アカルイ カテイ @ 広島市現代美術館


植本一子 2019年

 

アカルイ カテイ
2019年12月21日(土)- 2020年3月1日(日)
広島市現代美術館
https://www.hiroshima-moca.jp/
開館時間:10:00-17:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし、1/13、2/24は開館)、年末年始(12/27-1/1)、1/14、2/25
展覧会特設URL:https://www.hiroshima-moca.jp/bright_home/
企画:竹口浩司(広島市現代美術館学芸担当課長)
出品作家:出光真子、植本一子、潮田登久子、江上茂雄、桂ゆき、川村麻純、小西紀行、佐々瞬、 ひろいのぶこ、森正洋(白山陶器)、和田千秋+愛語

 

広島市現代美術館では、日本において明治時代にあらたにつくられた「家庭」や「家族」という概念に着目し、時代の移り変わりとともに現れるさまざまな家庭のかたちを明治大正生まれのアーティストから1980年代生まれのアーティストまで11人の作品を通じて考察し、これからの「家庭」や「家族」の可能性を探究する展覧会『アカルイ カテイ』を開催する。

1880年代後半に民法の成立や西洋の考え方を採り入れようとしたことが大きな要因となり、「家庭」や「家族」という言葉が日本で定着していく。言葉の定着と同時に父と母と子どもがひとつ屋根の下に暮らす核家族のイメージが生まれる一方で、現実の生活にはさまざまな家庭のすがたが存在していた。複数の観点からの考察を試みる本展では、まず最初に「家と庭」という観点から、45年にわたり会社勤めをしながら地元の風景を描きつづけ、退職後はほとんど毎日戸外に出かけて制作をつづけ約2万点もの作品を残した江上茂雄(1912-2014/福岡生まれ)、戦前から前衛芸術運動に関わり、植物や日用品を平面的に構成した作品や寓話をモチーフにしたコラージュなどで知られる桂ゆき(1913-1991/東京生まれ)、シンプルかつデザイン性の高い陶磁器を大量生産品として流通させるなど、戦後日本の家庭に優れたデザインを日常的に楽しむ文化をもたらした森正洋(1927-2005/佐賀生まれ)の作品を通じて、その多様なすがたを想像する。

また、家庭や家族と同じく、「主婦」という言葉も明治時代に一般的になる。家政学関係の西欧の翻訳書に登場するこの言葉は「使用人に対する主人=奥さま」を意味し、良妻賢母や母性といった新たな概念を背負わされながら、「家政担当者としての妻」の役割を主婦に課し、家庭の奥へと閉じこめていく。「どうぞ奥へ」と題したパートでは、家庭用冷蔵庫や図書館の本など、時間を経て人々の営みの痕跡が蓄積した事物を捉えた写真で知られる潮田登久子(1940年東京生まれ)と、60年代に映像制作に着手し、高度経済成長期の日本の家庭における母子関係などを扱った映像作品で知られる出光真子(1940年東京生まれ)の作品を通じて、「奥」にあるからこそ見えてくるものを見つめていく。

 


桂ゆき《積んだり》1951年、福岡市美術館蔵


潮田登久子《東京都世田谷区 1983年》1983年

 

ひきこもりをテーマに書かれた村上龍の小説『最後の家族』(2001)の英語タイトル「アウト・オブ・ホーム」をテーマにしたパートでは、和田千秋(1957年大分生まれ)+愛語(1987年福岡生まれ)と、幼少期の自身も含めた家族、あるいは身近な人々のスナップ写真を元にした人物画で知られる小西紀行(1980年広島生まれ)を紹介する。和田千秋は出産時の酸欠により脳障碍を負った長男・愛語のリハビリテーションのために制作活動を中断するが、息子と共有する濃密な時間を基に「障碍の美術」の可能性を探求するかたちで活動を再開。2000年代からは絵画による表現を中心に活動している。本展では、愛語がファシリテーターとともに描いたドローイングや油絵も紹介する。

 


和田千秋《僕は描く!》2017年

 

