第3回福岡アートアワード


牛島智子《家婦》2020年

 

2025年3月29日より、福岡市が同市内で目覚ましい活動を遂げ、今後も飛躍が期待できるアーティストを対象とした「福岡アートアワード」の本年度の受賞作家および受賞作品を紹介する「第3回福岡アートアワード受賞作品展」が、福岡市美術館 2階コレクション展示室にて開催される。3月3日に発表された本年度の受賞者は、市長賞(大賞)に牛島智子、優秀賞にオーギカナエ、SECOND PLANET、興梠優護の4組。審査員は昨年度に続き、美術史家・美術評論家の水沢勉、国立国際美術館 学芸課長の植松由佳、ナショナル・ギャラリー・シンガポール ディレクター(キュレトリアル&コレクションズ)の堀川理沙の3名が務めた。

市長賞を受賞した牛島智子(1958年福岡県生まれ)は、1980年代から現在にいたるまで40年以上にわたって幅広い活動を展開、とりわけ活動拠点を福岡・八女に移した90年代末以降は、同地で八女櫨研究会の立ち上げやワークショップの開催などにも取り組みながら、土地の風土・人物・労働などをモチーフとした精力的な活動を継続している。2022年には福岡県立美術館の「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」シリーズにて、回顧展「牛島智子 2重らせんはからまない」が開催、2023年には個展「葉室の光彩 工婦雨から実験へ」が福岡市内3会場で同時開催された。

受賞作品は2020年の個展「40年ドローイングと家婦」(福岡市美術館ギャラリーE)で発表した和紙製の立体作品《家婦》(2020)。牛島は受賞コメントにて、「私の仕事場は、いろんなものがまだまだ整理がつかないまま、ごちゃごちゃとにぎやかだ。例えるなら小劇団の稽古場のようで、作品は役者で、セリフを読んだり、衣装の縫物かと思えば、大工仕事をしている。今回、《家婦》は大きな舞台に抜擢されたんだなと誉れ高く思った。見た目はちっぽけだけどそれは大切なことだと思う。長い時間を素材に内包している。いろんな作品と美術館と共振して、長く愛される作品になるように願っている」と述べた。審査員の堀川は、牛島に「日常や土地固有の文脈と切り離されてしまったモダニズム絵画のある到達点への懐疑的姿勢」を見てとり、「土地独特の素材や、生活のなかで日々繰り返される多様な労働を彷彿とさせるモティーフには、作者の生活と制作とのゆるぎないつながりを感じた」と評価。植松は「自身の作家活動とともに子育てや家事と女性としての個人史もうかがえるが、それとともに広く女性たちへのエール、また社会に対する強い批判性を感じさせる良作」と称し、水沢は「近年の色彩の輝きの魅了の飛躍」が授賞における高い評価に繋がったと講評を寄せた。

 


オーギカナエ《空に登って集まって、めじろ眼鏡の森、白い花~植物は考え歩き行動する~》2024年

 

優秀賞の一人目は、オーギカナエ(1963年佐賀県生まれ)。受賞作品《空に登って集まって、めじろ眼鏡の森、白い花~植物は考え歩き行動する~》(2024)について、「自分自身が経験した豪雨や山津波の災害をいろいろな意味で消化できずにいた時に造形的な興味に従って手を動かしてゆくと自然と翻訳されたように小さなこの作品たちが生まれました」とコメントを寄せた。水沢は「「美しさ」に潜むなにものかとの対話を誘」う、堀川は「一見シンプルにみえて、かたちや色彩、スケールの変容が、空間で作品と見るものとのあいだに生み出す繊細な関係性に、注意深く、丹念に向き合う」作品と評価。植松はオーギが2017年から取り組む「スマイル茶会」にも言及しつつ、「水害によりスタジオが浸水被害を受けたオーギが、災害被害を受けながらも自らを取り巻く自然が有する力に視線を向け展開した新しいインスタレーション作品は強い印象を受けた」と講評した。

