メル・チン《リヴァイヴァル・フィールド》1991から継続中
2024年11月22日、広島市は第12回ヒロシマ賞の受賞者に、環境問題をはじめとする複雑な社会問題に動機づけられたアイディアを、カテゴリーにとらわれないユニークな方法で表現してきたアーティストのメル・チンを選出したと発表した。2026年夏には第12回ヒロシマ賞の授賞式とあわせて、受賞記念展も開催予定。
世界最初の被爆地である広島市は、世界の恒久平和と人類の繁栄を願う「ヒロシマの心」を美術を通して世界へ訴えることを目的とし、1989年にヒロシマ賞を創設し、3年に1度授与してきた。今回のメル・チンへの授賞理由として「環境問題を始めとする様々な社会問題に着想を得て、彫刻や絵画、インスタレーションなど多様な手法を取り入れたアートを創作し、その活動に地域住民を巻き込むことで、複雑な社会問題への市民意識を喚起することを探求してきたことは、ヒロシマ賞の主旨に沿うものであり、また、同氏の展覧会の開催を通じて「ヒロシマの心」を広く全世界にアピールすることが期待されるため、今回の受賞となりました」と発表した。
チンは受賞にあたって、「人為的気候変動による破壊に見舞われた地で暮らし、絶望の中にある無辜の民に対し残忍な爆撃が継続する現状を遠くから目撃し続けている中での受賞でした。米国市民である私は、紛れもない共犯行為を余儀なくされています。ヒロシマ賞は、この弁解の余地なき残虐行為を支持せず、加担に抗う決意を強固なものとしてくれます。さらに、複雑なアイデアや関係性を発展させ、暴力への抵抗と共感の輪の拡大に通じる理想を追求する手段とすべく全力を尽くすよう私を促してくれます」とコメントを寄せた。
メル・チン Mel Chin Photo: Miriam Heads
メル・チン《アンムアード》2018年
メル・チン(1951年アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン生まれ)は、植物を利用して土壌から有毒な重金属を除去する「グリーン・レメディエーション(持続可能な土壌修復)」の先駆的なプロジェクト《リヴァイヴァル・フィールド》(1991-)や、海面上昇によってタイムズスクエアが水没するという未来の可能性をMicrosoftと共同開発した機器により探索と体験することができる《アンムアード》(2018)など、地域住民や専門家との共同作業、科学的なアプローチによって、長期的なプロジェクトを展開し、アートがいかにして社会的な意識と責任を喚起しうるかを探求してきた。また、イラク戦争などで使用され、地表の構造物を薙ぎ払うように破壊し、原爆に誤認されるほどの威力を持つ爆弾「デイジーカッター」を模した作品《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)も制作している。
主な個展に、「Mel Chin: There’s Something Happening Here」(マディソン現代美術館、ウィスコンシン州マディソン、2022年)、「All Over the Place」(クイーンズ美術館、ニューヨーク、2018年)、「ReMatch, Retrospective Exhibition」(ニューオリンズ美術館、ルイジアナ州ニューオリンズほか、2014年)、「Do Not Ask Me」(ステーション現代美術館、テキサス州ヒューストンほか、2006年)、「Mel Chin」(メニル・コレクション、テキサス州ヒューストン、1991)など。主な受賞歴に、アメリカ芸術文学アカデミー会員(2021)、マッカーサー・フェローシップ賞(2019)、ペドロ・シエナ賞アニメーション部門(2007)、国立芸術基金フェローシップ賞(1988)など。参加した主な国際展に、リヨン・ビエンナーレ(2001)や光州ビエンナーレ(1997)などがある。
ヒロシマ賞:https://www.hiroshima-moca.jp/info/hiroshima-art-prize
メル・チン《私たちの民主主義の奇妙な花》2005年
メル・チン《安全な家》2008–2010年
歴代受賞者
2018|アルフレド・ジャー/美術
2015|モナ・ハトゥム/美術
2013|ドリス・サルセド/美術
2010|オノ・ヨーコ/美術
2007|蔡國強/美術
2004|シリン・ネシャット/美術
2001|ダニエル・リベスキンド/建築
1998|クシュシトフ・ウディチコ/美術
1995|レオン・ゴラブ&ナンシー・スペロ/美術
1992|ロバート・ラウシェンバーグ/美術
1989|三宅一生/デザイン