ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ @ 国立西洋美術館


辰野登恵子《WORK 89 -P-13》1989 年、油彩/カンヴァス、千葉市美術館

 

ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
2024年3月12日(火)- 5月12日(日)
国立西洋美術館
https://www.nmwa.go.jp/
開館時間:9:30–17:30 (金・土は20:00まで)入館は閉館30分前まで
休館日:月(ただし3/25、4/29、4/30、5/6は開館)、5/7
展覧会URL:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html

 

国立西洋美術館では、21組のアーティストたちが参画し、同館開館以来初の試みとなる企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」を開催する。

2019年に国際博物館会議で 「『文化をつなぐミュージアム』理念の徹底」が採択されると、2022年には博物館法が約70年ぶりに改正されるなど、美術館の役割は大きく見直されてきた。それは美術館が自身とそのコレクションを見つめ直し、新たな可能性を見出す機会となっている。本展では、同館所蔵の作品からインスピレーションを得た新作や、美術館という場所の意義を問い直す作品などを展示。6,000点を超えるコレクションからアーティストたちが独自の視点で選んだ約70点の作品も同時に公開する。

 


中林忠良《転位’04−地−I》2004 年、エッチング、アクアチント、ドライポイント、作家蔵


小沢剛《帰ってきたペインターF ─ Painter F Song》2015年、ビデオ、12分8秒、森美

 

本展導入となる第0章「アーティストのために建った美術館?」では、国立西洋美術館は未来のアーティストの制作活動に資するために建てられたのではなかったかということを、国立西洋美術館の母体となった松方コレクションを築いた松方幸次郎や、館の創設に協力した安井曾太郎の言葉から振り返る。本章では、ル・コルビュジエによって基本設計された本館の「モデュロール」に関心を抱いていた杉戸洋が、その寸法体系にあわせて構成するタイル作品《easel》を展示。次の第1章「ここはいかなる記憶の磁場となってきたか?」では、美術館はさまざまな時代や地域に生きた/生きるアーティストたちの記憶群が同居し、それぞれの力学を交錯させあう磁場となることを踏まえ、同館のコレクションを探る。銅版画表現の歴史的血脈を意識しながら制作を行なってきた中林忠良、所蔵作品のポール・セザンヌ《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》に触発された内藤礼、同館で過去開催された「セザンヌ展」(1974)や「モーリス・ドニ」展(1981)から刺激を得たという松浦寿夫の作品群を通じて検証する。

第2章「日本に『西洋美術館』があることをどう考えるか?」では、世界各地の美術館や美術史において脱西洋中心主義化が進められる現代で、同館が原則「西洋美術」のみを蒐集し、展示せざるをえない機関であることを再考する。本章では「西洋美術」の一例として蒐集、展示される藤田嗣治の作品と、小沢剛が2015年に制作した《帰ってきたペインターF》(森美術館所蔵)を併置。また、小田原のどかは、ロダンの彫刻を横倒しに展示することで地震が絶えない日本固有の課題を示し、その「転倒」の様態に「水平社宣言」の起草者として知られる西光万吉の思想の「転向」を重ねた新作インスタレーションを通じて複雑な問題提起を行なう。

第3章「この美術館の可視/不可視のフレームはなにか?」では、布施琳太郎がル・コルビュジエが基本設計した本館建築の構造を読み解きながら、美術館建築の在り方を双六のサイコロをモチーフとしながら呈示する。また、田中功起は「常設展の絵画を車椅子や子どもの目線に下げて展示すること」や、「乳幼児向けの託児室を臨時で設けること」、「展示室内の翻訳言語の選択を拡張すること」など、複数の「提案」を行い、美術館が暗黙の前提としている「鑑賞者」の取捨選択を批判的に浮き彫りにする。

 


鷹野隆大《Kikuo (1999.09.17.Lbw.#16)「ヨコたわるラフ」シリーズより》1999年、ゼラチン・シルバー・プリント、Courtesy of Yumiko Chiba Associates ©Takano Ryudai


弓指寛治《ウエノさんのブルーシート小屋》2023年、アクリル、鉛筆/木製パネル、新聞紙、作家蔵

 

第4章「ここは多種の生/性の場となりうるか?」では、 同館のコレクションが白人男性アーティストによる作品が大半を占めていることに対し、ミヤギフトシが、アクタイオンの神話に示唆を得て、同館を舞台とした映像作品をは公開する。加えて、鷹野隆大は展示室の内部にIKEAの家具を並べ、同館の所蔵作品と自身の写真作品を併置。⾧島有里枝は2023年に名古屋で行なった「ケアの学校」の展示を改変して持ち込み、「見ること」の制度である美術館の中で「看ること」の可能性を拓く。さらに飯山由貴は、松方コレクションの成り立ちを読み解き、そこに第一次世界大戦の戦争記録画や、ナショナリスティックな意図をもって発注された絵画が含まれていたことに着目し、松方幸次郎が想定した「アーティスト」像を批判的に問う。

