艾未未のことば 1 艾未未香港対話

艾未未香港対話
訳・責任編集/牧陽一

艾未未事件の核心——序文に替えて 文/牧陽一

杜婷[Du Ting] 皆さんこんにちは。Co-China論壇へようこそ、私たちの今日のテーマは艾未未との対話です。艾先生については皆さんよくご存じのはずです。著名なアーティストとしてはもちろんのこと、ここ数年の誰もが最も熟知している役割、公共的な知識人、オピニオンリーダー、5・12四川汶川大地震の小中学生被害者の調査、ネット上で知れ渡っている「老媽蹄花」(2009年8月12日深夜、艾未未が成都警察に襲われた事件の映像記録、YouTubeで見ることができる)など皆さんよく知っているでしょう。ですからここで艾先生の行ってきたことを羅列しません。最初にドイツで放送された短い番組を見ましょう。

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艾未未[以下、AWW] 皆さんこんにちは。艾未未です。さっき見たのはドイツのテレビ局が放送したものです。出来はそんなによくありませんが、でも皆さんは私が何をやってきたかをかなり理解できたでしょう。私は1人のアーティストであると同時に、建築や出版、美術展の企画もやっています。でも今はほとんどの時間をインターネットを使って「調べる」ことに費やしています。
私の3つのブログは2008年の同じ日に封鎖されました。多分その原因は私は5・12四川汶川大地震で亡くなった小中学生についての社会調査を行なったからだと思います。私たちはこれを「公民調査」と呼んでいます。調べる理由は、政府が死亡した学生の名簿公開を拒否したからです。ただ、私たちは死亡した学生の数字を提示しただけで、しかも正確ではありません。
私たちは政府機関に幾度も電話しました。いったいどれだけの人が亡くなったのか、それは誰なのか私たちは知りたかったのです。でも政府は「おまえは誰だ?」と訊き、私は「一個の人間だ」と言いました。中国では一個の人間としてでは政府の情報を知ることができないようです。彼らは何か外国の組織による反中国勢力が支持する者だと看做し、スパイではないか、CIAか何かかと訊いてくる、結果私たちの会話はこれ以上進みようもなくなる。
私たちは政府機関に100回以上電話をしたが全ての答えは皆同じでした。一、あなたにはこの名簿を手にする権利はない。二、この名簿は国家機密だ。実に滑稽ではないかと思いました。なぜなら死んだのは私たちの兄弟姉妹なのに、彼らの名前が分からない。それなのに、なぜ私たちはそれを訊いてはいけないのだ。
それなら簡単だ。私たちはこの名簿を調査する、誰がこの調査に加わりたいかと、ネットでこの運動を発動しました。すぐに100人以上の志願者の反応がありました。その誰もがこの運動に参加したいと言う。私たちも当地でどれだけの人が亡くなり、それは誰なのか知りたいと思いました。
その後私たちは組織的な仕事を行いました。まず、アンケートシートを送りました。私たちは皆に一時的な熱情で調査をしてほしくなかった、この調査には多くの困難がつきまとうことを知ってほしかったのです。アンケートの質問は、夜一人で歩けますか、四川料理は食べられますか、四川方言は分かりますか、経済的な援助は必要ですか、さらにはこの調査が政府の反感を招くかもしれないことを分かっていますか、警察との対立は恐ろしくないですか、といったものでした。アンケートを通じて、思想的な準備をしてほしかったのです。あなたがすることは情熱さえあればいいというものではない、相当困難な事なのだと。
倒壊はもっぱら20の小中学校に発生した。大量の死亡は10の小中学校に集中している。そしてこれらの学校を四川政府が厳重に監視していて、外地からの取材、犠牲者の父兄が外地からの取材に応じること、名簿を外に出すことを禁じています。結果、私たちの調査は実に奇妙なものとなりました。私たちの調査員は30数回警察の妨害を受け、苦労してやっと手に入れた名簿も警察にベタ塗りにされ、破かれ、録音や録画記録も没収されたり破棄されたりしました。
1年の努力を経て、私たちは5212人の名前を奇跡的に見つけ出しました。その内の4851人については名前、生年月日と学校名、クラス名、そして地震の時に何が起こったのかが分かりました。これらを元に私たちは『花臉巴児』というドキュメンタリーを制作しました。

