ホー・ツーニェン エージェントのA @ 東京都現代美術館

 

ホー・ツーニェン エージェントのA
2024年4月6日(土)-7月7日(日)
東京都現代美術館 企画展示室 B2F
https://www.mot-art-museum.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(4/29、5/6は開館)4/30、5/7
企画担当:崔敬華(東京都現代美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/HoTzuNyen/

 

東京都現代美術館では、東南アジアの歴史的な出来事、思想、個人または集団的な主体性や文化的アイデンティティに独自の視点から切り込む映像や映像インスタレーション、パフォーマンスの制作で知られるシンガポール出身のアーティスト、ホー・ツーニェンの個展「エージェントのA」を開催する。

ホー・ツーニェン(1976年シンガポール生まれ)は、既存の映像、映画、アーカイブ資料など幅広い映像資料や文献を参照、再編成することで東南アジアの地政学を織りなす力学や歴史的言説の複層性を抽象的かつ想起的に描き出す。これまでに世界各地で作品を発表しており、2011年には第54回ヴェネツィア・ビエンナーレのシンガポール館の代表を務めた。近年も「One or Several Works」(明当代美術館、上海、2018)、「The Critical Dictionary of Southeast Asia Volume 3: N for Names」(クンストフェライン・ハンブルク、2018)、「ヴォイス・オブ・ヴォイド – 虚無の声」(山口情報芸術センター[YCAM]、2021)、「The Critical Dictionary of Southeast Asia」(クロウ・アジア美術館、テキサス州ダラス、2021)、「百鬼夜行」(豊田市美術館、愛知、2021)、「Hammer Projects: Ho Tzu Nyen」(ハマー美術館、ロサンゼルス、2022)などで個展を開催。第12回光州ビエンナーレ(2018)、あいちトリエンナーレ2019、タイランド・ビエンナーレ(チェンライ、2023)など国際展にも数多く参加。そのほか、世界演劇祭(ミュールハイム、2010/フランクフルト、2023)やオランダ芸術祭(アムステルダム、2018、2020)、ベルリン国際映画祭(2015)、サンダンス映画祭(ユタ州パークシティ、2012)、カンヌ映画祭第41回監督週間(2009)など、各地の演劇祭や映画祭でも取り上げられている。2019年にはシュウ・ジャウェイ[許家維]と共に国立台湾美術館で開かれた第7回アジア・アート・ビエンナーレでキュレーションも手がけている。

また昨年末から今年3月初旬にかけて、あいちトリエンナーレで発表した《旅館アポリア》(2019)や最新作《時間タイムのT》(2023)を含む大規模な回顧展「Time & the Tiger」をシンガポール美術館で開催した。

 


ホー・ツーニェン《ウタマ―歴史に現れたる名はすべて我なり》2003年、映像スチル


ホー・ツーニェン《一頭あるいは数頭のトラ》2017 年、映像スチル

 

近年、日本国内で国際舞台芸術ミーティング in 横浜(2018、2020)、あいちトリエンナーレ 2019(2019)、山口情報芸術センター[YCAM](2021)、豊田市美術館(2021)と立て続けに新作を発表してきたホー。本展では、これまでの歴史的探求を辿るべく、最初期の作品を含む6点の映像インスタレーションとともに、国内初公開となる最新作《時間のT》を紹介する。

《ウタマ—歴史に現れたる名はすべて我なり》(2003)は、シンガポールという国名の由来「シンガプーラ(サン スクリット語でライオンのいる町)」とその地を命名したとされるサン・ニラ・ウタマに関する諸説を巡りながら、イギリス人植民地行政官スタンフォード・ラッフルズを建国者とする近代の建国物語の解体を試みた作品で、ホーが監督と脚本を務めたデビュー作に位置付けられる。3Dアニメーションを用いた《一頭あるいは数頭のトラ》(2017)では、トラを人間の祖先とする信仰や人虎にまつわる神話をはじめ、19世紀にイギリス政府からの委任で入植していた測量士ジョージ・D・コールマンとトラとの遭遇や、第二次世界大戦中、イギリス軍を降伏させ「マレーのトラ」と呼ばれた軍人山下奉文など、シンガポールの歴史における支配と被支配の関係が、姿を変え続けるトラと人間を介して語られる。ホーは《一頭あるいは数頭のトラ》のコールマンや山下に限らず、既存の映像を転用し、マレー半島の近現代史とその編纂に影響を与えた人物に焦点を当 てた作品を発表してきた。《名のない人》では、第二次世界大戦中、マラヤ共産党総書記を務めながら、イギリス、日本、フランスの三重スパイとして暗躍したライ・テック、《名前》(2015)では、マラヤ共産党とマラヤ危機について、党の機密情報に基づいた文献を残した、ゴーストライターとも言われているジ ーン・Z・ハンラハンを描いている。

 


ホー・ツーニェン《名のない人》2015年、映像スチル


ホー・ツーニェン《CDOSEA》2017 年-、スクリーンキャプチャ Image courtesy of the artist and Eduard Malingue Gallery 5

 

これらの作品を生み出す基盤となっている、2012年に始まったプロジェクト「東南アジアの批評辞典」から《CDOSEA(東南アジアの批評辞典)》(2017-)も出品。「いかなる言語、宗教、政治体制によっても統一されることのなかった東南アジアの総体性をもたせるのは何か?」という問いを起点にしたこのプロジェクトのオンラインプラットフォームにおいて、 幅広いソースから抽出された東南アジアに関連するAからZ のキーワードとイメージが、アルゴリズムによって都度組み合わされ、東南アジアというその呼び名が想起させる総体に抗う多層性、複数性を描き出す。また、近年日本で制作した作品からは、YCAMとのコラボレーション作品《ヴォイ ス・オブ・ヴォイド—虚無の声》(2021)を展示する。VRと6面の映像で構成された本作では、西洋主義的近代の超克を唱え、大東亜共栄圏建設について考察した京都学派の哲学者たちの対話、テキスト、 講演などが現前する。

さらに昨年末から今年3月初旬にかけて、シンガポール美術館で大規模な回顧展「Time & the Tiger」にも出品された最新作《時間タイムのT》も国内初公開。同作では、ホーが引用しアニメーション化した映像の断片が、アルゴリズムによって、時間のさまざまな側面とスケール—素粒子の時間から生命の寿命、 宇宙における時間まで—を描き出すシークエンスに編成。それらが喚起する意味や感覚を通じて、時間とは何か、そして私たちの時間の経験や想像に介在するものは何かを問いかける。会期中にはギャラリートークや読書会などの関連プログラムを開催予定。詳細は公式ウェブサイトに順次公開される

 


ホー・ツーニェン《ヴォイス・オブ・ヴォイド―虚無の声》2021年、展示風景、撮影:三嶋一路 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]


ホー・ツーニェン《時間タイムのT》2023、映像スチル Image courtesy of the artist and Kiang Malingue


ホー・ツーニェン《時間タイムのT:タイムピース》2023、映像スチル Image courtesy of the artist and Kiang Malingue

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