VOCA展2009

2009.3.15-30
上野の森美術館 
http://www.ueno-mori.org/

文:ドナルド・ユーバンク(アートジャーナリスト/東京在住)


Nawa Kohei Catalyst #11, 2009
Vinyl acetate and polystyrene on acrylic panel

毎年、評論家やキュレーター、ジャーナリストが推薦する40歳以下の若手作家を紹介して賞を与えているVOCA展で、今年とりわけ目を引いたのが名和晃平の「Catalyst #11」である(木ノ下智恵子推薦)。この作品が特異なのは、真っ白な画面の上に編み目のように広がる黒い不定形という画面構成ばかりでなく、その素材にも、したがって、平面アートを16年にわたって取り上げてきた同展の他の作品に対して、この作品が提起する諸々の問題にも因っている。油絵具やアクリルでキャンバスに、水彩、インク、顔料などで紙に描く代わりに、アクリルパネルに酢酸ビニルとポリスチレンを用いることで、極めて現代的な作品を生み出していた。
 
今回の展示では、絵画の復活を示すかのような力強い作品が見られた。佐藤修康の激しい抽象、生川晴子の月をめぐる夢のような瞑想、小西紀行の幽霊のような少年。まさに発見と言えるのは、西洋の印象派や後期印象派と、アジア芸術に特有の表現主義との関係を探った吉岡千尋の「エトランジェの視力検査」だ(原久子推薦)。

27歳の吉岡は、キャンバスのサイズと形状を自作の重要な要素として、出展作家の中で最も巧みに使いこなしていた。50を超える奇妙な形の小品と、大作1点を並置。薄塗りの淡い青、ピンク、オレンジで描かれた大作は、主題を小品から抽出し、アジアを象徴するようなイメージに加え、現代的な風景や抽象的なモチーフを取り入れていた。

出展作の内、日本画は巨大な画面やミクストメディア、主題の組み合わせなど、洋画ではすでに試みられた技法(トリック)によって、現代的な意義をいまだに模索しているように見えた。重く暗い主題が多い日本画の現状を象徴していたのは、伴戸玲伊子のシンプルな作品だろう(大野正勝推薦)。一見抽象画にも思えるが、「Holy Water」というタイトルから、赤と白で描かれているのは揺らめく水面に映る神社であることがわかる。完璧とまでは言わないが、日本画の可能性を感じさせてくれた作品である。

出展作品は実に多様で、魅力的な視覚芸術の外れ者(アウトライヤー)たちが世に送り出されている。イメージを重層させる苅谷昌江、「0(ゼロ)」を蓄積することで無から有を生み出す田中幹、遊び心あふれる木製パネルの根岸文子らだ。しかし真の「展望(ヴィジョン)」という意味では、名和、そしてシルクのベールに包まれた記憶を描いた竹村京、PVC(ポリ塩化ビニル)を踊るような人型に切り抜いた小金沢健人こそ、21世紀における平面作品の可能性に挑む最も果敢な作家である。


Yoshioka Chihiro Testing the Eyesight of a Stranger, 2009
Tempera, pigments, nikawa (animal hide glue) on washi, canvas and panel

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