韓国美術家賞2020


Lee Seulgi, DONG DONG DARI GORI (2020) Door, water, play, song, Dimensions variable. Installation view of Korea Artist Prize 2020 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.

 

2021年3月31日、韓国国立近現代美術館は韓国国内有数の現代美術賞である韓国美術家賞をイ・スルギに授与した。韓国美術家賞2020は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、例年とは異なるスケジュールで実施され、最終審査を兼ねた展覧会にはイ・スルギのほか、キム・ミネ、チョン・ユンソク、チョン・ヒスンが参加していた。

韓国美術家賞2020を受賞したイ・スルギ(1972年ソウル生まれ)は、日常的な物、言語、そして、自然のなかにある形や構造への関心を、造形美を特徴とする彫刻やインスタレーションを通じて探究してきた。伝統工芸や民芸からの着想や、統営のヌビ(刺し子)やメキシコの伝統的な籠細工のような民芸の職人との協働を積極的に制作に取り入れている。1992年以来、現在に至るまでパリを拠点に活動し、2000年にはパリ国立高等美術学校のジャン=リュック・ヴィルムートのクラスでDNSAPを取得。2000年から韓国やフランスをはじめとするヨーロッパを中心に作品を発表し、2014年には第10回光州ビエンナーレに参加。近年の主な個展に『COPROLITH!』(ミメーシス美術館、坡州、韓国、2015)、『Echo』(Sindoh Art Space、ソウル、2016)、『DAMASESE』(galerieJousseEntreprise、パリ、2017)、『DAMASESE』(Gallery Hyundai、ソウル、2018)、『SOONER’S TWO DAYS BETTER』(ラ・クリエ現代美術センター、レンヌ、2019)などがある。

『韓国美術家賞2020』では、朝鮮半島伝統の建築様式の韓屋に使用される扉と民謡から着想した新作インスタレーション《DONG DONG DARI GORI》を発表した。韓屋にはその木製の障子戸や障子窓を通り抜ける月光が室内を幻想的に照らすという特徴があり、そうした要素を展示室内に持ち込むべく、イは月の回転や民謡のリズムを壁画として実現。別の壁面にはCOVID-19の影響により、会うことのできない悲しみや苛立ちを抱えた友人たちに送ってもらった世界各地のさまざまな河川の水で満たされたガラスの容器を吊るし、そのほか、韓国の民謡やフランスの伝統的なゲームが作品全体に遊び心を持ち込んだ。建築家や伝統的な建具職人、ガラス技術を持つ専門家との協働を通じ、同作は、人の手がつくりだす事物が有する魅惑的な造形に対するアーティスト自身の長きにわたる省察を実証し、人間と自然との本質的な関係性の謎に迫るものとなった。審査委員会は、伝統に対して遊び心に溢れた現代的な視点からの解釈を試み、洗練された独自のサイトスペシフィックなインスタレーションが、とりわけCOVID-19の時代において、関係性を構築することのメタファーに対する繊細なアプローチを提示しているとして高評価を与えた。

 


Lee Seulgi, DONG DONG DARI GORI (2020) Door, water, play, song, Dimensions variable. Installation view of Korea Artist Prize 2020 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.


Lee Seulgi, DONG DONG DARI GORI (2020) Door, water, play, song, Dimensions variable. Installation view of Korea Artist Prize 2020 at MMCA Seoul. Photo: Hong Cheolki. Image provided by MMCA.

 

『韓国美術家賞2020』ではイのほか、キム・ミネは、複数の彫刻や構築物からなる新作インスタレーション《1.안녕하세요 2. Hello》を発表し、一群のオブジェがそれぞれ互いに連鎖反応を起こすことで展示室の特徴的な建築構造を際立たせ、不条理な状況劇をつくりだそうと試み、写真をその主な表現媒体として扱うチョン・ヒスンは、アーティスト仲間に自分のアーティストとして生きることの考えや悩みを伝えたやりとりを、ポートレートや日常生活にあるオブジェのイメージ、制作過程の交わした会話の断片へと変換し、音楽を加えたインスタレーションとして発表した。また、アーティスト兼映像作家のチョン・ユンソクは、中国のセックスドール(ラブドール)工場、日本で複数のセックスドールと生活する中島千滋、政治におけるAIの使用を前面に押し出し出馬した松田道人を取材し、現在と起こりうる将来のグロテスクな風景をさらけ出し、個人の生活と選択を通して、「人間とはなにか」を問うた長編ドキュメンタリー映画『Tomorrow』を中心に複数の写真と映像で構成したインスタレーションを発表。

韓国美術家賞は、韓国国立近現代美術館とSBS財団が2012年に設立し、韓国現代美術に貢献し、新しいヴィジョンや可能性を探求するアーティストの支援を目的としている。絶え間なく変わる美術界の多様な視点を反映し、韓国美術に対する国際的な関心を促進するために、毎年新しい国内外の専門家を審査委員に迎えている。最終候補に選ばれた最大4組のアーティストは、SBS財団から4000万ウォン(約385万円)の経済的支援を受け、韓国国立現代美術館で開かれる最終選考を兼ねた展覧会で新作を発表。会期中に受賞者の発表と授賞式が催され、受賞者には賞金1000万ウォンが贈呈される。また、2015年に同賞受賞者および最終候補に選ばれたアーティストのための海外活動基金を設立し、国際展での制作支援など、数々のプロジェクトの支援を行なっている。

 

韓国美術家賞http://koreaartistprize.org/

韓国美術家賞2020
2020年12月4日(金)〜2021年4月4日(日)
韓国国立現代美術館 ソウル館
http://www.mmca.go.kr/
参加アーティスト:キム・ミエ、イ・スルギ、チョン・ユンソク、チョン・ヒスン
キュレーター:イ・サビン(韓国国立現代美術館キュレーター)

 

 


 

韓国美術家賞2020審査委員会
ロリータ・ヤブロンスキーネ(ヴィリニュス国立美術館チーフキュレーター)
パトリック・D・フローレス(フィリピン大学美術学部教授、シンガポール・ビエンナーレ2019アーティスティックディレクター)
クリストファー・Y・ルー(ホイットニー美術館キュレーター)
イ・ヨンチョル(桂園芸術大学校教授)
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)※投票権なし

韓国美術家賞2020運営委員会
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)
パク・ジョンフン(SBSヒマンネイル[希望明日]委員会委員長)
ペ・スンフン(元韓国国立現代美術館ディレクター)
ムン・キョンウォン(アーティスト、梨花女子大学校准教授、2012年韓国美術家賞グランプリ)
アン・ギュチョル(アーティスト、韓国芸術総合学校教授)

 


 

歴代受賞者および最終候補(太字はグランプリ)
2020イ・スルギ、キム・ミネ、チョン・ユンソク、チョン・ヒスン
2019イ・ジュヨ、キム・アヨン、ホン・ヨンイン、パク・ヘス
2018サイレン・ウニョン・チョン、ク・ミンジャ、オキン・コレクティヴ、チョン・ジェホ
2017ソン・サンヒ、パク・ギョングン、ペク・ヒョンジン、サニー・キム
2016mixrice、キム・ウル、バク・スンウ、ハム・ギョンア
2015オー・インファン、キム・キラ、ナ・ヒュン、ハ・テボム
2014ノ・スンテク、ク・ドンヒ、キム・シニル、チャン・ジア
2013コン・ソンフン、シン・ミギョン、チョ・へジョン、ハム・ヤンア
2012ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、ギム・ホンソック、イ・スギョン、イム・ミヌク

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