小喜劇的な幕間劇に反する「反幕間劇」としてのセクション「上野公園、この矛盾に充ちた場所:上野から山谷へ/山谷から上野へ」では、近年上野公園が整備されたことで路上生活者が見えにくい存在となった状況の中、上野と同様に路上生活者の多い山谷地区で、生活者や支援者と丹念にコミュニケーションをとってきた弓指寛治による絵画を展示する。第5章「ここは作品たちが生きる場か?」では、2016年にルーヴル美術館で大きく破損した状態で発見されたのち、同館所蔵となった旧松方コレションのクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》が最低限の保存処置で展示されていることに着目した竹村京が、絵画の欠損部分を絹糸で想像的に補完する作品を発表する。また、エレナ・トゥタッチコワは、同館の展示室を迷い歩いた経験や、展示されている絵画の中を視線で旅する行為を重ねあわせた映像作品などを展示する。

 


竹村京《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》(部分、制作過程)2023-24年、釡糸、絹オーガンジー、カラープリント、作家蔵


クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎氏御遺族より寄贈(旧松方コレクション)

 

第6章「あなたたちはなぜ、過去の記憶を生き直そうとするのか?」では、自身の身体像をラファエル・コランの《フロレアル(花月)》の中に投入し描いた梅津庸一のように、歴史的記憶へとみずからの身を投じ、現代において過去を別様に生き直すアーティストを取り上げる。梅津が主宰するアーティスト・コレクティヴであるパープルーム安藤裕美はピエール・ボナールらの造形言語を身体化しつつ、それらを異化する絵画を展示する。また、遠藤麻衣は同館所蔵のエドヴァルド・ムンクによるリトグラフ連作『アルファとオメガ』の世界観にインスピレーションを得て、ストリップ劇場の記憶を絡めながら翻案するパフォーマンス映像を発表。「大正生まれの架空の三流画家」を演じてきたユアサエボシは、同館の収蔵作家でもあるサム・フランシス《ホワイト・ペインティング》と自身の抽象画を併置する。

最終章「未知なる布置をもとめて」では、杉戸洋、梅津庸一、坂本夏子、辰野登恵子の4人による日本の「現代絵画」を、同館のコレクションであるクロード・モネ、ポール・シニャック、ジャクソン・ポロックの絵画と同じ空間に展示する。日本のペインターは、既存の絵画空間を超える作品を生んできたのかという問いを提示する。

 


梅津庸一《フロレアル─汚い光に混じった大きな花粉》2012 -14年、油彩/パネル、角材、照明カバー、樹脂、吸水マット、照明機材用スタンド、ハンドクリーム容器、愛知県美術館

 

関連イベント
記念講演会「作品と作品をつなぐもの――解釈、応答、変奏」
2024年4月20日(土) 17:00-18:30
出演:田中正之(国立西洋美術館⾧)
会場:国立西洋美術館 講堂(地下2階)
定員:100名(事前申込制・先着順)※4/6受付開始

記念講演会「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」
2024年5月11日(土)17:00-18:30
出演:新藤淳(国立西洋美術館主任研究員/本展企画者)
会場:国立西洋美術館 講堂(地下2階)
定員:100名(事前申込制・先着順)※4/27受付開始

スライドトーク
①2024年3月15日(金)18:00-18:40
②2024年4月26日(金)18:00-18:40 ※手話通訳付き
出演:新藤淳
会場:国立西洋美術館 講堂(地下2階)
定員:各回110名(申込不要、先着順)
※各回完結(単発講座)

公開座談会「現代美術のない美術館で芸術の未来を考える」
2024年3月23日(土)17:00-19:00
出演:梅津庸一、小田原のどか、布施琳太郎、松浦寿夫(すべて本展出品者、50音順)
モデレーター:新藤淳
会場:国立西洋美術館 講堂(地下2階)
定員:100名(事前申込制・先着順)※3/9受付開始

先生のための観覧日
①2024年3月15日(金)15:00-20:00(受付は19:30まで)
②2024年3月16日(土)15:00-20:00(受付は19:30まで)
参加方法:事前申込制 ※3/12まで受付中
対象:幼保・小・中・高・特別支援学校に勤める教職員

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