第10回ヒロシマ賞


Hot Spot (2009) at Centre Pompidou 2015

2015年10月15日、広島市は記念すべき第10回目のヒロシマ賞の受賞者に、レバノンに生まれ、現在はロンドンとベルリンを拠点に国際的に活躍するパレスチナ人アーティスト、モナ・ハトゥムを選出したと発表した。

モナ・ハトゥムは1952年ベイルート生まれ。自身の身体を使ったパフォーマンスや映像作品、工業製品や身体の一部(髪)を素材とした彫刻、インスタレーションなどで知られる。個人的な経験を普遍的価値へと繋げるハトゥムの実践は一貫してジェンダーやアイデンティティ、社会の権力構造などにまつわる矛盾や葛藤についての熟考を観客に迫る。ハトゥムはベイルートに亡命したパレスチナ人の両親のもとに生まれ育ち、ベイルート・ユニヴァーシティ・カレッジでグラフィックデザインを学ぶ。ロンドン滞在中に勃発したレバノン内戦のためにロンドン残留を決断し、バイアム・ショー美術学校、スレイド美術学校に通う。80年代より発表を重ね、94年にポンピドゥー・センターで個展を開催。その後も、二度のヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタをはじめとする数多くの国際展や企画展への参加、ターナー賞へのノミネートやジョアン・ミロ賞の受賞、シカゴ現代美術館、カステロ・デ・リボリ(トリノ)、テート・ブリテンでの個展開催など、国際的な評価も高い。また、今年は初期作品から最新作までを一堂に集めた回顧展をポンピドゥー・センターで開催。同展覧会はテート・ブリテンへの巡回を来年に予定している。

広島市ヒロシマ賞受賞者選考審議会は今回の選考に際し、パレスチナからの亡命という自らの複雑な境遇にもとづき、疎外された人間の苦しみや、政治的な抑圧などの様々な社会的矛盾を、身体的な感覚を呼び起こすような独自の方法で表現するなど、その創作活動がヒロシマ賞の趣旨に相当すると高く評価した。受賞の知らせを聞いたハトゥムは次のメッセージを寄せている。

私の作品がこのような重要な賞にふさわしいと思ってくださった貴台およびヒロシマ賞受賞者選考審議会の皆様にお礼を申し上げます。
謹んで賞をお受けいたします。「ヒロシマの心」に象徴される全人類に対する世界平和という理念に関わることができ、大変光栄であるとともに身のすくむ思いです。
ヒロシマの経験は、人類の歴史において悲しくそして最悪の時を思い起こさせます。しかしながら、壊滅状態からの回復力と復興は、我々人類を鼓舞する希望の心を体現しています。

授賞式および受賞記念展は2017年夏に広島市現代美術館で開催予定。ヒロシマを普遍的な問題として捉え、正面から向き合いながらヒロシマに深く関わるような新作の展示が期待される。


Measures of Distance (1988) at LIVING WITH VIDEO, The Pavilion Downtown Dubai 2012

ヒロシマ賞は、現代美術の分野で人類の平和に貢献した作家の業績を顕彰し、世界の恒久平和を希求する「ヒロシマの心」を現代美術を通して広く世界へとアピールすることを目的に、広島市が1989年に創設した。世界各地の推薦委員と過去の受賞者からなる特別推薦委員から推薦された作家を、国内の美術館長、美術評論家などで構成した選考委員会で絞り込み、有識者や専門家などで構成した「広島市ヒロシマ賞受賞者選考審議会」で受賞者を決定する。同審議会委員は、逢坂恵理子(横浜美術館館長)、 岡部あおみ(美術評論家、元武蔵野美術大学教授)、越智裕二郎(元広島県立美術館館長、西宮市大谷記念美術館館長)、櫻井友行(独立行政法人国際交流基金理事)、高階秀爾(大原美術館館長、公益財団法人西洋美術振興財団代表理事)、南條史生(森美術館館長)、深山英樹(広島商工会議所会頭、広島ガス(株)代表取締役会長)、福永治(広島市現代美術館館長)、部谷京子(映画美術監督)、松井一實(広島市長)、南昌伸(公立大学法人広島市立大学芸術学部学部長)が務めた。三年に一度開かれ、過去には三宅一生、ロバート・ラウシェンバーグ、レオン・ゴラブ&ナンシー・スペロ、クシュシトフ・ウディチコ、ダニエル・リベスキンド、シリン・ネシャット、蔡國強、オノ・ヨーコ、ドリス・サルセドが受賞している。

ヒロシマ賞http://www.hiroshima-moca.jp/hiroshima-art-prize/


歴代受賞者
第1回(1989)|三宅一生
第2回(1992)|ロバート・ラウシェンバーグ
第3回(1995)|レオン・ゴラブ&ナンシー・スペロ
第4回(1998)|クシュシトフ・ウディチコ
第5回(2001)|ダニエル・リベスキンド
第6回(2004)|シリン・ネシャット
第7回(2007)|蔡國強
第8回(2010)|オノ・ヨーコ
第9回(2013)|ドリス・サルセド

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