Portrait Chantana Tiprachart, Photo: Kritsada Boonrit; Courtesy Han Nefkens Foundation.
2026年4月、バルセロナを拠点に映像作品を中心とした制作委託や収集活動に取り組むハン・ネフケンス財団は、東南アジア出身のアーティストによる新しいビデオアート作品の制作を支援することで、国際的な認知度の向上を目指す「Southeast Asian Video Art Production Grant 2026(東南アジア・ビデオアート・プロダクション・グラント2026)」の受賞者に、タイ出身のアーティスト、チャンタナー・ティプラチャートを選出した。ティプラチャートには新作制作補助費として15,000ドル(約240万円)が授与され、完成作品は本助成の協力機関である広島市現代美術館を含む世界6都市の美術機関で2027年から2028年にかけて展示を予定している。
チャンタナー・ティプラチャート(1991年タイ、カーラシン生まれ)は、タイ東北部のイサーンで育ち、ブラパー大学でコミュニケーションアーツを学んだアーティスト兼映画作家。社会問題や文化的伝統、アイデンティティの形成をテーマに映画や映像インスタレーションを制作している。地域固有のアイデンティティを模索する人々の思想や信仰を表す物事や文化に関心を寄せ、映像制作を通じて、その社会に深く根付いた構造的不平等の問題を浮き彫りにしてきた。現在はバンコクを拠点に活動し、タイランド・ビエンナーレ・プーケット2025、Ghost 2565: Live Without Dead Time(2022)、バンコク・アート・ビエンナーレ2020などで作品を発表。日本国内での発表機会は、タイに伝わる水の神「ナーガ」(大蛇)にまつわる消滅しつつある儀式を描いた映像作品《ライ・ソーン》(2020)を上映した「MAMスクリーン020:ゴースト―インターベンション」(森美術館、東京、2024-2025)などがある。
Chantana Tiprachart, Lai Torn (ไหล-ถอน) (2020) Courtesy of the Han Nefkens Foundation
Chantana Tiprachart, SOO-KWAN (2022); Produced by the Han Nefkens Foundation. Courtesy of the artist.
受賞に際してティプラチャートは、「今日、アートをつくる上での難題の多くは、作品を本当の意味で「見る」人々や、アーティストが干渉されることなく呼吸し、創作することのできる場の欠如に由来します。東南アジア全体にわたって、その文化的風土は、厳格な信念や偏見、表現規制によりしばしば息を塞がれてきました。アーティストの探求を真に理解してくれるコミュニティを見つけることは、息をするための場所を見つけるようなものです。この助成は単なる資金援助に留まらず、本当に理解するための土台があれば、創造的自由は可能なのだということを証明する生存に不可欠な酸素なのです。時代を映し、記録するというアートの役割を軽視する社会において、自分のビジョンに忠実でいることは難しい。アートが存続し、社会的対話を続けていくために、アーティストには制作の機会がなければなりません。この助成は、東南アジアのアーティストにとっての道標です」と、深いつながりを持ちながらも、相互理解や協働のためのインフラの少ない東南アジアにおける支援の重要性と、ハン・ネフケンス財団への感謝を語った。
審査員会は、ティプラチャートを全会一致で選出し、その独自の作家性と発展しつつある実践を高く評価。「ティプラチャートの実践には、映像作家からスクリーンベースのメディアという拡張された領域を探求するアーティストへという説得力のある展開を見ることができます。親密さや内面性を特徴とする彼女の作品は、平穏な日常空間における社会的なものや政治的なものの所在を示唆し、その映像はふるまいや質感、音を注意深く見つめ、耳を澄まし、ほとんど気に留められることのない細部を感知可能なものにする。静謐さと内省への彼女のこだわりは、このノイズ、速度、情報過多の時代において、切実かつ必要不可欠なもの」であり、「その作品はまた、見ることと見られることといった眼差しの構造を思慮深く検証し、認識や経験を形づくるシステムを考察するものである。ティプラチャートは、映像作品と監視カメラであったり論争的な記録形式を含むスクリーンベースのテクノロジーの間を横断しつつ、現代生活を規定し、親密な体験に影響を及ぼす枠組みについての省察を続けている」とコメントした。
なお、同賞を2024年に受賞したソム・スパパリンヤ(スッティラット・スパパリンヤ)の個展が2027年2月に広島市現代美術館で開催予定。助成により制作された新作を交え、作家のミッドキャリアを回顧する機会となる。
東南アジア・ビデオアート・プロダクション・グラントは、東南アジア出身のアーティストによる新しいビデオアート作品の制作を支援し、国際的な認知度の向上を目指すもので、確かな専門的キャリアを築いてきたものの、まだ国際的な主要展覧会の機会を得ていないアーティストを対象としている。本年度は、広島市現代美術館、ムゼイオン近現代美術館(ボルツァーノ)、ロックバンド・アート・ミュージアム[上海外灘美術館]、ザ・アウトポスト・アート・オーガニゼーション(ハノイ)、ノッティンガム・コンテンポラリー、ロッテルダム国際映画祭の6機関が協力している。
ハン・ネフケンス財団:https://www.hnfoundation.com/
Chantana Tiprachart, still shot from Lhai-Thorn (ไหล-ถอน) (2020). Courtesy of the artist and Bangkok CityCity Gallery_
Chantana Tiprachart, The Artificial II (ไต้·ตะเว็น) (2025) Courtesy of the Han Nefkens Foundation