翻訳できない わたしの言葉 @ 東京都現代美術館


 

翻訳できない わたしの言葉
2024年4月18日(木)-7月7日(日)
東京都現代美術館 企画展示室 1F
https://www.mot-art-museum.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(4/29、5/6は開館)4/30、5/7
企画担当:八巻香澄(東京都現代美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mywords/

 

自分とは異なる誰かの「わたしの言葉」を別の言葉に置き換えることなくそのまま受け取るとはどのようなことか。東京都現代美術館では、ユニ・ホン・シャープ、マユンキキ、南雲麻衣、新井英夫、金仁淑の5人のアーティストの作品を通じて、日本における多様な言語のあり方や、話すという行為そのものとその権利について触れつつ、「ことば」について考える展覧会「翻訳できない わたしの言葉」を開催する。

世界にはさまざまな言語があり、ひとつの言語の中にも方言や世代・経験による語彙・文法の違いなど、無数の豊かなバリエーションが存在する。本展が掲げる「わたしの言葉」は、話す相手や場に応じて、仲間同士や家族だけで通じる言葉を使ったり、他言語を使ったりと、使い分けられる複数の言葉、言葉にしなくても伝わる思い、それらすべて、個人の中にこれまで蓄積されてきた経験の総体から生まれるものを指す。本展では、他言語を学ぶことでその言語を生み出した人々の文化や歴史に触れるように、鑑賞者ひとりひとりが自分とは異なる誰かの「わたしの言葉」を別の言葉に置き換えることなくそのまま受け取ろうとする機会、自分自身の「わたしの言葉」を大切に思う機会を提示する。会期中には、参加アーティストによるアーティストトークやパフォーマンスなど多彩なプログラムも開催される。

 


ユニ・ホン・シャープ《Répète|リピート》2019年


マユンキキ《Siknure – Let me live》2022年、Ikon ギャラリー(バーミンガム)での展示風景 Photographer Stuart Whipps, courtesy of Ikon Gallery.

 

ユニ・ホン・シャープ(東京都生まれ)は、2005年に渡仏し2015年にパリ゠セルジー国立高等芸術学院を卒業。現在はフランスと日本の2拠点で活動する。アーカイブや個人的な記憶から出発し、構築されたアイデンティティの不安定さと多重性、記憶の持続をめぐり、新しい語り方を探りながら、身体/言語/声/振付を通じてその具現化を試みる。本展では、フランス語を母語としないアーティストが「Je crée une œuvre(私は作品を作る)」という文章の発音を、フランス語を第一言語とする長女に訂正してもらう様子を描いた映像作品《RÉPÈTE》(2019)を発表する。

日本列島北部周辺の先住民族アイヌのマユンキキ(北海道生まれ)は、アイヌという存在自体の否定、ステレオタイプや理想の押し付けに直面し、民族全体を代表していると捉えられたり、アイヌらしさを期待されたりすることも認識しながら、個人として言葉を紡ぎ、自分を作り上げてきたもの・人々・言葉を丁寧に提示する試みを続けている。アイヌの伝統歌を歌う「マレウレウ」「アペトゥンペ」のメンバーでもあり、2021年からはソロ活動も開始。国内外の国内外の数多くのアートフェスティバルでパフォーマンスや展示を発表している。本展では、本来第一言語になりえたかもしれない言語を改めて学ぶことについて、写真家の金サジと対話する映像、その対となるものとして自分が話す言語を自ら選択することの意義について、アートトランスレーターの田村かのこと対話する映像とあわせ、セーフスペースとしての空間の中に、マユンキキを作り上げてきたさまざまな要素を展示する。

 


南雲麻衣 Photo:k. kawamura


新井英夫《踊ルココロミ Improvisation Dance with ALS》2022年- 撮影:イタサカキヨコ

 

南雲麻衣(神奈川県生まれ)は、幼少時からモダンダンスを学び、現在は手話を活かしたパフォーマンスや演劇など、身体表現全般に活動を広げている。南雲は、3歳半で失聴し7歳で人工内耳適応手術を受け、音声日本語を母語として育つ。大学生になって手話(視覚言語)と出会い、今は日本手話を第一言語とするろう者としてのアイデンティティを獲得。音声言語と視覚言語を用いた複数言語の「ゆらぎ」をテーマにし、当事者自身が持つ身体感覚を「媒介」に、各分野のアーティストとともに作品を生み出している。また、言葉を超えた感覚を共有し合うワークショップにも取り組む。カンパニーデラシネラ「鑑賞者」(2013)や百瀬文《Social Dance》(2019)などに出演。本展では、南雲自身の言語獲得や言葉との付き合い方を描く映像インスタレーション《母語の外で旅をする》(仮)(撮影・編集:今井ミカ)を展示する。

体奏家、ダンスアーティストの新井英夫(埼玉県生まれ)は、野外劇や大道芸ダンス公演などを行う身体表現グループ「電気曲馬団」を主宰し活動する傍ら、自然に沿い力を抜く身体メソッド「野口体操」に出会い、野口三千三氏から学ぶ。その後ソロ活動に転じ国内外でダンスパフォーマンスをしながら、日本各地の小中学校・公共ホール・福祉施設等でワークショップを展開。2022年夏にALS(筋萎縮性側索硬化症)の確定診断を受けた後も、ケアする/される関係を超越した活動を精力的に継続している。本展では、誰かの「わたしの言葉」を聞き逃さないように、言葉になる前の「からだの声」に気づくように、展示室内で微かな音を奏で耳を傾けたり、身体の些細な動きを意識したりというワークを鑑賞者に提示する。また、現在、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病と対峙している新井の日記的即興ダンス映像も発表する。

金仁淑(大阪府生まれ)は、「多様であることは普遍である」という考えを根幹に置き、「個」の日常や記憶、歴史、伝統、コミュニティ、家族などをテーマにコミュニケーションを基盤としたプロジェクトを行ない、写真、映像を主なメディアとして使用したインスタレーションを発表している。本展では、2023年恵比寿映像祭コミッション・プロジェクトで特別賞を受賞した、滋賀県にあるブラジル人学校サンタナ学園の取材に基づく10チャンネルの映像インスタレーション《Eye to Eye》に加え、その後の出逢いを収めた新作を出品する。

 


金仁淑《Eye to Eye》2023年 恵比寿映像祭 2023 コミッション・プロジェクト ©KIM Insook

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