ターナー賞2024


Jasleen Kaur at Tate Britain Photo: David Parry/PA Media Assignments

 

2024年12月3日、世界有数の現代美術賞として知られるターナー賞の授賞式が、同賞6年振りの展示会場となったロンドンのテート・ブリテンで開かれ、本年度の受賞者に日常的な事物を考察し、音や音楽を通じて活性化することで、共同体や文化的記憶の継承を喚起する実践を試みてきたグラスゴー出身のアーティスト、ジャスリーン・コールが選出された。

BBCニュースチャンネルで中継放送された授賞式で、授賞プレゼンターを務める俳優のジェームズ・ノートンから名前を呼ばれたコールは、パレスチナ・カラーでデザインされたスカーフを巻いて登壇し、授賞式に同席した友人や知人に謝辞を述べるとともに、会場の外に集まり、テートに対して、パレスチナに対するジェノサイドを続けるイスラエル政府と深いつながりを持つ団体との関係を断ち切ること、また、アートを通じてジェノサイドおよびアパルトヘイトから目を逸らすこと(アートウォッシュ)に反対する明確な態度をとることを求める抗議運動に対する連帯の意を示した。同内容を求める署名には、コールだけでなく、最終候補に残ったピオ・アバド、クローデット・ジョンソン、歴代受賞者や最終候補、審査員の一部も参加した。

 


Installation view, Jasleen Kaur’s presentation in Turner Prize 2024 at Tate Britain 25 September 2024 – 16 February 2025 © Tate Photography, Josh Croll


Installation view, Jasleen Kaur’s presentation in Turner Prize 2024 at Tate Britain 25 September 2024 – 16 February 2025 © Tate Photography, Josh Croll

 

ジャスリーン・コール(1986年グラスゴー生まれ)は、身の回りの物や慣習に積み重なった文化的記憶を作品制作を通じて探究し、帝国主義の影響の下で語り継がれてきた物語や歴史において、隠蔽されたり抑制されたりしてきたものに対する理解を深めてきた。近年の主な活動に、個展「Gut Feelings Meri Jaan」(タッチストーンズ・ロッチデール、ロッチデール、イギリス、2021)、ロンドンのウェルカム・コレクションによる委嘱作品《My body is a temple of gloom》(2021)、サーペンタインとインペリアル・ヘルス・チャリティによるレジデンス・プログラム(2019-2022)、グラスゴー女性図書館による委嘱出版物『Be Like Teflon』(2019)、Sky ArtsによるArt 50 festivalのための委嘱作品《Daughter of a Perpetual Foreigner》の上映(バルチック・センター・フォー・コンテンポラリーアート、ゲーツヘッド、2019)、グループ展「This Is Water」(ミドルズブラ現代美術館、イギリス、2018)、グループ展「The Driver’s Seat」(Cubitt Gallery、ロンドン、2018)など。2023年3月31日から10月8日まで、グラスゴーのトラムウェイで開かれた個展「Alter Altar」(キュレーション:クレア・ジャクソン)がターナー賞の選考対象となり最終候補に選出された。

『ターナー賞2024』の展示《Alter Altar》では、シク教コミュニティで育った自身の生い立ちにまつわる家族写真、巨大なレース上のナプキンが被せられたヴィンテージのフォード・エスコート、アックスミンスターカーペット(イングランド南西部デヴォン州の原産地の名にちなむ、複雑な多色模様の機械織り絨毯)風の絨毯、小さなベルの付いた手をかたどったオブジェ、ハルモニウム(インド式オルガン)などを配置、グラスゴーのポロックシールズ地区の空を表した吊り天井には、カセットテープや宗教的な図像、ターメリックの色がついた爪、ジャージ、政治的なチラシやステッカーなどを展開、フォード・エスコートのサウンドシステムから流れるスーフィー音楽やポピュラー音楽にアーティストの声が重なるだけでなく、小さなベルの音、植民地時代にルーツを持つハルモニウムの音色など、さまざまな音が鳴り響く空間を構成した。

審査員は、個人的なもの、政治的なもの、信仰的なものを織り混ぜ、連帯と歓喜の両方を示唆する視覚的・聴覚的体験を演出する考え抜かれた展示構成に注目。グラスゴーの清涼飲料大手の炭酸飲料アイアンブルー(Irn Bru)、家族写真、フォード・エスコートなどの素材を、思いもよらない遊び心にあふれた仕方で組み合わせることで、さまざまな声を呼び起こし、潜在するレジリエンスや可能性の瞬間を探り出す能力を高く評価した。本年度の審査は、審査委員長を務めるテート・ブリテン ディレクターのアレックス・ファーカーソンのほか、ロージー・クーパー(ワイジング・アーツセンター ディレクター)、エコウ・エシュン(ジャーナリスト、キャスター、キュレーター)、サム・ソーン(ジャパン・ハウス ロンドン館長/事務局長)、リディア・イ(キュレーター、美術史家)の5名が担当。コールの受賞作をはじめ、最終候補に残ったピオ・アバド、クローデット・ジョンソン、デライン・ル・バの作品を紹介する『ターナー賞2024』は来年2月16日まで開催されている。

 


Installation view, Jasleen Kaur’s presentation in Turner Prize 2024 at Tate Britain 25 September 2024 – 16 February 2025 © Tate Photography, Josh Croll

 

創設40周年を迎えたターナー賞は、1984年の第1回以来、時代に応じて選考基準などに変化を加えながら、イギリスの現代美術の発展に貢献するとともに、現代美術に対する幅広い関心を生み出してきた。現在は、イギリス生まれ、あるいはイギリスに制作拠点を置くアーティスト/アーティスト・コレクティブを対象とし、前年の展覧会を含む活動実績により最終候補を選出。同年に最終候補による展覧会を開催し、受賞者を決定する形式を採用している。2011年以降は、展覧会および授賞式をロンドン(テート・ブリテン)だけでなく、ロンドン以外の都市での開催も試みている。J.M.W.ターナー生誕250周年となる来年は、イングランド北部ウエスト・ヨークシャー州リーズに拠点を置く美術機関ヨークシャー・コンテンポラリーの協力の下、同州ブラッドフォードにあるカートライト・ホール・アートギャラリーを会場に開催される。

 

ターナー賞https://www.tate.org.uk/art/turner-prize

ターナー賞2024
2024年9月25日(水)- 2025年2月16日(日)
テート・ブリテン
https://www.tate.org.uk/visit/tate-britain
展覧会URL:https://www.tate.org.uk/whats-on/tate-britain/turner-prize-2024
参加アーティスト:ピオ・アバド、クローデット・ジョンソン、ジャスリーン・コール、デライン・ル・バ

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