若林奮 森のはずれ @ 武蔵野美術大学 美術館(展示室2・4・5、アトリウム1・2)


《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》1981–84年 武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵 撮影:山本糾

 

若林奮 森のはずれ
2023年6月1日(木)-8月13日(日)
武蔵野美術大学 美術館(展示室2・4・5、アトリウム1・2)
https://mauml.musabi.ac.jp/
開館時間:11:00-19:00(土、日、祝は10:00-17:00)
休館日:水
監修:袴田京太朗(武蔵野美術大学造形学部油絵学科教授)、伊藤誠(武蔵野美術大学造形学部彫刻学科教授)、戸田裕介(武蔵野美術大学共通彫塑研究室教授)
展覧会URL:https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20684/

 

武蔵野美術大学 美術館・図書館では、緻密な観察と省察にもとづく固有の彫刻観、自身と周縁世界との関わりをめぐる思索を内包した彫刻作品により、戦後日本の現代彫刻を牽引した若林奮の展覧会「若林奮 森のはずれ」を開催する。本展では、2002年に武蔵野美術大学 美術館・図書館に寄贈された《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》を修復し、約30年ぶりに再展示。没後20年となる今年、思索を重ねた武蔵野の地で、想像力の源泉ともいえる「森のはずれ」を端緒に、若林彫刻の意義を再考する。

若林奮(1936-2003/東京府生まれ)は、鉄を主な素材とし、一見すると寡黙で非情緒的な形態ではあるものの、自然や距離、時間、空間、表面、境界など、我々を取り巻く普遍的な事象を捉えた作品を制作する。1959年に東京藝術大学彫刻学科を卒業。1980年と1986年のヴェネツィア・ビエンナーレ日本館に2度出品。各地で個展を行ない、国内外で高い評価を得た。主な個展に「若林奮 デッサン・彫刻展」(神奈川県立近代美術館、1973)、「今日の作家 若林奮展」(東京国立近代美術館、1987/京都国立近代美術館、1987-88)、「ISAMU WAKABAYASHI」(マンハイム市立美術館、1997/ルードヴィヒ・フォーラム・アーヘン、1998)、「若林奮展」(豊田市美術館、2002)など。没後も展覧会が開催され、近年では2015〜2016年にかけて若林の庭をめぐる制作に光をあてる「若林奮 飛葉と振動」が、名古屋市美術館、神奈川県立近代美術館 葉山、府中市美術館、うらわ美術館に巡回した。

 


《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》(部屋状部分内部)1981–84年 武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵 撮影:山本糾


《Daisy Ⅰ-Ⅰ》1993年 WAKABAYASHI STUDIO所蔵 撮影:山本糾 画像提供:イケダギャラリー

 

本展では、若林が彫刻観を拡張させるきっかけとなった《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》を、彫刻家の袴田京太朗、伊藤誠、戸田裕介の3人が監修となり修復、30年ぶりに再展示する。若林は武蔵野美術大学在任時の1981年、学内にある工房に鉄板で作った、自分自身のための10畳ほどの空間、通称「鉄の部屋」を制作。その後、その周囲を鉛で覆い、周辺に植物や大気を表す鉛の板やキューブを配置して《所有・雰囲気・振動―森のはずれ》(1981-84)として発表。自分自身が所有できる空間を区切ることで生まれた境界や領域をめぐり、自身を軸とした周縁、自然への思索を一層深めていった本作は、若林自らを含んだ自然や風景そのものの具現化を試みた作品といえる。また、距離という不可知な認識の問題に加え、範囲・領域、内側・外側、境界・表面などの若林彫刻を措定する概念が含まれている。「森のはずれ」は、すべての若林彫刻に通底する原器的要素を含んだ試論的彫刻、あるいは自らを含んだ自然や風景そのものの具現化の第一歩とも捉えられる極めて重要な作品。

同じく自然の精緻な観察を通して生まれた《Daisy I》(1993)は、人の背丈ほどある角柱に、その名称も相まって植物そのものの構造を内包していることを想像させる彫刻。鉄板で覆われた角柱内部、容易に視線の届かない頂部は、植物の上下への伸張を想起させる。それまで作品に取り入れていた犬や自分自身の視点としてあった水平軸は、重力に逆らい成長する植物のような垂直軸へと展開している。《Daisy I》は1970年代以降、若林が主たる観察対象としての「自然」を知覚し、彫刻化しつづけたその変遷を考える上で極めて重要な作品といえる。ともに自然や風景を具体的な対象とした《所有・雰囲気・振動―森のはずれ》と《Daisy I》全10点すべてが、ひと続きの空間で相対する場で、活動中期から後期にかけて色濃く表れる、若林彫刻の核といえる「自然」をめぐる諸相の読み解きが試みられる。

 


左から《振動尺I》1979年、《振動尺II》1979年、《振動尺III》1979年、《振動尺IV》1979年 すべてDIC川村記念美術館所蔵


《The First White Core Ⅰ》1992年 WAKABAYASHI STUDIO所蔵 撮影:山本糾 画像提供:イケダギャラリー

 

さらに、自身と対象との距離を測るものさしとして1970年代以降通底する概念となる《振動尺》Ⅰ~Ⅳ(1979)、80年代終わりから若林にとって重要な素材のひとつとなる硫黄を用いた《The First White Core》Ⅰ~Ⅲ(1992)や《Sulphur Drawing》シリーズ(1990ほか)など、関連する作品も合わせて、吹き抜け空間を中心に展示。作家の夥しい思索の一端に触れるべく、ドローイング やマケット、小品、資料約100点を展観し、若林に内在した思考の痕跡を線や言葉、イメージの中に探る。

《振動尺》は、自身の手と前方にある対象の表面との水平方向の距離を振動で捉えることにより測る原器。1973〜74年に文化庁芸術家在外研修員として旧石器時代の遺跡を訪れた経験を経て、積み重なってゆく不可知な事象を一層意識し、自然を一対象としてではなく、自らを含んだ世界を認識する対象として、彫刻化することを試みるようになり、その意識下で制作された。《The First White Core》は、木製の基壇の上に、石膏の固まりが直立した形態を持つ。I、II、IIIともに同じ構造だが、その形状は自然物を組み合わせたように、意図せず物質の存在性に委ねた形態となっている。石膏鋳造という彫刻技法を用いながらも、自然現象によって現れる物質の本性を、作用として有機的に作品表現に取り込んでいる。

 


[無題]1983年 武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵

 

関連イベント
トークイベント①
2023年7月1日(土)17:00–18:30(16:30開場)
出演者:吉増剛造(詩人)
聞き手:袴田京太朗
会場:武蔵野美術大学 美術館ホール
※入場無料/先着順(予約不要)

トークイベント②
2023年7月29日(土)15:00–16:30(14:30開場)
登壇者:酒井忠康(世田谷美術館館長)、水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)
会場:武蔵野美術大学 美術館ホール
※入場無料/先着順(予約不要)

《所有・雰囲気・振動—森のはずれ》内部特別観覧(完全予約制)
2023年6月17日(土)、7月8日(土)、7月22日(土)、8月5日(土)各日13:00–15:00(予定)
※30分ごとに6名まで予約可能、入室時間はひとり5分程度
※6月3日(土)より予約開始予定(詳細は決定次第公式ウェブサイトにて告知)

Copyrighted Image