ART iT寄稿家の09年展覧会ベスト5

『ART iT』の寄稿家公式ブロガー陣へ「地域を問わず、2009年に開催された展覧会から最も素晴らしかったもの5つ」を選んでもらうアンケートを実施。得られた24名の回答リストと、何人かが添えてくれたコメントも併せて紹介する。

※各リストに番号のないものは順不同。

秋元雄史(金沢21世紀美術館館長、金沢在住)

塩田千春『流れる水』
入善市下山芸術の森 発電所美術館(2009年5月30日〜9月23日)

元水力発電所の空間を見事に使ったインスタレーションであった。塩田は、場所や物に張り付いた記憶や無意識とでも言えるものを毎回呼び覚ますようにその場をくみたてる。今回は発電所美術館の高い天井高を活かし、病院から譲り受けたベッド約30台をくみ上げ、天井から水が注ぎ続けるというもの。元発電所跡の空間だけでなく、黒部に程近いこの場所の周辺環境までを想像させるイメージの拡がりを獲得していた。

田中信行『漆が喚起するもの』
入善市下山芸術の森 発電所美術館 (2009年10月10日〜12月13日)

同じく発電所美術館での個展で、漆で立体作品をつくる田中の個展。作品は初期から 現在までの主な作品の展示であったが、広いスペースに置かれた立体は単体での立体 作品であると同時に周辺の作品や空間とも呼応していて、漆という伝統技法の新しい 可能性を感じた。いわゆる工芸に属する作家が、空間まで取り込んで作品化するとい うことはそれほどないのではないかと思うが、流れる形態や周辺との関係は、美しかった。

『ガラスびん展-時代がうつすガラスたち』
石川県能登島ガラス美術館(2009年6月20日〜9月13日)

大学教授がこつこつと集めた日本のガラスびんの展覧会。小規模ながら楽しめた。展示対象は、明治から現代までの、いわゆる薬瓶やビール瓶などで、日常使いのガラス瓶。これらは工芸作品として生まれたわけではないが、時代のデザイン、技術を反映していて、見ていて飽きない。あるものが集合したときに見せる、一つの文化を喚起させる力を感じさせる企画。

久隅守景『加賀で開花した江戸の画家』
石川県立美術館(2009年9月26日〜10月25日)

石川県立美術館のリニューアルオープン企画のうちのひとつ。数十年ぶりに行われた。久隅守景は、人気の割にはまとまった展覧会はされていない。加賀藩とのゆかりのある画家でもある。今回は「夕顔棚納涼図」ほか、「四季耕作図」など、代表作が見ることができた。「四季耕作図」は加賀藩に依頼を受けて制作したといわれる。守景は、農村を歩き回り、農民たちと交わり、彼らの仕事をつぶさに観察して描いたと言われている。それほど、市井の人々の暮らしを見事に表現しているということか。守景の描く絵はどこかほのぼのとしており、見る者をほっとさせる。この世知辛い世相にはもってこいの展覧会であった。

『オラファー・エリアソン『あなたが出会うとき』
金沢21世紀美術館(2009年11月21日〜2010年3月22日)

自分のところの展覧会で、少々、反則になるがどうしても紹介したいのでお許し願いたい。言わずと知れたヨーロッパ現代美術をいまや代表する現代アーティストのひとりであるオラファーの日本での大型個展である。今、世界で巡回中の個展はこれまでの作品を主にまとめたもので、一種の回顧展であるので、21美での今回の新作の発表はオラファーにとっても新たな出発となる展覧会である。光学的な興味は以前からオラファーの作品でしばしば指摘されているところだが、今回はそれをふんだんに盛り込んでいる。光により空間と時間について指摘する作品。また、美術館の建築的なイメージをダンサーなどの身体を使って表現するビデオ作品、スクリーンに自分の影を映して楽しめる作品など、エンターテイメント性にもあるれている。