同じく優秀賞を受賞したSECOND PLANETは、アーティストの外田久雄と宮川敬一が1994年に結成し、マルチメディアを駆使し、多様な創作活動を、北九州を拠点として展開するアーティストユニット。1997年には小倉でギャラリー・ソープを開設。2019年にはアーティスト兼キュレーターの岩本史緒が加入している。受賞作品の《カタストロフが訪れなかった場所》(2024)は、1945年8月9日に原子爆弾を投下される第一目標だった小倉をテーマに、原子爆弾を積んでテニアン島から小倉に向かったB29のタイムラインを示すスライドと、展示会場の環境音やオンライン、オフラインで収集された音源を用いたサウンド・インスタレーションを通じて、歴史的な出来事が「起きなかった」ことを扱っている。水沢は「長崎の原爆投下をめぐる作品でありながら、歴史的検証を表現のきっかけとしているだけでなく、カタストロフ一般についての思念や感性を刺激するはず」、堀川は「膨大な資料のリサーチや編集作業を通して、歴史や近代をめぐる問題を今日へと接続する」、植松は「今なお世界各地で続く戦闘の地で、「カタストロフが訪れなかった場所」がさまざまな理由から日々生まれているのだろうかと考えさせられた」と、固有の事象を掘り下げることで普遍性を獲得するアプローチを高く評価した。

興梠優護(1982年熊本県生まれ)は、光の波長の一端として色彩を捉えてみるときに表れる光学的な側面、反射や屈折・フレアといった重なりをヒントに、根源的な普遍性と現代性を備えた像の表出を目指した絵画《/ 72》(2018/2020加筆)により優秀賞を受賞。植松は「人体をモチーフに据えながらも、リサーチを通じて体験・取得した光景や事物を重層的に構成。揺らぐイメージや色彩の拡張が印象的」、水沢は「じつに変化に富んだ色彩表現と画面構成を組み合わせることによって、絵画表現の未知なる領域を探索している」と評価。堀川は「個人的には、作品にみられる女性像がやや固定的でないか気になる部分もあったが、審査協議でそれを超える視覚的な実験性が認められると意見がまとまった」と講評した。

 


SECOND PLANET《カタストロフが訪れなかった場所》2024年


興梠優護《/ 72》2018(加筆2020)年

 

なお、堀川は講評にて、優秀賞を受賞したSECOND PLANETが「北九州を地盤にアジア各地の作家やコレクティブとの協働を、美術館などメインストリームのチャンネルを通さずして自ら切り開いてきたこと」を特筆に値するとし、「資本の集中する「中央」を介さずして、北九州から直にアジア各地の作家たちと横に連携し、展示活動やプロジェクトを展開してきた姿勢は、より多くの人に広く知られるべきだ」と強調するとともに、同じく優秀賞を受賞したオーギカナエの久留米からアジア作家との交流を長年育んできた活動と併せて、アジアとの深い結びつきのある福岡のアートアワードにふさわしい活動として取り上げた。

福岡アートアワードは福岡市が2022年度より推進するFukuoka Art Next事業の一環として、同年度に福岡市美術館が設立。第1回は鎌田友介(市長賞)、チョン・ユギョン、石原海、第2回はソー・ソウエン(市長賞)、イ・ヒョンジョン、山本聖子が受賞し、各作家の受賞作品が福岡市美術館に収蔵されている。第1回より審査員を務める植松は、同賞における贈賞形式という特徴に触れ、「かねてより日本の国公立美術館においては収集予算が少ない(ゼロの美術館も多い)ことが問題になっているが、アワードという制度を活用することで、美術館が優れた作品を収集する機会を持つということは、好例と言うべきだろう」と述べている。

 

第3回福岡アートアワード受賞作品展
2025年3月29日(土)- 6月1日(日)
福岡市美術館 2階コレクション展示室 近現代美術室B
https://www.fukuoka-art-museum.jp/

第3回福岡アートアワード受賞作家ギャラリートーク
2025年3月29日(土)14:00-15:00
会場:福岡市美術館 2階コレクション展示室 近現代美術室B
※要コレクション展観覧料、事前予約不要

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