ソフィ カル展/担当学芸員より1[原美術館]

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」担当学芸員の坪内雅美が、ソフィ カルの作品と接して得た「気付き」を3回に渡ってお届けします。

気付き1-棚

展覧会を担当し、毎日作品と密に接していると、その隠れた魅力に徐々に気付いていく。展示作業時に作品に直に触れることで身体的に気付くことも多い。『盲目の人』(1999年)もそのような作品のひとつだった。

『盲目の人』は、生まれつき目の見えない男性に「あなたにとって美しいものは何ですか」と問いかけることから始まる作品である。もとは『盲目の人々』と題して1986年に23点組で発表されているが、今回は、そのうちの1点に友人である杉本博司の海の写真を組み合わせた特別版を展示している。

作品は、盲目の男性の肖像写真と、「私がこれまでに見た最も美しいもの、それは海です」という彼の言葉、そしてそれをヴィジュアル化した杉本の海の写真で構成されている。肖像と言葉は額装されて壁に固定され、海は棚の上に置かれている。棚は白くシンプルながら、祭壇の趣を作品に与え、ソフィ カルらしい厳かなインスタレーションであると言われてきた。

今回、自分の手で海の写真を棚に置いたときにふと身体で納得したのは、その“一時性”である。棚の上の海は、固定されたイメージではなく、別の海のイメージに置き換えられるという感覚だ。つまり棚は、カルが、杉本が、鑑賞者それぞれがこの盲人の“見た”海を想像し、ヴィジュアル化し、それを置くための場所なのである。それぞれの想像する海は様々であり、ましてや盲人の思い描いた海とは異なっているだろう。悲しいかな、棚は、共通の認識が不在であることを表わす場所になっている。

カルは、本展の記者会見において、「私の言いたいことは全て作品が語っているわ」と話していたが、奥行き10センチほどの棚は、ささやかながら、ソフィ カルの全作品を横断する「不在」というテーマを語る優れた装置なのだった。


「盲目の人」1999年
(C) Sophie Calle + Hiroshi Sugimoto / ADAGP, Paris 2013
Courtesy of Gallery Koyanagi, Tokyo
撮影:木奥惠三

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「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
2013年3月20日[水・祝]-6月30日[日]

*別館ハラ ミュージアム アークでの関連展示
「紡がれた言葉―ソフィ カルとミランダ ジュライ/原美術館コレクション」
3月16日[土]-6月26日[水]

「坂田栄一郎─江ノ島」
7月13日[土]-9月29日[日]

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