Mel Chin, The Funk & Wag from A to Z, 2012 Photo credit: Michael Stravato; Image courtesy of Mel Chin Studio; Installation at the Station Museum, Houston, TX
第12回ヒロシマ賞受賞記念
メル・チン展
2026年7月25日(土)–10月12日(月・祝)
広島市現代美術館 B展示室
https://www.hiroshima-moca.jp
開館時間:10:00–17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月(ただし、9/21、10/12は開館)、9/24
企画担当:洲濱元子(広島市現代美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.hiroshima-moca.jp/exhibition/melchin
広島市現代美術館では、第12回ヒロシマ賞の受賞者となったメル・チンの受賞記念展を開催する。チンにとって日本で初めての個展となる本展は2部構成で、これまでの代表的な作品とともに、ヒロシマのために制作された新作を展示し、アートによる社会変革と自己変容の可能性を提示する。
メル・チン(1951年アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン生まれ)は、環境問題をはじめとする複雑な社会的課題に動機づけられたアイディアを、既存のカテゴリーにとらわれない独自の方法によって表現してきた。彫刻、ドローイング、絵画、ビデオ、アニメーション、ビデオゲームから大規模な公共インスタレーションにいたるまで、その活動は幅広いメディアにわたる。植物を用いて汚染土壌から重金属を抽出する「グリーン・レメディエーション(持続可能な土壌修復)」のプロジェクト《リヴァイヴァル・フィールド》(1991-)をはじめ、地域住民との協働や科学的なアプローチを取り入れた長期的な活動を展開し、アートがいかに社会的な意識と責任を喚起しうるかを探求してきた。主な個展に、ハーシュホーン博物館と彫刻の庭(ワシントンDC、1989)、ウォーカー・アート・センター(ミネソタ州ミネアポリス、1990)、メニル・コレクション(テキサス州ヒューストン、1991)、ステーション現代美術館(テキサス州ヒューストンほか、2006)、ニューオリンズ美術館(ルイジアナ州ニューオリンズほか、2014)、クイーンズ美術館(ニューヨーク、2018)、マディソン現代美術館(ウィスコンシン州マディソン、2022)など。主な受賞に、アメリカ芸術文学アカデミー会員(2021)、マッカーサー・フェローシップ賞(2019)、ペドロ・シエナ賞アニメーション部門(2007)、国立芸術基金フェローシップ賞(1988)など。参加した主な国際展に、ハヴァナ・ビエンナーレ(1994)、光州ビエンナーレ(1997)、リヨン・ビエンナーレ(2001)、プロスペクト・ニューオリンズ(2024)などがある。
Mel Chin, Our Strange Flower of Democracy, 2005 Photo credit: Judy Cooper; Image courtesy of Mel Chin Studio; Installation at the New Orleans Museum of Art
Mel Chin, Dispatcher, 1998 Collection of Michael and Driek Zirinsky; Image courtesy of Mel Chin Studio
第1部「奇妙な花の下で」では、《私たちの民主主義の奇妙な花》(2005)を中心に、2002年から2006年にかけて制作された代表作を紹介する。同作は、地表を一掃するほどの破壊力をもつアメリカ製の巨大爆弾を竹と紐で実物大に模したもので、チンは破壊の象徴を「民主主義の花」として提示し、それを見上げる鑑賞者に現代社会の矛盾への再考を促す。このほか、世界各地で抵抗運動に使われてきたAK-47自動小銃8丁を、中世の十字軍に用いられたマルタ十字の形に構成した彫刻作品《許されざる者の十字》(2002)、風化した木板に打ち込まれた無数の釘によってコンゴにおける植民地支配の悲劇を扱った《安全》(2005)、破裂したかのようなタイヤの断片が、仏教の「輪廻の輪」で人間の苦しみの根源とされる三毒を象徴する三体の動物をかたちづくる《死の車輪》(2002)などを展示。いずれも、戦争や植民地支配といった暴力が社会や個人に残した傷跡を、日常的な素材を用いた造形へと変換し、暴力の構造を可視化する試みとなっている。今日、ウクライナ、ガザ、イランなど世界各地で暴力の連鎖が続くなか、チンが示す理念と破壊の矛盾はいま改めて切実な意味を帯びる。
第2部「逃れられない歴史」では、初期作品からヒロシマのために制作された最新作まで、50年以上にわたるチンの創作を制作年順に概観する。万物を構成する5つの元素をガラス瓶に封じ込め、自身のルーツである中国の五行思想に着想を得た初期作《垂直のパレット》(1976-1985)、パレスチナのヨルダン川西岸で採掘された大理石をイスラエルとパレスチナの形状に削り出し、中東の伝統的な投石具のポケットに収めた《逃れられない歴史》(1988)、ナチス・ドイツの収容所の犠牲者の遺品に関するタイプ文書を目にした経験をもとに、ウィーンの蚤の市で購入されたタイプライターを通じて言葉の力と歴史の重みを問いかける《通信指令員》(1998)、平和の象徴であるハトと、闇や不安の象徴とされるコウモリが、夜空のような墨色の空間で抱擁し、あるいは対立する瞬間をとらえた《コウモリとハト》(2007)、『ユニバーサル・スタンダード百科事典』全25巻の図版を素材にした524点のコラージュからなるインスタレーション《ファンク&ワグナルズ百科事典:AからZまで》(2012)、ガザで死亡した5か月の幼児を悼み、米国製MK-84爆弾を産院跡地から採取された土によって実寸で描いた《ムハンマド・ハニ・アル=ザハルの記憶に捧ぐ》(2024)などを展示。特定のスタイルやテーマにとどまることを拒み、常に変化を求めてきた作家の歩みをたどる。また、環境を彫刻するという発想から始まった《リヴァイヴァル・フィールド》をはじめ、地域住民や専門家との協働による長期プロジェクトもあわせて紹介される。展覧会場の最後の部屋には、本展のために制作された新作を展示する。「はだしのゲン」の作者・中沢啓治の少年時代をモチーフとした彫像で、両手を広げた人物が原子爆弾「リトルボーイ」を想起させる大太鼓の上に立つ。
Mel Chin, Cross for the Unforgiven, 2002 Image courtesy of Mel Chin Studio
Mel Chin, Bat and Dove, 2007 Image courtesy of Mel Chin Studio
関連イベント
オープン記念レクチャー:メル・チン
2026年7月25日(土)14:00–16:00
登壇者:メル・チン
会場:広島市現代美術館 地下1階ミュージアムスタジオ
定員:100名 ※当日10:00より1階受付にて整理券を配布
※英語で実施、日本語の通訳付、参加無料、申込不要
学芸員によるギャラリートーク
2026年8月22日(土)、9月19日(土)15:00–16:00
会場:広島市現代美術館 B展示室
※要展覧会チケット、申込不要
アートナビ・ツアー
毎週土・日・祝 11:45–、14:45–(7/25、26、イベント開催時を除く)
会場:広島市現代美術館 B展示室
※要展覧会チケット、申込不要
同時開催
コレクション展 2026-Ⅰ
2026年6月27日(土)–9月23日(水・祝)
広島市現代美術館
コレクション展 2026-Ⅱ
2026年10月10日(土)–2027年1月24日(日)
広島市現代美術館
Mel Chin, Vertical Palette, 1976-1985 Image courtesy of Mel Chin Studio