第24回バロワーズ賞


Sky Hopinka, Broadway Courtesy Art Basel

 

2023年6月14日、バーゼルに本社を置く保険会社バロワーズ・グループは、アートバーゼルで新進アーティストの個展形式を条件とするステートメント部門に出品したアーティストを対象とする「バロワーズ賞」を、スカイ・ホピンカとシン・ワイ・キンに授賞したと発表した。

ホピンカとシンにはそれぞれ賞金3万スイスフラン(468万円)が授与されるほか、バロワーズ・グループが両者の作品を購入し、フランクフルト近代美術館(MMK)とルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]に寄贈する。本年度は、審査委員長のウィーン・ルートヴィヒ財団近代美術館[MUMOK]のカロラ・クラウスをはじめ、ルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]のベッティナ・シュタインブリュッゲ、フランクフルト近代美術館[MMK]のズザンネ・フェファー、ハンブルガー・バーンホフ現代美術館のガブリエレ・クナプシュタイン、スイス人コレクターのウリ・シグの5名が審査員を務めた。

スカイ・ホピンカ(1984年ワシントン州ファーンデール生まれ)は、ネイティブ・アメリカンのホーチャンク出身で、ルイセーニョ・インディアンのペチャンガ・バンドにルーツを持つ映像作家。先住民族の歴史や現代社会での経験を扱いながら、その高い編集技術を通じて、従来の直線的な映像体験をゆさぶり、ときほぐすような新たな映像表現の可能性を探究している。これまでに、ニューヨーク近代美術館やナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.)などの美術館や多数の映像祭で作品を発表。2022年にはマッカーサー・フェロー(ジーニアス賞)に選出されている。現在、開催中の第14回光州ビエンナーレにも出品。Broadway(ニューヨーク)からの出展となったアートバーゼルでは、4チャンネルの映像作品《Just a Soul Responding》を発表。車でアメリカを移動する、ロードムービーの伝統的なモチーフから始まる同作は、映像、言語、音楽を駆使した詩的なモンタージュを通じて、先住民が直面している伝統の喪失におけるトラウマ、自然環境における霊的重要性といった問題を扱っている。現代文明社会の影響により消滅の危機に瀕している伝統的な生活様式をさりげなく呼び起こす映像表現が高く評価された。

 


Sin Wai Kin, Soft Opening Courtesy Art Basel

 

シン・ワイ・キン(1991年トロント生まれ)は、パフォーマンスや映像、文章、印刷物など、さまざまな手段を駆使したストーリーテリングにより、日常にフィクションを持ち込む実践を展開している。二極の間に存在する自分自身の経験を生かし、欲望や同一化、意識化に関する当事者としてのリアリティに、フィクションを通じてさまざまな形を与えている。2022年には、「ブリティッシュ・アートショー9」(アバディーン、2021/ウルヴァーハンプトン、マンチェスター、プリマス、2022)と、2021年のフリーズ・ロンドンにおけるBlindspot Galleryでの個展形式の発表により、ターナー賞の最終候補に選ばれている。そのほか、個展「Dreaming the End」(フォンダツィオーネ・メンモ、2023)やグループ展「Drawing Attention」(英国美術館、2022)、ニューヨークのグッゲンハイム美術館でのパフォーマンス「the story changes the body changes (repeating)」(2022)など、精力的に発表を続けている。Soft Opening(ロンドン)から出展となったアートバーゼルでは、展示空間に設置されたモニタに、古典的な表象を逸脱したキャラクターがゆっくり執拗に映し出される作品を発表。女性性や男性性という幻影や美術史の教科書における幅広い表現など、異なる領域の研究に基づいた映像作品は、「二極」を示すさまざまなメタファーを用いながら、アイデンティティや欲望、対象化を構築する規範的なプロセスを超越した超現実的な語りを展開していると評価された。

 

バロワーズ賞https://art.baloise.com/
アートバーゼル2022https://www.artbasel.com/basel

 


過去10年の受賞者
2022|ヘレナ・ウアンベンベ(Helena Uambembe)、トルマリン(Tourmaline)
2021|キャメロン・クレイボーン(Cameron Clayborn)、ハナ・ミレティッチ(Hana Miletić)
2020|実施せず
2019|ジュリア・チェンチ(Giulia Cenci)、シンイー・チョン(Xinyi Cheng)
2018|ハン・ソギョン(Suki Seokyeong Kang)、ローレンス・アブ・ハムダン(Lawrence Abu Hamdan)
2017|サム・ピュリッツァー(Sam Pulitzer)、マーサ・アティエンザ(Martha Atienza)
2016|サラ・スウィナー(Sara Cwyner)、マリー・レイド・ケリー(Mary Reid Kelley)
2015|ベアトリス・ギブソン(Beatrice Gibson)、マチュー・クレイベ(Mathieu Kleyebe)
2014|ジョン・スクーグ(John Skoog)
2013|ジェニィ・ティシャー(Jenni Tischer)、ケマン・ワ・レフレーラ(Kemang Wa Lehulere)

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