注目作家プログラムーチャンネル14 吉本直子 いのちをうたうー衣服、痕跡、その祈り

観覧無料

 

《白の棺》2021 年

注目作家プログラム チャンネルについて

「注目作家紹介プログラム チャンネル」は、兵庫県立美術館が 2010 年度より毎年度開催してきたシリーズ展です。担当学芸員が今こそご紹介したいと考える注目作家を取り上げ、同時代を生きる作家と来館者とがさまざまな「チャンネル」を通して出会う機会になることを目指しています。
2023 年度の第 14 回展では吉本直子の個展を開催します。

みどころ

■兵庫県の美術館初の個展
兵庫県出身で県内を拠点に世界的に活躍する吉本直子の兵庫県の美術館初の個展です。これまでの代表作から最新作まで作者の制作の全体像をご紹介します。
■コロナ禍を経た今だからこそ感じる命の重みと輝き
人間の命の存在、その生と死を感じさせる吉本の作品を通して、コロナ禍を経た私たちが改めて静かに自らの生命に向き合うとともに、その向こうに未来への希望を感じていただく機会となることを目指します。
■オーストラリアのコンテンポラリーダンスカンパニーCo3との協働制作のダンス映像を上映
兵庫県の姉妹都市であるオーストラリアのパースに拠点を置く Co3 コンテンポラリー・ダンス・オーストラリアの全面的な協力を得て、吉本との共作であるダンス映像「アーカイブス・オブ・ヒューマニティ」を上映します。会期中の3日間は当館のミュージアムホールにて上映会を開催します。
■古着で鳥を作るワークショップ「ザ・バードメーカーズ・プロジェクト」を開催
吉本がコロナ禍に実施した、自分の古着を使って鳥を作るワークショップ「ザ・バードメーカーズ・プロジェクト」を会期中に開催し、その成果物を展示に加えることで、世界中の参加者と今回のワークショップの参加者がつながる展覧会にします。
■コロナ禍の芸術活動を記録し、その記録を未来へつなげる
芸術家が作品を発表する機会が失われ、海外との交流も断たれたコロナ禍の芸術活動を紹介することで、この時代の記録を共有し、その記憶を未来へと継承します。

作家の言葉

“ 展覧会タイトルは「いのちをうたう―衣服、痕跡、その祈り」です。着用者それぞれの生きた時間、記憶、歴史を目には明らかではない痕跡としてとどめた衣服。それを素材として制作した立体は、耳には聞こえない叫び、願い、祈りを放っているように思えます。今を生きる無数の人々の生に思いを馳せ、個々の祈りが共生の祈りとなって響く空間を制作したいと思っています。”

展覧会概要

吉本直子(1972- )は兵庫県の加西市出身で西脇市在住の現代美術家です。
吉本は、心理学者の河合隼雄に憧れ、京都大学教育学部教育心理学科に進学しました。卒業後は臨床心理士になる道もありましたが、インドを旅する中で、優れた染織工芸品と出会い、祈りと生活が共存する世界に感銘を受けます。
私たちにとって最も身近な布である衣服は、長く着用するほど、汗や皮脂などの生きた痕跡が残ります。その時、衣服は単なる布を超え記憶を記録する媒体となります。そこに着目した吉本は、自らが使用した布を用いた作品を発表し始めました。
その後、他者の記憶により強く惹かれるようになった吉本は、他者が着用した衣服、とりわけその痕跡が色濃く残された白い古着を使用するようになりました。方形に圧縮し、のりで固められた多量の白いシャツは、外観はブロックで作られた建築物のようですが、内側にはシャツの袖の形が残され、生きた人間の存在を感じさせます。古着を使用した作品の前に立つ時、私たちは人間の生と死に向き合うことになるでしょう。

《本》2005 年
《鼓動の庭》2012 年 部分

 

 

 

 

 

 

 

2020 年、人と人との関係性が希薄になり、誰もがかつてないほど死を身近なものとして意識した新型コロナウイルスのパンデミックの渦中、吉本は、オーストラリアのパースを拠点とするダンスカンパニーCo3 コンテンポラリー・ダンス・オーストラリアと共に新たな作品を制作します。
ワークショップ「ザ・バードメーカーズ・プロジェクト」(2020 年)では、世界各地の人々が、自身の古着を使用した鳥の形をしたソフトスカルプチャーを制作しました。
このワークショップで生み出された 1,500 羽を超える鳥は、翌年に開催されたパースフェスティバルでのダンス公演「アーカイブス・オブ・ヒューマニティ」(2021 年)の舞台を彩りました。ダンサーたちがうちひしがれた後、団結して立ち上がっていくパフォーマンスは、コロナ禍で孤立したコミュニティが直面した危機と、力を合わせて未来に力強く進む人間の姿を想起させます。
それらの作品を経て、本展では、7メートルを超える天井高を活かし、壁一面に数千枚もの古着を使用した立体作品を展示するとともに、新作を交えた立体作品を紹介します。さらに、ホワイエから会場となるアトリエ1までの空間には、「ザ・バードメーカーズ・プロジェクト」で制作された鳥の作品と参加者のコメントシートをあわせて展示します。鳥の作品にまつわる参加者ひとりひとりの物語は、コロナ禍のプロジェクトの姿を伝えるでしょう。

