艾未未事件の核心——序文に替えて
文/牧陽一
YouTube Co-China之八-对话艾未未 3/13より
今年2011年4月3日、艾未未[アイ・ウェイウェイ]は北京国際空港で拘束された。拘束は81日間に及び、6月22日に保釈されるが、向こう1年間の渡航は禁じられ、活動も制限されている。監視がつき自宅軟禁を強いられている。今年の9月、北京の艾未未を再度訪問した。昨年訪問した時はとても闊達だったが、今回はかなり沈んだ様子だった。それでも精一杯明るく接してくれていた。閉鎖されたブログ等のART iTでの日本語訳発表を快く承諾してもらった。抱擁して耳元で「頑張って」と言うのが精いっぱいだった。フェイクスタジオの蒼緑の門を出ると、止めどなく涙がこぼれた。
なぜ、政府は艾未未を恐れるのか。その核心は2008年5・12四川汶川大地震の調査、責任追及にある。彼が建築家であるからこそ、その責任意識からも出た行動だろう。政府に楯突くのが目的ではない。中国の未来のための行動なのだ。地震での小中学校の倒壊、なぜ学校が簡単に壊れ、多くの子供たちが下敷きになって死んでしまったのか。公民(市民)としての当然の疑問を投げかけているだけである。しかも名簿を発表しないということは死者を2度殺すことだ。ではなぜこの当たり前のことが通じないのか?
艾未未の調査では犠牲者が最も多い学校はほぼ10校に絞られた。建築業者も四川政府の関係者もわかるのではないか。建築費のピンはねによって、粗悪なコンクリートや鉄筋の入っていない柱でそれらがつくられたであろうことは容易に想像できる。小中9年間の義務教育徹底の命令のために、僅か1年で全国に不足している小中学校を建設させることとなった。つまりまだ多くの不正建築が全国に存在するということだ。震災はいつどこで起こるか分からない。また子供たちの命が失われる。
一方日本では2011年3・11東日本大震災の追跡調査がなされている。ある小学校は校庭に集合して30分後にやっと避難を始めた。もし迅速に避難していたなら、犠牲者は少なくてすんだはずだった。確かに追跡調査をすることには心に痛みを伴う、だが将来同じ過ちを繰り返さないようにやらなければいけないことなのである。
中国はどうだろう、先の高速列車事故でも繰り返されたが、人命をないがしろにしてまで国家の威信を保とうとする。これは極権主義(全体主義)の矛盾を如実に表している。権力が集中しすぎている。司法も検察も独立しておらず党の支配下にある。文化さえもが従属的である。現在中国では市民社会が充実しつつある。経済発展によって自信をつけてきた人々は自分の意見をはっきり言うようになった。もう様々な多くの問題を党だけで解決する時代ではないはずだ。艾未未はこうした市民社会の台頭を先導してきたのである。
この連載の最初は2010年4月13日香港中文大学で開催されたCo-China論壇「艾未未香港対話」である。その模様の一部はYouTubeで見ることができる[注1]。艾未未自身が最も気に入っている香港の若者たちとの対話で、大方の艾未未の活動を知ることができる。Co-Chinaも快く掲載を承諾してくれた。まず艾未未事件の核心を確認してから、芸術や建築などに関する他のインタビューを翻訳公開していきたい。
なお、当翻訳の全文および、詳細な論考は後に単行本『艾未未読本』として集広舎から刊行される予定である。
注1 Co-China之八- 对话艾未未
http://www.youtube.com/watch?v=x_mD1OMbZLM&feature=rellist&playnext=1&list=PL8B6BC7BC97C9D1EA
追記(2012.5.1)
牧陽一 『艾未未読本』(集広舎)は、ART iT オンラインショップで発売中