている。佐藤はそれぞれ作品一点一点に対し、私的なエピソードを交えた短い文章を寄せており、「死神先生」を制作していた時期の佐藤の日々の生活を伺うことができる。

 


佐藤雅晴「死神先生」シリーズより《ガイコツ》2018年


佐藤雅晴「死神先生」シリーズより《ヤモリ》2018年

 

関連プログラム
蓮沼昌宏ワークショップ「つくろう!クルクルアニメーション」 and DOMANI
講師:蓮沼昌宏
詳細は決まり次第、公式ウェブサイトで発表

 


蓮沼昌宏《豊島》2018年 撮影:椎木静寧

 


青山悟

 

青山悟「世界にひとつだけの時計をつくろう!」
講師:青山悟
詳細は決まり次第、公式ウェブサイトで発表

すごろく鑑賞ガイド
編集長:林剛人丸(美術作家)

Copyrighted Image