「谷川さんの住宅」(1974)にて ©多木浩二
篠原一男 空間に永遠を刻む――生誕百年 100の問い
2025年4月17日(木)-6月22日(日)
TOTOギャラリー・間
https://jp.toto.com/gallerma/
開館時間:11:00–18:00
休館日:月・祝(ただし5/3、5/4は開館)、⅚
キュレーター:奥山信一(建築家、東京科学大学教授)、貝島桃代(建築家、アトリエ・ワン共同主宰、ETHZ Professor of Architectural Behaviorology)、セン・クアン(建築史家、東京大学特任准教授、ハーバード大学デザイン大学院講師)
アシスタントキュレーター:小倉宏志郎(東京科学大学技術支援員)
展覧会URL:https://jp.toto.com/gallerma/ex250417/index.htm
TOTOギャラリー・間では、建築家・篠原一男の生誕100年を記念し、「篠原一男 空間に永遠を刻む――生誕百年 100の問い」を開催。建築家の奥山信一、貝島桃代、建築史家のセン・クアンをキュレーターに迎え、生涯を通して自らに「問い」を投げかけ続けた篠原の建築家像を「永遠性」をテーマに再考する。
東京オリンピック1964の閉幕から、EXPO’70へと向かう1960年代半ば、日本の先導的建築家の多くは都市空間の進展と直截に連動した建築コンセプトの構築に邁進していた。そんな状況のなかで、1辺10m四方の中心からわずかに外した位置に1本の直線を走らせた単純な平面形を瓦葺きの宝形屋根で覆った住宅と、歪んだ平面の土間床の広間に地中に沈む寝室を接続させた異様な住宅で、篠原一男は「空間の永遠性」を表明することになった。これらふたつの住宅は、篠原のなかで対照をなす祖型的な空間イメージが込められたものとして「白の家」「地の家」と命名された。
その生涯を通じて数多くの「問い」を自らに投げかけることで創作の前進を図った建築家、篠原一男。「問い」のなかでも「永遠性」の表明は、時間とともに変動する建築の仕組みを内蔵したメタボリズムへの対抗意識からの発露ではあったが、その逆説的視点を超えて、時間を透徹する建築空間の固有性を希求し続ける篠原の創作の根幹を終生支える思想となった。
本展では、この射程の長い時間感覚を含んだ建築の思想こそ、グローバル資本主義が蔓延する現代社会で最も見失われたものとして捉え、生涯をかけて言葉と空間の両輪で刻印し続けた建築家・篠原一男の活動を再考する。会場では、東京工業大学篠原研究室作製の原図や模型、真筆のスケッチ、家具などのオリジナル資料を、その言説から抽出した「100の問い」と篠原自身の分類による「第1の様式」から「第4の様式」に沿って構成し、その活動と人間性を浮かび上がらせる。また、篠原の「第5の様式」を予感させる未完の遺作、「蓼科山地の初等幾何」(2006年、計画案)のスケッチも展示予定。展覧会に併せて、1996年発行の作品集『篠原一男』の復刻版を発行する。
谷川さんの住宅(1974)©多木浩二
上原通りの住宅(1976)©多木浩二
篠原一男(1925-2006/静岡県生まれ)は、日本の伝統様式への洞察から独自のモダニズム理解を経て、現代都市と交感した様式へと作風を展開し、住宅建築を中心として建築の創作活動を実践。住宅と都市に関する建築理論を残した。篠原は、東京物理学校数学科(現:東京理科大学)を卒業、数学の教職を経て、東京工業大学(現:東京科学大学)建築学科に入学。清家清(1918-2005)に学び、卒業後は同大学で1986年まで教鞭をとる。坂本一成、伊東豊雄、長谷川逸子に代表される「篠原スクール」と呼ばれる一群の建築家を輩出するなど、その薫陶や影響を受けた多くの建築家が現在、建築界の第一線で活躍している。退職後は自邸兼アトリエ「ハウス イン ヨコハマ」(1985)に篠原アトリエを構え、設計と言説の発表を続けた。イエール大学、ウィーン工科大学客員教授を歴任。2006年に逝去。主な『住宅建築』(紀伊國屋書店、1964)、『住宅論』(鹿島出版会、1970)、『超大数集合都市へ』(エーディーエー・エディタ・トーキョー、2001)など。また、1972年に「未完の家」以後の一連の住宅で日本建築学会賞を受賞。没後の2010年にはその功績を讃え、第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展記念金獅子賞が与えられた。
篠原一男は「住宅は芸術である」と唱え、小住宅の設計に多大なエネルギーを費やした。篠原が手がけた住宅は日本における現代住宅のひとつの到達点を示すものとして、現在国内外で再評価の機運が高まっている。「白の家」(1966)は2008年に、「地の家」(1966)は2025年に、原形をとどめたまま次なる継承者へ引き継がれ、またそれらに先行する作品「から傘の家」(1961)も、2022年の秋にスイス・バーゼル近郊(ドイツ、ヴァイル・アム・ライン)のヴィトラ キャンパスに移築再建が完了している。
篠原一男真筆の「谷川さんの住宅」(1974)スケッチ 提供:東京科学大学 奥山信一研究室
篠原一男真筆の「ハウス イン ヨコハマ」(1985)スケッチ 提供:東京科学大学 奥山信一研究室
篠原一男真筆の「蓼科山地の初等幾何」(2006・計画案)スケッチ 提供:東京科学大学 奥山信一研究室