コレクション展2023-夏秋 特集:本のために–大家利夫の仕事

大家利夫 石川淳著『插繪本 紫苑物語』特装本(O Jun 絵)  2005年 和歌山県立近代美術館蔵

 

1963年に和歌山城内で開館した和歌山県立美術館を前身とする当館は、1970年11月、日本で5番目の公立近代美術館として県民文化会館の1階に開館しました。そこで23年あまり活動したのち、1994年に現在の黒川紀章の設計による建物へ移転し、展示・保存環境を拡充させてミュージアムとしての活動を続けています。 コレクションは和歌山ゆかりの作家を中心として、創作版画、関西の戦後美術などへその範囲を広げ、現在では海外の作家も含め、総数1万点を超える作品を収蔵しています。コレクション展では、所蔵品を通じて幅広い美術の表現に接していただけるよう、季節ごとに展示を替え、その紹介を続けています。 

今回は特集展示として、造本家・大家利夫(おおいえ・としお)の作品を紹介します。
大家利夫は1949年、東京に生まれました。15歳の頃から限定本の世界に惹かれるようになり、18歳の時、 オペラ歌手 藤原義江を訪ねて同氏の著作『きりすとの涙』の個人出版を実現させたのが本作りの始まりでした。その後、1970年に渡仏し、1971年から1974年にかけてフランス国立エスティエンヌ印刷工芸高等学院で、フランスの伝統工芸である箔押と手工製本(ルリュール)、工業製本全般を学びます。在学中からフリーの箔押師として仕事を始め、製本工芸の名品を生み出したことで知られるジベール・バレ・デザイン事務所やデルモン・デュバル工房で働いて研鑽を積みました。1974年、帰国して大家利夫美術装丁工房を設立。1984年にはあらたに指月社(しげつしゃ)を設立し、詩人や翻訳者、研究者、そして柄澤齊、スザンヌ・トライス ター、山本容子、渡辺和雄、森村泰昌、O Junといった美術家やデザイナーたちの良き理解者・協力者として伴走しつつ、内容、材料、印刷、製本、頒布のすべてに心血を注ぐ、世界でもほかに類をみない個人出版社となりました。その完成度を極めた仕事は高く評価され、2012年にはロサンゼルス・カウンティ美術館で個展が開催されています。日本の工芸への造詣を深め、あたかも茶碗を手にした時のようなふっくらとした手触りも、大家作品の特色といえるでしょう。本のために、挑戦を続けて完成された、作品としての本がそこにあります。 

また今年2月から4月にかけて開催した「とびたつとき 池田満寿夫とデモクラートの作家」展において、1950年代から60年代にかけての彼らの作品を紹介したのに続き、池田満寿夫の1960年代から80年代の作品を広島市現代美術館の協力により特集します。

 

会場 和歌山県立近代美術館 1階展示室
会期 2023年8月11日(金・祝)~9月24日(日)
開館時間 9時30分〜17時[入場は16時30分まで]
休館日 月曜日(ただし、9月18日は開館し9月19日休館)
観覧料 一般350(270)円、大学生240(180)円 ( )内は20名以上の団体料金
*高校生以下、65歳以上の方、障害者、県内に在学中の外国人留学生は無料
*第1日曜日(9月3日)は無料
*毎月第4土曜日(8月26日、9月23日)は「紀陽文化財団の日」として大学生無料
主催 和歌山県立近代美術館
関連事業 和歌山県立近代美術館のサイトをご覧ください
大家利夫 ポール・ボネ著、小宮正弘訳『書物装飾・私観』特装本(渡辺和雄 装画)  2002年 和歌山県立近代美術館蔵

大家利夫 ジョン・ソルト著、田口哲也監訳『北園克衛の詩と詩学 意味のタペストリーを細断[シュレッド]する』特装本 2017年 和歌山県立近代美術館蔵

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