(左上から時計回りに)キム・ヨンウン、イム・ヨンジュ、キム・ジピョン、アンメイク・ラボ
2025年2月24日、韓国国立現代美術館は国内有数の現代美術賞「韓国美術家賞2025(今年の作家賞)」(共催:SBS財団)の最終候補として、キム・ヨンウン、キム・ジピョン、アンメイク・ラボ、イム・ヨンジュの4組を発表した。最終候補に選ばれた4組は、新作製作補助費5000万ウォン(約525万円)を受け、2025年8月29日から2026年2月22日まで韓国国立現代美術館 ソウル館で開かれる最終選考を兼ねた展覧会「韓国美術家賞2025」に参加。受賞者は2026年1月に発表される。
キム・ヨンウン(1980年生まれ)は、音や聴取を政治的、歴史的産物として捉えるとともに、自身の実践形式に据えて制作活動に取り組み、その特定の歴史的文脈における形成や技術的な発展、そして、知識生産や脱植民地化の過程における聴取の可能性を探究してきた。最終選考に向けて、移住や離散の経験を抱えるコミュニティにおける聴取について調査した新作を準備している。弘益大学校、韓国芸術総合学校を経て渡欧したキム・ヨンウンは、オランダのハーグ王立音楽院でソノロジーを学び、現在はカリフォルニア大学サンタクルーズ校でフィルム&デジタルメディアの博士課程に在籍している。主な個展に、第17回ソンウン美術賞受賞記念展「Frames of Sound」(SongEunアートスペース、ソウル、2022)、「Bones of Sound」(ビジター・ウェルカム・センター、ロサンゼルス、2019)、「Room 402」(ソウル・アートスペースMullae、2011)がある。
キム・ジピョン、展示風景「釜山ビエンナーレ2024」釜山現代美術館、釜山、2024年
キム・ジピョン(1976年生まれ)は、「東洋画」の概念や技法に内包されている伝統的世界観やものの見方を批評的に解釈することで、西洋中心的な近代性とは異なる観点から南北分断の現実、女性の身体、生態系などを考察してきた。近年は屏風や掛け軸、画帖などの意味を捉え直す試みを展開。広く認められた伝統は既に近代性の一部であると見做し、これまでに「伝統」から排除されてきた美術や野生の思考、神話の想像力に注目している。梨花女子大学校の大学院では美術教育を専攻。主な個展に「PAINTINGS LOST」(INDIESPACE、ソウル、2023)、「Friends from Afar」(ARTSPACE BOAN、ソウル、2020)、「Jaenyo Duk Go: A Talented Woman Have Higher Virtue」(HAPJUNGJIGU、ソウル、2017)など。
アンメイク・ラボ《Ecology for the Non-futures》2023年、第15回光州ビエンナーレ、2024年
アンメイク・ラボは、チェ・ビンナとソン・スヨンが2016年に結成したアーティスト・コレクティブ。2020年以降は、韓国の開発主義の歴史と人工知能要素技術(データセット、コンピューター・ビジョン、生成ニューラルネットワーク)を組み合わせ、現在の社会的・生態的状況を思弁的風景に再構成する試みに取り組んでいる。最終選考では、テクノロジーにおける非場所(non-place)の不安定性をめぐる新作を、新興テクノロジーに内包された人間中心的思考に異なる見解を提示した過去作とともに発表する予定。近年の主な展覧会やプロジェクトに、「Popular Creature」(ARTSPACE BOAN、ソウル、2023)、コリアナ美術館が取り組むプロジェクト「*c-lab」でのレクチャーパフォーマンス《Utopian extraction》(2020)。2017年より「Forkingroom」プロジェクトを継続している。
イム・ヨンジュ《Guest Star》2018年、釜山ビエンナーレ2018
イム・ヨンジュ(1982年生まれ)は、韓国社会で迷信や信仰、宗教的信条が受容、形成される過程を調査し、映像作品、インスタレーション、パフォーマンス、VR、出版物などによる複合的な経験として発表してきた。信仰の対象を岩石や金属、風、鳥などの自然の要素に置く考えは確実性や合理性とは相容れないものだが、イム・ヨンジュは「信じることの不確実性」を科学技術の発展と比べることで、死や終末、外界にまつわる実存的な物語を作り出すリアリティの向こう側にあるものを想像させる。学部、大学院ともに弘益大学校出身。近年の主な個展に「Mi-ryeon」(Perigee Hall & Gallery、ソウル、2024)、「AEDONG」(Doosan Gallery New York、ニューヨーク、2019)、「THEWESTLIESWINDCOMESANDGOES」(Space O’NewWall、ソウル、2016)がある。
韓国美術家賞(今年の作家賞)は、韓国国立現代美術館とSBS財団が、韓国現代美術に貢献、新しいヴィジョンや可能性を探求するアーティストの支援を目的に2012年に設立。2022年に韓国国籍保持者に限られていた対象を朝鮮半島にルーツを持つアーティストであれば国籍を問わない規定に変更するなど、諸規定や審査プロセスを再検討。2023年にはボゴタ出身のガラ・ポラス・キム、2024年にはデンマーク国籍を持つ済州島生まれのジェーン・ジン・カイゼンが最終候補に選出された。また、2015年に歴代最終候補の国外での制作活動を支援する基金を開設。近年もキム・アヨンのアジアン・アート・ビエンナーレ2021の展示、ホン・ヨンインの2023年のクンストハル・エクストラ・シティ(アントワープ)での個展、パク・ヘスのシャルジャ・ビエンナーレ15(2023)の展示、クォン・ビョンジュンの「インパクト・フェスティバル」(リエージュ劇場、2024)の上演などを助成している。
韓国美術家賞:http://koreaartistprize.org/
韓国美術家賞2025
2025年8月29日(金)- 2026年2月22日(日)
韓国国立現代美術館 ソウル館
http://www.mmca.go.kr/
参加アーティスト:キム・ヨンウン、キム・ジピョン、アンメイク・ラボ、イム・ヨンジュ
韓国美術家賞2025審査委員会
エミリー・ペシック(オランダ国立芸術アカデミー ディレクター)
ジョーダン・カーター(Dia財団キュレーター、ニューヨーク)
クリッティヤー・カーウィーウォン(ジム・トンプソン・アートセンター アーティスティックディレクター、バンコク)
キム・ジャンウン(元アートソンジェ・センター ディレクター)
ソヨン・アン(アトリエ・エルメス アーティスティックディレクター)
キム・ソンヒ(韓国国立現代美術館ディレクター)
ウ・ヒョンジョン(韓国国立現代美術館キュレーター)
過去5年の受賞者および最終候補(太字はグランプリ)
2024|ヤン・ジョンウク、クォン・ハヨン、ユン・ジヨン、ジェーン・ジン・カイゼン
2023|クォン・ビョンジュン、ガラ・ポラス・キム、イ・カンスン、チョン・ソジョン
2022|10周年記念回顧展「韓国美術家賞」開催のため実施せず
2021|チェ・チャンスク、キム・サンジン、バン・ジョンア、オ・ミン
2020|イ・スルギ、キム・ミネ、チョン・ユンソク、チョン・ヒスン