香港西九文化区(西九龍文化娯楽区)に建設予定で2017年に開館予定の美術館「M+」が中国現代美術のコレクターとして有名なスイス人コレクター、ウリ・シグが保有していたコレクションの寄贈を受け入れることを明らかにした。
『アート・バーゼル』開催中のバーゼルで開かれたM+の記者会見で、同館のチーフキュレーターを務めるトビアス・バーガーが明らかにした。
記者会見によれば、シグはコレクションの内、1970年代から80年代に制作された47作品を1億7700万香港ドル(約18億円)で香港政府に売却、その上で、サザビーズの試算によると13億香港ドル(約133億円)の価値を持つ、1463点の作品をM+に寄贈するとのこと。寄贈作品は310人のアーティストにより1990年代から2000年代の間に制作されたもので、艾未未(アイ・ウェイウェイ)、方力鈞(ファン・リジュン)、曾梵志(ゼン・ファンジ)、徐冰(シュー・ビン)、黄永砅(ホァン・ヨンピン)、張培力(ジャン・ペイリー)谷文達(グー・ウェンダ)など中国美術を代表するアーティストの主要な作品が含まれている。一方、売却される70年代、80年代の作品には、無名畫會(ノーネームグループ)、星星畫會(ザ・スターズ)などの前衛美術グループの作品が含まれている。
ウリ・シグは元駐中国スイス大使で、当初より中国美術のコレクションを精力的に行なっている中国現代美術の主要なコレクターのひとりである。彼のコレクションの内、特に70年代の中国現代美術作品の中には、当時、美術館やコレクターの関心が薄かったことから、作品自体が制作後に壊されたものなど存在しないものも多い。新たな美術館を作るにあたり、そうした状況に加え、館が核に据えようとした中国現代美術の作品価格が高騰している現状から、M+設立のためのコレクション予算である17億円では重要な作品を市場で手にいれることが難しいと判断、館長のラース・ニッティヴェが複数の中国美術コレクターにアプローチを行い、シグのコレクション寄贈が実現した。シグのコレクションは、当時中国美術を収集する団体、個人がいなかったことから、彼自身の嗜好によるものというよりは、時代を沿ってあらゆるメディアの作品を包括的に収蔵しており、その点においても新たに開館する美術館のコレクションに相応しい内容であることは確かだ。
また、これに先立つ3月、M+の運営にあたる西九文化区管理局は、中国大陸出身で、北京とベルリンのギャラリー、ボエス・リーギャラリーの共同経営者であった、皮力(ピー・リー)をシニアキュレーターとして採用している。皮はキュレーターおよび批評家であったが、2005年にワリン・ボエスと共にギャラリー「ユニヴァーサルスタジオ北京」を設立した。(後、ボエス・リーギャラリーに名称変更)今回の就任にあたり、皮は今後ギャラリー経営には一切関わらない誓約書を出したと噂されている。ディレクター、キュレーターと欧米人スタッフが全面にでてきたM+にとって、皮は大陸出身の中国人としてその活躍が期待される。皮は7月よりM+での任につく。