左:塩田千春『流れる水』2009年 撮影:Sunhi Mang 入善町下山芸術の森 発電所美術館
右:青山悟「Glitter Pieces #1」2008年 17.4×23.2cm 撮影:宮島径 Courtesy the artist and Mizuma Art Gallery

秋吉風人(アーティスト、大阪在住) ART iT公式ブログ

青山悟『Glitter Pieces #1-22:連鎖/表裏』
ミヅマアートギャラリー(東京、2009年3月11日〜4月11日)

児嶋サコ『ストックホルム症候群』
アートフェア東京(2009年4月3日〜5日)

三輪美津子『”SKELETON” 1989年と20年後』 
Gallery HAM(愛知、2009年5月9日〜6月13日)

『アート・ビジョンVOL.8 小林正人展ーこの星の絵の具』
高梁市成羽美術館(岡山、2009年7月18日〜9月23日)

イケムラレイコ『ME ZA ME』
シュウゴアーツ(東京、2009年10月10日〜11月21日)

友人の展覧会を5つ挙げます。順位はつけられないので開催時期順です。

ブライアン・カーティン(美術評論家、バンコク在住)  ART iT公式ブログ

Be Takerng Pattanopas『Permanent Flux』
GMT+7(ブリュッセル、2009年11月6日〜12月15日)

ソピアップ・ピッチ『The Pulse Within』
タイラーロリンズファインアート(チェルシー、2009年11月12日〜2010年1月9日)

ジャック・ピアソン
アイルランド近代美術館(ダブリン、2009年3月12日〜5月18日)

アラヤー・ラートチャムルンスック『In this Circumstance, the Only Object of Concern is the Betrayal of the Moon』
アーデルギャラリー(バンコク、2009年3月10日〜4月10日)

『Personal Effects』
ルージュアート(クアラルンプール、2009年5月20日〜6月13日)


左:Be Takerng Pattanopas『Permanent Flux』GMT+7
右:石原次郎『InterMetro』2003年 撮影:上妻勇太 提供:IAMASロカティブメディアプロジェクト

ドナルド・ユーバンク(アートジャーナリスト、東京在住)

『都市的知覚』
トーキョーワンダーサイト本郷(2009年8月11日〜30日)

magical, ARTROOM(東京)での展覧会

『万華鏡の視覚:ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより』
森美術館(東京、2009年4月4日〜7月5日)

木村友紀『1940年は月曜日から始まる閏年』
タカイシイギャラリー(東京、2009年10月10日~11月7日)

『no man’s land』
フランス大使館(東京、2009年11月26日〜2010年1月31日)

エイドリアン・ファーベル(UCLA教授、東京在住) ART iT公式ブログ

1. 『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009』
越後妻有地域[新潟県十日町市、津南町]760㎢(2009年7月26日〜9月13日)

2. 『Stitch by Stitch ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし』
東京都庭園美術館(2009年7月18日〜9月27日)

3. 『第4回 福岡アジア美術トリエンナーレ 2009』
福岡アジア美術館全館、周辺地域(2009年9月5日~11月23日)

4. 『小沢 剛:透明ランナーは走り続ける』
広島市現代美術館(2009年8月1日〜 9月27日)

5. 『第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ』
ジャルディーニ、アルセナーレ(ヴェネツィア、2009年6月7日〜11月22日)


クロード・レヴェック「静寂あるいは喧噪の中で」2009年
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009

ダイアナ・フロインドル(ライター、上海在住)

1. ヤン・フードン『Dawn Mist, Separation Faith』
上海証大現代美術館(2009年5月24日〜8月23日)

2. 『Seeing One’s Own Eyes — Middle Eastern Contemporary Art Exhibition』
香格納画廊(シャンアート、上海、2009年9月6日〜10月10日)

3. 『History in the Making: Shanghai 1979 – 2009』
Ju Men Lu Development space(上海、2009年9月9日〜10月10日)

4. 『当代芸術展在松江展 Bourgeoisified Proletariat』
上海松江クリエイティブスタジオ(2009年9月10日〜15日)