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私は犠牲者学生名簿、亡くなったのはいったい誰なのかということに興味がありました。それでアーティストが所謂政治活動家に変わってしまった。ここが私の面白いところだと思います。中国で政治活動家になろうとするのは至極容易なことです。私は世界で有名な政治活動家となってしまいましたが、これは実に奇妙なことです。
もちろん私のやることはこれらに止まりません。なぜなら、基本的に私は不合理を感じさえすれば、直接反応するか何か行動を起こします。これらの行動はいつも国家政権転覆に関係すると看做されてしまう、なぜならこの国家政権が実に容易に転覆するから。基本的にあなたはあれこれ考えすぎなくていい、あなたこそが国家政権を転覆する、もしあなたがこの国に関心があるなら、あなたも国家政権を転覆する。私たちは実に脆弱な政権に出会ったのです。
私が負傷したのはさっきのビデオで出てきた譚作人裁判と関係があります。彼は環境保護主義者で、同様に5・12四川汶川大地震学生犠牲者名簿に関心があって、彼がやったのも「公民調査」と呼ばれます。彼は私たちの前に在る人ですが、面識がなく、以前は彼の事を知りませんでした。当然彼は当地の政府に国家政権転覆扇動罪と起訴され、一審では懲役5年の判決を受けた。彼の弁護士の浦志強が私に言いました:「艾未未よ、あなたがやっていることは彼に似ている、彼の裁判で証言するか」。私は言いました:「もちろん証言に立ちたい。彼を裁くのなら私をも裁くべきだろう。私が彼のために証言しないなら、誰も私のために証言してはくれない」。
私が四川へ行くとその日の夜、一台の車が私たちの旅館の下に止まっていました。それは「国宝[国宝は国保と同音、国保とは「公安部国内安全保衛局」]」でした。私が彼らにとった態度はというと、直接その車に行って、私を探しているのかと訊いたのですが、その時彼らは驚いてすぐさま、車を走らせていってしまいました。話せば実に可笑しいことですが、何事によらず、秘密裏にあなたを追跡している人がいて、その人にあなたが直接「あなた方は私を探しているのか」と言う。彼らの誰もが人に決して看破られたくないから、当然日頃誰もこんなことを訊いてはこない、だからいつも彼らはうまくいっているような気になっているのです。
そして寝付いて3時間ぐらい経った夜中の3時、私たちのビル全体がハリウッド映画みたいなことになりました。すべてのドアが蹴破られて、ドア一枚全部破られたのもありました。私は先ず110番に電話しました。誰かが私たちの泊っている旅館に闖入してきたと。そして私はドアの向こうの人間に誰だと訊きました。彼らは警察だと言う。私は自分たちが警察だとどう証明できるのか訊きました。彼はドアビュアーから見てみろと言う。私はなぜ見なければいけないのかと言いました。すると彼らは腹を立ててドアを蹴破って私を殴ったのです。その時私はまともだったと思う、なぜなら警察はどのみち人を使って殴らせる、私だって初めての事ではなかった、だが頭はずっと痛かった。
1ヶ月後、私がドイツへ行って美術展を開催した時、博物館の館長がかなり心配性の人で、絶対に病院へ行けと言うのです。病院へ行くと医者はすぐに入院しろと言う。その医者は最も優れた脳外科医でミュンヘン大学の脳外科専門でした。彼はその時こんなに酷い大脳内出血は4年に一度やっと出会うぐらいのものだ、と言ったのですが、私はその時にはもう感覚がありませんでした。当時幸いにも入院できて、今こうしてここに立って皆とおしゃべりすることができるのです。気軽にお話ししましょう。

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会場からの質問 四川汶川大地震から2年が経とうとしています。でも政府はオカラ手抜き工事の存在を認めません。人権を守ろうとする犠牲者の父兄たちはいまだに弾圧を受けています。あなたは私たちにまだ何ができると思いますか?さらに四川汶川大地震2周年に寄せて何か行動は予定していますか?

