ハッセルブラッド国際写真賞2025


Sophie Ristelhueber, WB #22 (2005) © Sophie Ristelhueber

 

2025年3月7日、ハッセルブラッド財団は、写真界の発展に多大なる功績を残した写真家、アーティストを表彰するハッセルブラッド国際写真賞を、半世紀近いキャリアを通じて、パリを拠点に中東や旧ユーゴスラビアを訪れ、戦争や紛争が都市や風景、人々に残す痕跡に焦点を当てた作品を制作してきたソフィー・リステルユベールに授賞すると発表した。受賞記念展は2025年10月11日から2026年1月18日までヨーテボリのハッセルブラッドセンターで開催。リステルユベールには受賞記念の金メダルと賞金200万スウェーデンクローネ(約2900万円)、さらにハッセルブラッド社製のカメラが授与される。

ソフィー・リステルユベール(1949年パリ)は、レバノン、クウェート、旧ユーゴスラビア、イラク、ヨルダン川西岸など、紛争が起きた場所を表現の核に、煽情的なイメージを避けながら、人間の存在と活動が静かに残された痕跡の中の感情を捉えた作品を発表してきた。ソルボンヌ大学で文学を学んだリステルユベールの作品には、出来事を描写するのではなく痕跡や細部を強調することで伝統的な物語構造に挑んだ文学運動「ヌーヴォー・ロマン」の影響が見られる。その文学的素養は、テキストの断片を視覚的な物語に必要不可欠なものとして組み込んだアーティストブックにも表れている。これまでに「Fait」(カナダ国立美術館、オタワ、2016)、「SOPHIE RISTELHUEBER」(ブランタン・アール・コンタンポラン、ジュネーヴ、2011)、「SOPHIE RISTELHUEBER」(ジュ・ド・ポーム、2009)などで個展を開催。「Theater of Operations」(ニューヨーク近代美術館、2020)、「Conflict, Time, Photography」(テート・モダン、ロンドン、2014)、「Woman War Artists」(帝国戦争博物館、ロンドン、2011)、第29回サンパウロ・ビエンナーレ(2010)、大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2003、第2回ヨハネスブルグ・ビエンナーレ(1996)など、数々の企画展、国際展で作品を発表している。主な受賞歴に、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーが主催するドイツ証券取引所写真賞(2010)。

 


Sophie Ristelhueber, Beyrouth, photographies (1984) © Sophie Ristelhueber


Sophie Ristelhueber, Every One #14 (1994) © Sophie Ristelhueber

 

ハッセルブラッド財団は授賞にあたり、リステルユベールの45年にわたるキャリアを特徴づけるものとして、「(公的、私的の両領域にわたる)風景と領土を探求する緻密で一貫した独自の作品群」を挙げ、「リステルユベールは戦争で荒廃した諸地域で制作したシリーズを通して、写真におけるジャーナリスティックな側面に挑み、彼女自身の視覚言語を獲得した。土地や建築、人間の身体に残された暴力の痕跡や傷跡は、彼女の力強い、隙のないイメージの中心を為しており、なかでも評価の高い中東やバルカン諸国に焦点を当てたシリーズにはそれが顕著に表れている。展示手法に至っては、慣習に囚われない方法で大きなサイズの写真を使用したり、映像やサウンドと組み合わせたサイトスペシフィックなインスタレーションなどを試みてきた」と授賞理由に言及した。

また、リステルユベールは「ご存じのように、人は愛されぬゆえに死ぬのではなく、信じてもらえないがゆえに死ぬ。古い友人はアーティストの条件について語り合うとよくそう言っていました。重要なのは、アーティストが価値があるかどうかわからないままに新しいものを生み出すことにすべてを賭けていることなのです。だからこそ、この栄誉ある賞の受賞はアーティストとしての私にとってとても意義深いものです」と喜びの声を寄せた。

 


Sophie Ristelhueber, Fait #20 (1992) © Sophie Ristelhueber


Sophie Ristelhueber, Eleven Blowups #1 (2006) © Sophie Ristelhueber

 

ハッセルブラッド国際写真賞は1980年に故ヴィクター・ハッセルブラッドの遺言を受け、写真表現における先駆的な実験や後続世代に与えた優れた写真家の業績を讃えるために創設された。以来、エルナ・ハッセルブラッドが他界した1983年と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けた2021年を除き、毎年、開催されており、過去には濱谷浩(1987)、杉本博司(2001)、石内都(2014)、森山大道(2019)も受賞している。なお、ハッセルブラッド国際写真賞2025の選考は、ジョン・フリートウッド(Photo: ディレクター、南アフリカ共和国/ハーグ王立芸術アカデミー写真学部長)を審査委員長に、ショエア・マヴリアン(Photographers’ Gallery ディレクター、イギリス)、アンナ・プラナス(Paris Photo アーティスティックディレクター、フランス)、ラケル・ビリャル゠ペレス(インディペンデント・リサーチャー/ライター/キュレーター/エジンバラ大学)、フランチェスコ・ザノット(インディペンデント・キュレーター、イタリア)、カロリナ・ジェンビンスカ゠レヴァンドフスカ(ワルシャワ美術館ディレクター、ポーランド)が審査員を務めた。

 

ハッセルブラッド財団https://www.hasselbladfoundation.org/

 


Hasselblad Award 2025 – Sophie Ristelhueber from Hasselblad Foundation YouTube channel

 


過去10年の受賞者
2024年|イングリッド・ポラード
2023年|キャリー・メイ・ウィームス
2022年|ダヤニータ・シン
2021年|開催中止
2020年|アルフレッド・ジャー
2019年|森山大道
2018年|オスカー・ムニョス
2017年|リネケ・ダイクストラ
2016年|スタン・ダグラス

Copyrighted Image