第25回バロワーズ賞


ティファニー・シャ(フェリックス・ガウトリッツ、ウィーン)

 

2024年6月11日、バーゼルに本社を置く保険会社バロワーズ・グループは、アートバーゼルにおける新進アーティストの個展形式を条件とするステートメント部門に出品したアーティストを対象とする「バロワーズ賞」を、ウィーンのフェリックス・ガウトリッツから出品したティファニー・シャと、オスロのOSLコンテンポラリーから出品したアフメド・ウマルに授賞した。

シャとウマルにはそれぞれ賞金3万スイスフラン(約525万円)が授与されるほか、両者の作品をバロワーズ・グループが購入し、フランクフルト近代美術館(MMK)とルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]に寄贈する。本年度は、審査委員長のウィーン・ルートヴィヒ財団近代美術館[MUMOK]のカロラ・クラウスをはじめ、ルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]のマリ゠ノエル・ファンシー、フランクフルト近代美術館[MMK]のズザンネ・フェファー、クンストハウス・チューリッヒのアン・デメーステル、スイス人コレクターのウリ・シグの5名が審査を務めた。

 


ティファニー・シャ(フェリックス・ガウトリッツ、ウィーン)


ティファニー・シャ(フェリックス・ガウトリッツ、ウィーン)

 

ティファニー・シャ(1988年香港生まれ)は、アーティストとしてのみならず、映画監督としても活動。執筆にも精力的に取り組んでいる。物質文化(特に印刷物やフィルム/ビデオ)がいかにして統治や権力、認識を記録し、それらを可能なものにするのか、また、その結果として、そのような力がどのように香港のような場所における虚像を再生し、構築するのかに関心を持つ。主な個展に「Slippery When Wet」(アーティスツ・スペース、ニューヨーク、2021)、「Minor Landscapes」(フェリックス・ガウトリッツ、ウィーン、2022)、「Technical Difficulties」(マックスウェル・グラハム、ニューヨーク、2024)。主なグループ展に「Paraventi」(フォンダツィオーネ・プラダ、ミラノ、2023)、「Signals: How Video Transformed the World」(ニューヨーク近代美術館、2023)、「Scoring the Words」(ソウル市立美術館、2022)。執筆活動では『Film Quarterly』誌、『October』誌、『Artforum』誌などに寄稿。2019年に小冊子『Salty Wet』、2020年にはその続編となる『Too Salty Too Wet』を出版。2024年に初の著作集『On and Off-Screen Imaginaries』を出版している。

アートバーゼル2024のステートメント部門には、フェリックス・ガウトリッツ(ウィーン)から参加。香港・台湾映画界における伝奇・アクション映画の巨匠として知られるキン・フー[胡金銓]の軌跡を辿る映像を通じて、サルマン・ラシュディの「想像の故郷」(ディアスポラの人々が創造する故郷)の概念を熟考する映像インスタレーションを発表した。ドレープ(ひだ)状のスクリーンに投影された《The Sojourn》(2023)や、バックミラー型のビデオ彫刻《Antipodes III》(2024)が、観客に「混乱」の感覚を呼び起こすだけでなく、イメージの物質性を強調するとともに映像作品に絵画的な次元を付与。さらに、グローバルな映画学、映画や写真による実践における政治的側面、ドキュメンタリーの実験的アプローチに関する批評的エッセイ集『On and Off-Screen Imaginaries』を加えた展示構成が、従来とは異なる新しい映像体験をもたらすものとして評価を受けた。

 


アフメド・ウマル(OSLコンテンポラリー、オスロ)

 

アフメド・ウマル(1988年スーダン生まれ)は、制作の中心に物語を置き、語るべき物語に最も適した素材や技法を選ぶことで、アイデンティティや宗教、文化的価値観の問い直しを試みてきた。その作品はメッカ、サウジアラビア、スーダンでの保守的な家族や社会での生い立ち、社会的・文化的規範の外に生きる存在としての経験に影響を受けている。性的マイノリティの権利を求めるアクティビストとしても知られるウマルは、2008年に同性愛への迫害を理由にスーダンからノルウェーへと難民として渡り、2015年にFacebook上で自身が同性愛者であることを公表(ウマルを取材したドキュメンタリー映画『The Art of Sin』がイブラヒム・ムルサルにより制作された)。2018年にノルウェーに帰化し国籍を取得。主な個展に「Glowing Phalanges: Prayer Beads 99」(クンストネルネス・ハス、オスロ、2023)、主なグループ展、国際展に第22回シドニー・ビエンナーレ(2020)、「A Collection in the Making. Art – Architecture – Design」(オスロ国立美術館、2020)などがある。

アートバーゼル2024のステートメント部門には、OSLコンテンポラリー(オスロ)から参加。土産物屋に並ぶありふれた陳腐なものと化してしまったオブジェを、詩的かつ霊的なオブジェに変容させた15点の彫刻群を発表。木、石膏、ゴム、金属などの素材を組み合わせ、イスラム教の複雑さ、さまざまな地域で伝承、実践される方法の多様性を示唆するとともに精神性が書物にのみ宿るという誤解に言及する、なめらかなアッサンブラージュを作り出した。

 

バロワーズ賞https://art.baloise.com/
アートバーゼルhttps://www.artbasel.com/basel

 


アフメド・ウマル(OSLコンテンポラリー、オスロ)


アフメド・ウマル(OSLコンテンポラリー、オスロ)

 


過去10年の受賞者
2023|スカイ・ホピンカ(Sky Hopinka)、シン・ワイ・キン(Sin Wai Kin)
2022|ヘレナ・ウアンベンベ(Helena Uambembe)、トルマリン(Tourmaline)
2021|キャメロン・クレイボーン(Cameron Clayborn)、ハナ・ミレティッチ(Hana Miletić)
2020|実施せず
2019|ジュリア・チェンチ(Giulia Cenci)、シンイー・チョン(Xinyi Cheng)
2018|ハン・ソギョン(Suki Seokyeong Kang)、ローレンス・アブ・ハムダン(Lawrence Abu Hamdan)
2017|サム・ピュリッツァー(Sam Pulitzer)、マーサ・アティエンザ(Martha Atienza)
2016|サラ・スウィナー(Sara Cwyner)、マリー・レイド・ケリー(Mary Reid Kelley)
2015|ベアトリス・ギブソン(Beatrice Gibson)、マチュー・クレイベ(Mathieu Kleyebe)
2014|ジョン・スクーグ(John Skoog)

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