AWW 四川汶川大地震は素晴らしい教材です。表面的に見れば天災であり、あんなに多くの死者を出しましたが、実際に露見した問題は非常に多いです。私たちは知っている——四川汶川大地震での小中高学生の犠牲者数は政府側の報道では5335人、私たちの調査では5212人、不足分はどうしても調査できない。この調査は政府でしかできない、なぜなら政府は亡くなった遺族に弔慰金を支払うから。彼らの手には完全な名簿があります。だから政府がどんな理由でもこの調査は難しいとか複雑だなどと言うのは全て嘘なのです。
それなら誰もが政府はこんな天災(の調査)に対してなぜ様々な方法で妨げようとするのか、それに何の意義があるのか、と訊くでしょう。明らかにここに大きな意義があります。私たちは中国に「普九[9年義務教育を普及させる]」政策があることを知っています。ある時期に全ての人が学校へ行き、9年の義務教育を全うしなければいけないという政府の規定が決まりました。この計画を聞けば素晴らしいものに思うでしょう、中国のあらゆる政策のように素晴らしい。でもこれは実に融通の利かない政策であって、つまり1年の内に全ての学校を建設しなければなりません。地方自治体にはそんなお金はない。中央政府はこちらが半分、地方が半分出すことにする。例えば一平米500元だったら、中央は250、だが地方は250が出せない。250と250がぶつかるととんでもないことになる。さらに政府全体の腐敗、官僚の腐敗が合わさる、だから出来上がった多くの学校は(建築基準)不合格となる。四川に止まらず、震災地区に止まらず、全中国のこの時期建設された小中学校には建築物として問題があります。以前にも雪が降って倒壊したとか、いつも問題が出ていました。たとえ政策上に間違いがあっても中国は一度もそれを認めたことがありません。なぜなら建設当初、政府が批准しているからです、だから事実を隠ぺいするのです。ひとつ認めれば、どんどん出てくる、多大な思いもしない結果を引き起こすのです。
実はもうひとつ問題があるのですが、皆さん気づいているでしょうか。四川汶川大地震の死亡者は7万数千人、行方不明者は1万数千人、不明になってこんなに経つのだから、多分もう戻ってはこない、でなければ香港に来て勉強しているのでしょう。政府は今も1万数千人行方不明と言っている。学校建築以外に農民の家だって倒壊すべきではありません。でも、中国人は皆農民の家が壊れるのは当然だと思っている。なぜなら農民の家は丈夫であるはずがないから。政府には全ての家屋の安全を検査する責任があります。なのに中国では誰もこの事を問題にしません。農民が死ぬのは当然で、学生が死んだのは公共の建物にいたからだ。
私たちがこの調査をする理由は、私たちがいくつかの事をしなければいけないからです。これも自己教育なのです。こうした災難を被った時、皆苦しむ、だがどうやってこの苦痛を表せばいいのか?多くの人の選択は募金に応じることです。私は一銭も募金しません。あの時ブログでも募金しないと言いました。なぜ私は一銭も募金しないのか?私ははっきり言っています、第一に私が全面的に信頼できる組織が全くない、第二にこのような災難については政府が私たちの税で支払うべきである。私たちは多くの金でアメリカの国債を買い、アメリカはこの国債でイラクを打ちアフガン戦争をやっています。それなのに国内では老人が医療費を払えないために酸素吸入器をはずされる。こんなことは実におかしいことではないでしょうか。もちろん後で、皆の募金の8、90パーセントは政府が使うことになる。しかも募金が必要な人の手に完全には届かない。こんな政府を誰が信用するというのか?誰も信用できないような人には募金しないだろう、これは単純な道理ではないでしょうか。こんな状態で私たちに何ができるのか?少なくとも誰が死んだのか訊くことぐらいです。この問題が最も単純です。私たちはこう訊くことを通じて誰もが参与し入って来て誰もが発言することを鼓舞します:自分自身の情感を尊重し、私は自分自身のためにやる、あの事件でいったいだれが死んだのか。

ネットからの質問 艾先生、地震調査のような行動を普通の人が真似できるのでしょうか?彼らにはあなたのような影響力も名声もありません。もし先生のようにやったら迫害を受けるのではないですか?