5. 『Fantastic Illusion: Belgium and Chinese New Media Art Exhibition』
上海現代美術館(2009年9月13日〜10月11日)

古川弓子(アーティスト、ニューヨーク在住) ART iT公式ブログ

1. ジョージア・オキーフ『Abstraction』
ホイットニー美術館(NY、2009年9月17日〜2010年1月17日)

『ロニ・ホーン aka ロニ・ホーン』
ホイットニー美術館(NY、2009年11月6日〜2010年1月24日)

女性芸術家2人の展覧会を、かけ合わせて鑑賞した経験からの感想です。
硬度のある宝石のような作品、純度の高い水のような作品から、まるで熱い炎がでているよう。

2. 『Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor, 1156–1868』
メトロポリタン美術館(NY、2009年10月21日〜2010年1月10日)

戦国武士の高級ブティックが、ニューヨークにオープンしたような展覧会です。

3. 『Monet’s Water Lilies』  
ニューヨーク近代美術館(2009年9月13日〜2010年4月12日)

モネの作品の前では、みんなに赤ん坊なっていました。五感のどこをつかっても刺激されますから。

4. 『Artist’s Choice: Vik Muniz, Rebus』   
ニューヨーク近代美術館(2008年12月11日〜2009年2月23日)

様々なコレクションや日用品を現代美術の解釈をとおした思考ゲームにして、美しく並べた展覧会。

5. 『Kandinsky』  
グッゲンハイム美術館(NY、2009年9月18日〜2010年1月13日)

カンディンスキーの絵画をみることは、世界のリズムをつかむための一つの方法だとおもいました。

保坂健二朗(東京国立近代美術館研究員、東京在住)

『梅田哲也:迷信の科学』
オオタファインアーツ(東京、2009年4月25日~5月23日)

久しぶりにナンセンスの極意を見た気がした。

『川内倫子写真展 a pause』
ギャラリートラックス(山梨、2009年4月25日~5月31日)

川内の作品(映像的写真、あるいは写真的映像)と、ギャラリーの場所と空間とが見事にしていた。

『燃える世界遺産 マンガン・ナイトクルーズ』
丹波マンガン記念館(京都、2009年5月30日)

目黒の炭鉱展ばかりがやけに「ランキング」ではとりあげられているが、であればこれだって(いやこれこそ)とりあげられるべきだろう。深夜に帰ろうとしたら、高嶺格が駐車場で車の誘導をやっていた(高嶺はこのイベントの主催者だ)。そこにこのイベントの意義が集約しているように思えた。

『竹田大助・再考』
白土舎(東京、2009年7月1日〜31日)

「ミメオグラフ」のドローイングをつくった画家の、ささやかな「全貌」を知ることができた。

『建築以前・建築以後』
小山登美夫ギャラリー(東京、2009年8月1日~29日)

建築を展示する意味を「キュレーション」の観点から探すことが、きちんとなされていた。

「ベストαの展覧会」を問う企画は新聞に多いが、なぜかそこでは国公立の美術館ばかりが対象になっているような気がしている。しかし少なくとも「アートとはなにか」を真摯に考えたいと思うときには、「美術館」以外のスペースでの展覧会の方が、より本質に近づけるような気がしている。ということで、美術館はあえてはずして選んでみました。

飯田志保子(クイーンズランド・アートギャラリー客員キュレーター、ブリスベン在住)

ART iT公式ブログ

1. 『ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ』
東京国立近代美術館(2009年3月31日〜6月7日)

2. 『第6回アジア・パシフィックトリエンナーレ』
クイーンズランド・アートギャラリー、ギャラリー・オブ・モダンアート(2009年12月5日〜2010年4月5日)

3. タリン・サイモン『An American Index of the Hidden and Unfamiliar』
インスティテュート・オブ・モダン・アート(ブリスベン、2009年8月29日〜10月17日)

4. 塩田千春『流れる水』
入善市下山芸術の森 発電所美術館(2009年5月30日〜9月23日)

