ジョーン・ジョナス インタビュー(3)


Volcano Saga, photograph, Iceland, 1985. Photo Joan Jonas. All images: Courtesy Wako Works of Art, Tokyo.

 

浮遊するイメージ、動かされる手
インタビュー / アンドリュー・マークル

 

ART iT 構造や形式、ビデオというメディウムを扱うことで、鑑賞者は初期のパフォーマンスにいくつかの異なるリアリティを同時に見ることができるとおっしゃいましたが、個人的に、それこそが初期作品と近作の物語を扱ったプロジェクトが繋がる点ではないかと思うのですが。

JJ その通りです。ただ私の年齢が増えただけで、多かれ少なかれ制作方法は変わっていません。おとぎ話を70年代に扱いはじめて気がついたのは、そうした物語を描写するとき、そこには神話が隠されているような過去の作品に似た抽象的概念があるということです。その後、私は壮大な物語に興味を抱き、80年代には物語の扱い方の探究に充実した時間を費やしていました。以来、私の作品はイメージやテキストのレイヤーを通して、いかに物語を語るのかを探究しています。

 

ART iT 物語を分析し、断片化して、鑑賞者をさまざまな方向へと向かわせるわずかなテキストやナレーションによって、それら断片を繋ぎ合わせるという独特な方法を考え出しましたよね。

JJ ハリウッドや映画的な方法ではなく、より詩的な方法で制作することを選びました。詳細な設定がある物語映画の制作には興味がありますが、これまでのところ、視覚的な作品ということもあり、物語を語るテキストの量は制限しています。「The Juniper Tree」(1976)では、ほとんど物語全体を使いましたが、その後、各物語、テキストを編集し、それらを如何に再配置できるのかという実験を行ないました。

 

ART iT そういう意味では「火山のサーガ[Volcano Saga]」(1985)は、重要な飛躍となりましたか。

JJ そうですね。しかし、「火山のサーガ」、そして「Double Lunar Dogs」(1984)は問題を含んだ作品だと考えています。みんな「火山のサーガ」を気に入ってくれますが、これらの作品はおそらく過剰に断片化されています。私はスタジオで撮影した各部分とパフォーマンスを如何に結び合わせるかという実験を行ないました。このふたつの作品はテレビのために制作していて、80年代に突如、アーティストがテレビスタジオへのアクセスを得た時代に制作したというのが面白いですね。そのときは多額の助成金を得て、以前はできなかったことができるようになりました。編集といっしょに夜、スタジオの営業時間外に作業しなければならなかったのですが、特殊効果を試してみたり、70年代とはまったく違うそういう状況を探っていってましたね。
「火山のサーガ」にはさまざまなレベルがあり、パフォーマンス、アイスランドの映像、それらがスタジオでパフォーマーと混ざり合います。このふたつの作品で初めてプロのパフォーマーと仕事をしました。それがこれらの作品に強さをもたらしているかもしれません。

 




Top: Volcano Saga, installation, Queens Museum of Art, New York, 2003-04. Photo Ari Hiroshige. Bottom: Volcano Saga, performance, The Performing Garage, New York, 1985/87. Photo Gabor Szitanyi.

 

ART iT 鑑賞者の立場からは、インスタレーションの場で異なるメディアや要素のすべてが交差していることは非常に刺激的です。ある部分を制作し、それをほかのものと一緒にするとき、それらすべてが凝集するような空間をあらかじめ想像していますか。

JJ アーティストは時に自作に対して非常に批評的になります。私は常にそうです。そして、そういう姿勢こそが次の作品へと向かわせるのではないでしょうか。ある作品に取り組んでいるとき、鑑賞者の位置、つまり外側から作品を見るようにして、どのように作品を成立させるかを作品の内側から考えています。
デジタル技術によって今では自宅でなんでもできるようになりましたが、70年代は、一晩もしくは数晩の間にスタジオで編集できるようにすべて計画しなければいけませんでした。今はコンピュータを使って、編集に数週間費やすこともできます。制作過程において、編集が最も興味深いプロセスのひとつだということに気がつきました。質問に出た空間という要素は、最初期から私が作品において最も重要だと考えてきたもののひとつです。私はいつも特定の空間を念頭に置いて作業しています。自分でデザインした舞台、ディア・ビーコンの想像を刺激する屋内空間、同じように刺激的なジョーンズ・ビーチの屋外空間。こうした物理的な空間と並んで、モニターの空間やカメラの空間、つまりカメラが見る空間だったりもします。

 

ART iT 「物の形、香りと手触り」から「ダンテを読む[Reading Dante]」(2008)や「リアニメーション[Reanimation]」(2010-12)へと進展していくように、各作品が別の作品へと波及していくという印象もあります。たとえば、犬とともにいる女性のイメージ、メランコリアは何度も反復して現れていますよね。

JJ 重なり合う部分もありますね。いくつかのアイディアに関心を持っているのですが、理解が不十分だったり、探究し続けたいと思ったりして、それらのアイディアを拡張させています。「ダンテを読む」には出てきませんが、「物の形、香りと手触り」や「リアニメーション」には犬とともにいる女性が出てきます。
「メランコリア」のイメージを「物の形、香りと手触り」のために制作しましたが、さまざまな世代の美術史家がそのイメージを主要なものと考えています。ヴァールブルクの場合もそうでしたね。言うまでもなく多数の解釈のレベルがあり、この場合は私のそれぞれの作品ということですが、異なる文脈にあるイメージやコンセプトが置かれることで、それらがどのように変わるのかということに興味があります。そのほか、自然界に関連しているある種の悲しみを示すのも、メランコリアのイメージを使う理由です。私の作品にはしばしば初期作品からの引用が含まれています。近作「リアニメーション」の作品タイトルは、ハルドール・ラクスネスの小説『極北の秘教』に由来しています。滅多に見せることのない作品ですが、私は73年にプールで泳ぐ人々と作品を制作しており、その作品を「リアニメーション」の中へと溶け込ませています。氷河について考えれば、氷が溶けるというコンセプトを思いつきますよね。水の世界を見つけ出すために自分の作品へと立ち戻っていくことに興味があったのです。過去の作品が融解する氷河という文脈のもとで作用しているのがいいですよね。異なる方法であるものを使って、そのものの意味をどう変えられるのかに興味があります。これもまた、リアニメーションですね。

 

ジョーン・ジョナス インタビュー(4)

 

 


 

ジョーン・ジョナス|Joan Jonas

1936年ニューヨーク生まれ。映像を用いたパフォーマンス・アートの先駆的存在かつその歴史における最も重要なアーティストのひとりとして知られる。美術史と彫刻を学んだ後、60年代後半から70年代にかけて、鏡や衣装、小道具、ドローイング、映像などを組み合わせた実験的なパフォーマンスやインスタレーションを屋内外で発表。幅広いイメージの源泉から、さまざまな表現手段を用いて、独自の視覚言語を織り上げている。

これまでにニューヨーク近代美術館、バルセロナ現代美術館、レイナ・ソフィア国立現代美術館、テート・モダンをはじめとする世界各国の美術館で個展を開催、パフォーマンスを発表している。また、ドクメンタやヴェネツィア・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレなど、多数の企画展、国際展に参加している。日本国内では、CCA北九州やワコウ・ワークス・オブ・アートでの個展のほか、横浜ビエンナーレにも参加している。

 

ジョーン・ジョナス インタビュー
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