Claire Fontaine, Foreigners Everywhere (Spanish) (2007) Photo by Studio Claire Fontaine © Studio Claire Fontaine, Courtesy Claire Fontaine and Mennour, Paris
2024年4月20日より、同ビエンナーレ史上初のラテンアメリカ出身のキュレーターとなるアドリアーノ・ペドロサが掲げる「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」を総合テーマに、第60回ヴェネツィア・ビエンナーレが開幕を迎える。
総合テーマ「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」は、第60回展に参加するコレクティブ、クレア・フォンテーヌが2004年から取り組んできた、2000年代初頭に人種差別や外国人嫌悪に抵抗したトリノのコレクティブの名称「Stranieri Ovunque」を展示する場所や文脈に応じて翻訳し、ネオンサインとして発表するシリーズに基づく。現在、絶滅したものを含む53言語が制作させている同シリーズは、新たな大型インスタレーションとして、アルセナーレ裏のガッジャンドレ造船所に展示される予定。同シリーズの背景に「国家や領土、国境を越えて移動、存在する人々をめぐる幾多の難局が世界的に蔓延している」という現状を認めるペドロサは、第60回展において、外国人、移民、故郷を離れた人々、ディアスポラ、亡命者、難民、なかでもグローバル・サウスとグローバル・ノースを行き来する/したアーティストに焦点を当てる。また、異なるセクシュアリティやジェンダーを移動し、迫害を受けたり非合法化されてきたクィアのアーティスト(ペドロサは同ビエンナーレ史上初のクィアを公言したキュレーターでもある)、独学者やフォークアートのようにアートワールドの周縁に位置するアウトサイダーのアーティスト、自分たちの土地にもかかわらずよそ者扱いを何度も受けてきた先住民のアーティストなど、さまざまな領域で「Foreigner」とされてきたアーティストを「Nucleo Contemporano(ヌクレオ・コンテンポラノ)」と題して、展示会場全体に点在する形で紹介する。なかでも、セントラル・パビリオンのファサードには、ブラジル、アクレ州の先住民族保護区を拠点に活動するコレクティブ「MAHKU(モビメント・ドス・アルティスタス・フニクイン)」の壁画が展開し、同パビリオン内にはクィアのアーティストによる抽象表現を特集した部屋も設けられる。また、アルセナーレ内のコルデリーエには、アオテアロアに拠点を置くマタアホ・コレクティブによる大規模なインスタレーションや、建築家のフリアナ・ジエベルが手がけた空間で、キュレーターのマルコ・スコティーニが2005年から取り組むアートとアクティビズムの関係に焦点を当てた映像アーカイブ「ディスオベディエンス・アーカイブ」の特集展示を行なう。
Dana Awartani, Come, let me heal your wounds. Let me mend your broken bones, as we stand here mourning, (2019) Image courtesy of the Artist and Athr Gallery, Photo by Anna Shtraus, © Dana Awartani
Samia Halaby, Black is Beautiful (1969) Courtesy of the Artist; Sfeir-Semler Gallery, Beirut and Hamburg.
「Nucleo Contemporano」と並び、第60回展の重要な構成要素となるのは、根強い欧米中心のモダニズムの境界や記述を問い直すべく、ラテンアメリカやアフリカ、中東、アジアの20世紀の作品を特集した「Nucleo Storico(ヌクレオ・ストリコ)」。同テーマの下に構成されたセントラル・パビリオンの3つの部屋では、それぞれ肖像、抽象、イタリアン・ディアスポラといったキーワードで、1905年から1990年の間に制作された絵画を中心に各アーティスト1点ずつの作品を取り上げる。
また「Nucleo Contemporano」と「Nucleo Storico」の両部門にわたって、ゆるやかに展開する要素に「テキスタイル」と「血縁」が挙げられる。テキスタイルの観点では「Nucleo Contemporano」には、オルガ・デ・アマラル、エドゥアルド・テラサス、モニカ・コレア、「Nucleo Storico」にはチリのアルピジェラや上述したマタアホ・コレクティブ、アンナ・ゼマーンコヴァー、ブシュラ・ハリーリ、カン・スンリー、インカ・ショニバレなど、複数のアーティストがテキスタイルに関連する作品を発表。血縁という点では、主に先住民系のアーティストから、グアテマラのカクチケル出身のアンドレス・クルチッチと孫のロサ・エレナ・クルチッチ、マオリ出身のフレッド・グラハムと息子のブレット・グラハム、フアナ・マルタ・ロダスと娘のフリア・イシードレス、フィロメとセネカのオビン兄弟、ジェワドとローナのサリーム夫妻などの作品が出品される。
MAHKU – Movimento dos artistas Huni Kuin, Kapenawe pukenibu (2022) Photo: Daniel Cabrel, Courtesy of Museu de Arte de São Paulo – MASP
Mataaho Collective, Takapau (2022) Photographs by Maarten Holl / Courtesy Te Papa
ナショナル・パビリオンは、初参加のベナン、エチオピア、東ティモール、タンザニアを含む90カ国が出展する。前回、ソニア・ボイスの個展で金獅子賞を受賞したイギリス館は、ブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブの創設メンバーのひとりで、ヨーロッパにおけるアフリカ系ディアスポラの問題を扱ってきたジョン・アコムフラーの個展。日本館は、同館初の国外出身キュレーターとなるイ・スッキョンを迎え、環境などの諸条件によって変化する事象に着目してきた毛利悠子による個展「Compose」で参加。水を共通要素に持つふたつの作品を天井から地面へと展示し、光と音、動き、そして匂いが空間を包み込む有機的なインスタレーションを発表する。東アジアからは日本と同じくジャルディーニにパビリオンを持つ韓国が、ク・ジョンアの個展を開催。中国はグループ展「Atlas: Harmony in Diversity」、非公式参加となる香港はトレヴァー・イェン、台湾はユェン・グァンミン[袁廣鳴]の個展。そのほか、前回の釜山ビエンナーレのキュレーションを手がけた韓国出身のキュレーター、キム・ヘジュを迎えるシンガポール館はロバート・ザオ・レンフイの個展を開催する。なお、プレビュー初日の4月16日、イスラエル館で個展を行なう予定だったルース・パティアとキュレーター陣は「停戦と人質解放の合意」が実現するまで開館しないとの決断を発表した。また同館前などでイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区でのジェノサイドに対する抗議運動が行なわれた。
イスラエル館
イスラエル館
第60回ヴェネツィア・ビエンナーレ
「Foreigners Everywhere(外国人はどこにでもいる)」
2024年4月20日(土)-11月24日(日)
https://www.labiennale.org/
アーティスティックディレクター:アドリアーノ・ペドロサ