女子を対象にした教科として明治時代に設置された手芸、裁縫、家事経済は、戦後1947年に「家庭科」として生まれ変わる。「家庭科」は「各人が家庭の有能な一員となり、自分の能力にしたがって、家庭に、社会に貢献できるようにする」ことを目的に、男女共学となった小学校5,6年生および中学生の必修科目になったにもかかわらず、そのわずか11年後に男子向きの技術科と女子向きの家庭科に分かれることになる。「なにをつくる? 誰がつくる? なんのためにつくる?」と題したパートでは、個人の記憶や他者との関係性に関心を持ち、家族という関係を題材に社会的な問題を取り込んだ表現を探求し、近年は日本に家庭科教育が導入された歴史を紐解きながら、作品制作を行なう川村麻純(1975年千葉生まれ)と、布や動物繊維を用いた作品を制作するとともに、作り手の視点からアジア各地や中南米などの現状を調査研究、染織品や工芸品の収集、近年は手芸にまつわる調査研究にも取り組むひろいのぶこ(1951年兵庫生まれ)を紹介する。

冒頭で述べたように「家庭」や「家族」という言葉が定着し、社会の中でそのイメージが単一化していく以前、江戸時代、庶民の子どもは肉親以外にも、成長の各場面で関わるさまざまな「仮親」と呼ばれるたくさんの親を持ち、その関係は大人になっても切れることなく一生続いたという。「うかび、あそべ」と題したパートでは、人と人の間を浮かび遊ぶことで、関係を新たに結び、生活空間を開いていくことはできないか。写真家、エッセイストとして広告、雑誌など幅広く活動し、一般家庭の記念撮影をワイフワークとする植本一子(1984年広島生まれ)、映像や音声、テキストや即興的なパフォーマンスなどを駆使し、現実の記録にフィクションを織り交ぜ、過去や未来の物語を更新/拡張するような作品制作を行なう佐々瞬(1986年宮城生まれ)を紹介する。

 


川村麻純《home/making》2018年(参考)

 

関連プログラム
出品作家によるリレー・トーク
植本一子、潮田登久子、川村麻純、小西紀行、佐々瞬、ひろいのぶこ、和田千秋(予定)
2019年12月21日(土)14:00-15:30
会場:広島市現代美術館 展覧会場
※要展覧会チケット、申込不要、トーク参加作家の詳細は公式ウェブサイトを参照。

パネルディスカッション「家庭、学校、美術館」
登壇者:瓦田勝(元 福岡女学院中学校・高等学校 美術教諭)
田北雅裕(九州大学大学院人間環境学研究院 講師/認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN理事)
永田夏来(家族社会学者/兵庫教育大学大学院学校教育研究科 講師)
藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)
2020年1月13日(月・祝)14:00-16:00(開場:13:40)
会場:広島市現代美術館 地下1階ミュージアムスタジオ
定員:80名(当日先着順)
※要展覧会チケット、申込不要

学芸員によるギャラリートーク
2020年1月2日(木)、1月26日(日)、2月15日(土)いずれも14:00-15:00
会場:広島市現代美術館 展覧会場
※要展覧会チケット、申込不要

アートナビ・ツアー
会期中毎週土、日、祝、2020年1月2日(木)、1月3日(金)
各日11:00-11:30および14:00-14:30(※ギャラリートーク開催時は除く)
会場:広島市現代美術館 展覧会場
※要展覧会チケット、申込不要

 

 


 

同時開催
コレクション展 2019-Ⅱ コレクション・ハイライト+特集「ある心の風景Ⅱ―象徴と抽象」
2019年10月19日(土)-2020年2月2日(日)
https://www.hiroshima-moca.jp/exhibition/collection2019-2/

ビデオアートプログラムA「世界に開かれた映像という窓」
第67回:オーレル・フェリエ
2019年11月20日(火)-2020年2月2日(日)
https://www.hiroshima-moca.jp/exhibition/video67/
※1/13はイベント開催のため上映休止

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