ターナー賞2025最終候補


Cartwright Hall. Courtesy Bradford District Museums and Galleries – Bradford Council.

 

2025年4月23日、テート(Tate)は世界有数の現代美術賞として知られるターナー賞の2025年度の最終候補に、ニーナ・カルー、レネ・マティッチ、モハンマド・サーミ、ゼイディー・チャの4名を選出した。J・M・W・ターナー生誕250周年にあたる本年度の展覧会は、2025年のイギリス文化都市ブラッドフォードのカートライト・ホール・アートギャラリーを舞台に開催(9月27日〜2026年2月22日)。受賞者の発表および授賞式は12月9日に行なわれる。

イギリスのロマン主義を代表する画家、J・M・W・ターナー(1775-1851)の名を冠するターナー賞は、1984年の第1回以来、時代に応じて選考基準などに変化を加えながら、イギリスの現代美術の発展に貢献するとともに、現代美術に対する幅広い関心を生み出してきた。現在は、イギリス生まれ、あるいはイギリスに制作拠点を置くアーティスト/アーティスト・コレクティブを過去1年の展覧会を含む活動実績を選考対象に最終候補を選出。最終審査を兼ねた展覧会を通じて、受賞者を決定する形式を採用している。受賞者には賞金25,000ポンド(約474万円)、惜しくも受賞を逃した最終候補にはそれぞれ10,000ポンドが授与される。同賞40周年の節目となった昨年は、グラスゴーのシク教コミュニティ出身で、日常的な事物を考察し、音や音楽を通じて活性化することで、共同体や文化的記憶の継承を喚起する実践を試みたジャスリーン・コールが受賞している。

本年度の審査は、アンドリュー・ボナチーナ(インディペンデント・キュレーター)、サム・ラッキー(リバプール・ビエンナーレ ディレクター)、プリエシュ・ミストリー(ナショナル・ギャラリー近現代美術プロジェクト担当アソシエイト・キュレーター)、ハブダ・ラシード(フィッツウィリアム美術館近現代美術担当シニア・キュレーター)の4名、そして、テート・ブリテンのディレクターで審査委員長を務めるアレックス・ファーカーソンが担当。最終候補の発表に際し、ファーカーソンは「各アーティストが個人的な経験や表現を通じた独自の世界観を持っている」と評価し、「ターナー生誕250周年にあたり、その革新的な精神が今日のイギリス現代美術に今なお健在であることを誠に喜ばしく思います。この秋にブラッドフォードで開催される必見の展覧会を楽しみにしています」とコメントを寄せた。

ニーナ・カルー、レネ・マティッチ、モハンマド・サーミ、ゼイディー・チャの紹介と選考対象となった展覧会は以下の通り。

 


Nnena Kalu, Hanging Sculpture 1 to 10, installation view, 2024. Photo courtesy of Manifesta 15 Barcelona Metropolitana. Photo credit: Ivan Erofeev.

 

ニーナ・カルー(1966年グラスゴー生まれ)は、学習障害を持つアーティストの活動を支援するロンドンのAction Spaceで、四半世紀以上にわたり制作活動に取り組む。紙やテキスタイルで繭のような形を作り、そこに色鮮やかなセロファンやテープを巻きつけた立体を天井から吊り下げた彫刻インスタレーションや渦巻くような軌跡を繰り返し描いた抽象的なドローイングなど、行為の反復に根ざした制作を展開している。リバプールのウォーカー・アートギャラリーでの企画展「Conversations」(2024-2025)とバルセロナ都市圏で開かれたマニフェスタ15(2024)が選考対象となった。審査員は、素材や色彩、ジェスチャーに対する独自の理解と建築空間に対する極めて繊細な反応を高く評価した。

 


Rene Matić, AS OPPOSED TO THE TRUTH, Installation view, CCA Berlin, 2024. Photos: Diana Pfammatter/CCA Berlin.

 

レネ・マティッチ(1997年ピーターバラ生まれ)は、日常における喜びの一瞬や、広義の政治的文脈における優しさの表徴をとらえた、家族や友達を写した私的な写真を中心に発表してきた。選考対象となったCCAベルリンでの個展「AS OPPOSED TO THE TRUTH」(2024-2025)では、写真を重ねて立てかけたり、サウンドやバナー、オブジェなどを交えた複合的なインスタレーションを展開した。帰属意識やアイデンティティへの関心を表現し、親密かつ魅力的な一連の作品を通じて若い世代やそのコミュニティの幅広い経験を伝える能力が審査員に強い印象を残した。なお、1992年のダミアン・ハーストに次ぐ同賞史上2番目の若さでのノミネートとなる。

 


Installation view Mohammed Sami, After the Storm, Blenheim Art Foundation, Blenheim Palace, Woodstock, 9 July–6 October, 2024. Photographer: Tom Lindboe

 

モハンマド・サーミ(1984年バグダッド生まれ)は、イラク戦争やスウェーデンでの難民生活といった個人的な経験に基づき、記憶と喪失をテーマに心に残る夢のようなシーンをパターンや色彩を重ね描いた大型の絵画作品により知られてきた。サーミの絵画に人物は存在せず、空っぽの風景や室内、家具などが不在の身体や記憶のメタファーとして描かれている。選考対象となったのは、オックスフォードシャーのブレナム宮殿での個展「After the Storm」(2024)。審査員は、宮殿内のさまざまなロケーションに展開された、戦争と亡命を描き切るサーミの力強い表現を賞賛した。

 


Zadie Xa with Benito Mayor Vallejo, Moonlit Confessions Across Deep Sea Echoes: Your Ancestors Are Whales, and Earth Remembers Everything, 2025. Installation view. Courtesy of Sharjah Art Foundation. Photo: Danko Stjepanovic

 

ゼイディー・チャ(1983年バンクーバー生まれ)は、2025年2月に開幕し現在開催中のシャルジャ・ビエンナーレ16に出品したベニト・マヨル・バリェホとの協働制作《Moonlit Confessions Across Deep Sea Echoes: Your Ancestors Are Whales, and Earth Remembers Everything》が選考対象となった。チャは海を数多くの文化について語る伝統やフォークロアを探求するためのスピリチュアルな領域として捉え、サウンドスケープ、幽玄な絵画、ポシャギのパッチワーク、韓国の巫堂が儀式で使う鈴に着想した650個以上の真鍮の風鈴からなる彫刻で構成した展示を発表。審査員は、一連の作品群をチャの思慮深く魅惑的な実践を洗練したものとして評価した。

 

ターナー賞https://www.tate.org.uk/art/turner-prize

ターナー賞2025
2025年9月27日(土)- 2026年2月22日(日)
カートライト・ホール・アートギャラリー
「ブラッドフォード2025」公式ウェブサイト:https://bradford2025.co.uk/event/turner-prize/
参加アーティスト:ニーナ・カルー、レネ・マティッチ、モハンマド・サーミ、ゼイディー・チャ

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