5. イシャイ・ガルバシュ『In My Mother’s Footsteps』
ワコウ・ワークス・オブ・アート(東京、2009年4月11日〜5月16日)


左:『ヴィデオを待ちながら――映像、60年代から今日へ』東京国立近代美術館 撮影:木奥恵三
右:栗林隆「What Game Shall We Play Today」2009年 『プラットフォームソウル』でのパフォーマンス風景 写真提供:SAMUSO

金島隆弘(アートディレクター、北京在住) ART iT公式ブログ

1. プラットフォーム 2009
キムサ(ソウル、2009年9月3日〜25日)

空間の力、藝術の力を見せつけた展示。キム・ソンジョン(ディレクター)ならではのアーティストの組み合わせ。

2. 『金氏徹平:溶け出す都市、空白の森』
横浜美術館(2009年3月20日〜5月27日)

若い日本人作家に個展の機会を与えた横浜美術館の新姿勢、「変化」の要素を組み入れた展示。

3. 『当代芸術展在松江展 Bourgeoisified Proletariat』
上海松江クリエイティブスタジオ(2009年9月10日〜14日)

今までの中国の現代美術シーンから明らかに一線を画した新しい中国の現代美術の展示を評価。

4. 『ヤン フードン- 将軍的微笑』
原美術館(東京、2009年12月19日〜2010年3月28日)

彼の作品を原のユニークな空間でゆっくりじっくり見られた良い機会。

5. 『コーデッド・カルチャーズ 2009』
Freiraum/quartier21(ウィーン、2009年5月27日〜31日)/ヨコハマ・クリエイティブシティ・センターほか(2009年10月14日〜18日)

これからのメディアアート、現代美術を示唆する新しい試みを評価。

マヤ・コヴスカヤ(美術評論家、キュレーター、北京在住)

1. 孫原・彭禹(スン・ユァン、ポン・ユゥ)『FREEDOM』
唐人当代芸術中心(北京、2009年5月23日〜7月13日)

2. 『Pot Luck – Food and Art』
PM ギャラリーアンドハウス(ロンドン、2009年10月23日〜2010年1月2日)

3. 『Action – Camera: Beijing Performance Photography』
モリス&ヘレン・ベルキンアートギャラリー(バンクーバー、2009年1月6日〜4月19日)

4. 『LIVING OFF THE GRID』
ANANT ART(ニューデリー、2009年11月30日〜12月21日)

5. 『The Surface of Each Day is a Different Planet』
テート・ブリテン(ロンドン、2009年9月4日〜12月7日)


左:ラックス・メディア・コレクティブ「 The Surface of Each Day is a Different Planet」イメージ 2009年
右:『鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』展示風景 「シラ―谷の者、野の者」2009年 墨、胡粉、金箔、雲肌麻紙 182 x 1632cm 撮影:永禮賢 © Konoike Tomoko 写真協力:東京オペラシティアートギャラリー

松井えり菜(アーティスト、東京在住) ART iT公式ブログ

フランシス・ベーコン『A Centenary Retrospective』
メトロポリタン美術館(ニューヨーク、2009年5月20日〜8月16日)

まとめて見たのは初めてだったのですが、ただ絵のボリュームに圧倒されました!

『ネオテニー・ジャパン ― 高橋コレクション』
上野の森美術館(東京、2009年5月20日〜7月15日)

今年見た展覧会で一番いろいろな人に薦めれる展示だったと思います。たくさん作品がありましたが途中で座ることなく一気に見ることができました!

鴻池朋子『インタートラベラー 神話と遊ぶ人』
東京オペラシティアートギャラリー(2009年7月18日〜 9月27日)

今年一番の後悔はこの展示にいかなかったことです。サイン付きの図録は持っています!

小谷元彦『Hollow』
メゾンエルメス8Fフォーラム(東京、2009年12月17日~2010年3月28日)

私は小谷さんの作る人体が好きです。女の子とかかわいいですよね!

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