AWW これは迫害を受けるようなことではありません。地下鉄の切符を買うように、迫害をうけるようなことではありません。誰もが真似できると思います。もし誰もが問題を提出すれば、政府の方が私たちによって牢獄に閉じ込められるでしょう。もし私たちが問題を提出しなければ、彼らは酷く凶暴になるでしょう。全世界同様です、どこにも特殊な政府など存在しない。もちろん私たちが出会ってしまったのは極権主義(全体主義)の政府だからなおのこと猛威をふるう。
私たちは建設部、教育部、民政部、さらに公安系統など、私たちのひとつのグループ数十人が一年以上各部門に焦点を合わせて非常に詳しく数百の質問をしました。例えば、どれだけの金額の寄付金が集まったのか?誰の元に分配されたのか?被災の程度はどのように決めるのか?彼らがその金を受け取る時、何か付加された条約にサインするのか?といった類の質問です。
国務院の情報公開条例によれば、政府には全てのこうした情報を公表する義務があります。公民が訊けば、すぐさま公表すべきである、これは素晴らしい条例です。しかし私たちが百数十通の手紙を送ったにもかかわらず、受取ったのは全て同じ知らでした。この手紙は百数十の異なる部門で、等級も違う、中央から省、市、県まで全ての返信は三通りしかありません。1、我々は公開すべきものは公開した。2、我々が公開しないものは機密である。3、あなたにはこれらの問題を知る権利がない。
ある機関は返信さえ寄こしませんでした。もし返信がなければ私たちは訴えてもいいと思いました、なぜならこの条例では15日以内に返答がなければ告訴していいと規定されているので。それで私たちは法廷に告訴しました。法廷は最初の内は告訴を受理しませんでした。私たちとあれこれやり合った末に、私は受理しないのなら、ここを離れない、わたしを捕まえればいいだろうと言って法廷に座り込みました。裁判所の方も私を捕まえたくはない、なぜなら彼らもこれは私を捕まえる必要がある事件ではないようだと思ったからで、結局は受理しました。受理された後私のところに返答が届いて、やはり「あなたが公開を要求する全てについて、あなたは知る資格がない」ということでした。私はあやまり、私はこの問題で彼らを告訴したのではなくて、私が訴えたのは、彼らが返答を寄こさなかったことと、裁判所が訴えを受理しなかったことだ。このことは別の問題に関係してきます。それは中国の司法系統は独立したものではないということです。司法が独立していないとこの社会は如何なる変革も自己補正もできないということです、なぜならその尺度が永遠に変わるから。一党肥大でもいい、だがこの尺度を一定に決めなければいけない、私たちはそれに従っていく、憲法でもいい、条規でもいいだれもこの尺度に違反できないようにすべきです。カードを出しておいて、イカサマをやって、カードを隠すなんて許せない。それでも無理に遊ばせておいて、カードを盗む、それが否だと言うなら、騒動を起こさないように捕まえるだけです。
私たちは小さな事、具体的な事をすることを通じて、問題の所在を明らかにしていきたいのです。そして私たちはその公布されたもの、私たちはどう質問し、彼らはどう答えたのかをネット上で全ての人々に見てもらう。この世界の全ての善は証明されるべきだし、全ての悪も証明されるべきだと私は信じています。この問題はいったい何の問題なのか、他の人に知ってもらわなければいけない、インターネットのおかげで全ての人の知ってもらう可能性もある、たとえその人が政治に無関心であっても、道理がわからなくとも、それでもこれを見た後には、おっ、これは間違っているなと思うようになる。実際、私たちがやっていることもこうしたことなのです。

2010年04月13日香港中文大学にて

追記(2012.5.1)
牧陽一 『艾未未読本』(集広舎)は、ART iT オンラインショップで発売中

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