レポート:「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」

6月4日(土)、5日(日)に、石若駿+YCAM新作パフォーマンス公演「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」を開催しました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。

撮影:谷康弘

本作は、ジャンルを横断して活躍し、国内外で高い評価を受ける打楽器奏者・石若駿と、YCAMやAIの研究者/クリエイターである野原恵祐と小林篤矢が、研究開発した成果を発表するパフォーマンス公演です。
まず最初の会場となるスタジオAには、ドラムセット、その周囲には石若と共演するたくさんの音を紡ぎ出す装置が整然と並び、それらを取り囲むように客席が設えられています。そのたくさんの装置は、石若自身の演奏パターンを学習したたAI(人工知能)をはじめとするエージェント(代行者)と呼ばれるものです。冒頭は、出演者による演奏から始まりますが、しばらくすると、場内に並んだひとつの装置が動き出します。それが合図であるかのように、場内の装置が出演者の演奏と呼応しはじめ、エージェントと人間、両者の即興演奏のパフォーマンスが始まるのです。その後、観客はホワイエに移動し、現在展示中のインスタレーション「Echoes for unknown egos with cymbals」の中でリアルタイムで行われる演奏を鑑賞します。このインスタレーションは、倍音などシンバルのもつ多様な音の要素から触発され、シンバル同士が空間と響き合い、音の風景を描いていくものですが、今回リアルタイムで行われる演奏もそこに作用し、新たな音を派生させます。観客はインスタレーション内を自由に歩き回ったり、座ったり、またはシンバルのそばで耳をかたむけたりといった、それぞれが自由なスタイルで、その時にその場所でしか聞くことのできない特別な音を体感しました。

撮影:谷康弘

4日は石若のソロ、5日は石若とサックス奏者・松丸契のセッションといった、それぞれ違う形式でのパフォーマンスとなりました。石若の、時にリズミカルに、時に静かにその場の状況に併せて響かせていく音、松丸のからみつき、うねり出すようなサックス。両日とも全く印象の異なるグルーブ感をもったパフォーマンスが繰り広げられていきました。

撮影:谷康弘

4日の公演後にはトークイベントも行われ、本公演のプロデューサーを務めたYCAMの竹下暁子の司会で、石若と共に約1年半に渡って共同研究開発を重ねてきた、野原と小林、そしてYCAMの安藤充人と時里充が登壇しました。そこでは、「自分自身と共演したい」という石若のアイデアが本プロジェクトの元となっているということをはじめ、膨大な数の石若の演奏データーからAIが学習・演奏し、エージェントとして機能していくまでの道程や所感、そして演奏システムの解説が語られるなど、とても濃密な時間となりました。

公演は終了しましたが、インスタレーション「Echoes for unknown egos with cymbals」は6月12日までホワイエにて公開中です。公演を観れなかった方も、この機会にぜひご覧ください。

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