「ザ・バード・メーカーズ・プロジェクト」(2020 年)の様子
吉本直子と Co3 コンテンポラリー・ダンス・オーストラリアとの協働

また、関連事業として、ミュージアムホールの大画面で「アーカイブス・オブ・ヒューマニティ」を上映するほか、アーティスト・トークや古着で鳥を作るワークショップ等、作者と触れ合う機会を設けます。
人間が生きた記憶を留める古着の作品を通して命に向き合い、風に立ち向かい大空に羽ばたく鳥の作品を通して困難な状況の中にも決して失われない希望の光を感じていただけたら幸いです。

「アーカイブス・オブ・ヒューマニティ」(2021 年)
吉本直子と Co3 コンテンポラリー・ダンス・オーストラリアとの協働

 

作家プロフィール

1972 年  兵庫県生まれ
1995 年  京都大学教育学部教育心理学科卒業
2000 年 川島テキスタイルスクール卒業
2006 年 文化庁新進芸術家海外留学制度派遣研修員としてイギリスにて研修
2007 年 ポーラ美術振興財団在外研修員としてイギリスにて研修
現在       兵庫県在住

作家の公式サイトはこちら
http://www.naokoyoshimoto.com/index.htm

〈主な個展〉
2021 年 「祈り」ギャラリーランズエンド(兵庫)
2017 年 「転生」ヨシアキ・イノウエ・ギャラリー(大阪)
2016 年 「日々の亡霊」伊勢現代美術館(三重)
2013 年 「静かな声」yoshiki inoue gallery(大阪)
2012 年 「吉本直子 Reflection Space―鼓動の庭、APMoA Project、ARCH vol.1 」愛知県美術館(愛知)
「melting core 脆弱な被膜」アートスペース感(京都)
「炉心溶融」―TANADA ピースギャラリー(京都)
2010 年 バーモントスタジオセンター・レッドミルギャラリー(バーモント、アメリカ)
2008 年 「伊勢新聞創刊 130 年記念吉本直子展」伊勢現代美術館(三重)
2006 年 ギャラリーNAF(名古屋)、ギャラリーギャラリーex(京都)
1999 年 ギャラリーマロニエ(京都)

〈主なグループ展〉
2021 年 「2020 年度第4期コレクション展」愛知県美術館
2020 年 ダンスカンパニーCo3 Contemporary Dance とのコラボレーション「Bird Makers Project」(パース、 オーストラリア)
2019 年 「JAPAN UNLIMITED」frei_raum Q21、ミュージアムクォーター (ウィーン、オーストリア)
2018 年 「TRAMANDA-過去と未来の糸」─Accademia Albertinaof Fine Arts (トリノ、イタリア)
2017 年 「原田の森リニューアルオープン展」原田の森ギャラリー「六本木アートナイト」(東京)
2015 年 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟)
2013 年 「16th DOMANI 明日展 未来を担う芸術家たち―文化庁芸術家在外研修の成果」国立新美術館(東京)
2012 年 「現代郷土作家展 吉本直子・久保健史・浅田暢夫」姫路市立美術館(兵庫)
2010 年 「京都工芸ビエンナーレ」京都文化博物館(京都)
「西宮船坂ビエンナーレ つながる」(兵庫)
2008 年 「秋のアーティスト・イン・レジデンス展『月下の森』」国際芸術センター青森
2009 年 「西宮船坂ビエンナーレ プロローグ」(兵庫)
2006 年 「京都府美術工芸新鋭選抜展」京都文化博物館(京都)
2004 年 「Though the surface 表現を通して―日英テキスタイルコラボレーション」京都国立近代美術館/ジェイムズ・ホッケイ・ギャラリー、サリーインスティテュート・オブ・アート&デザイン(ファーンハム、イギリス)ほかイギリス 3 会場巡回
2002 年 「国際テキスタイルビエンナーレ」オルミュ・バス・ギャラリー(イギリス)
2000 年 「国際丹南アートフェスティバル」(福井/東京)

〈授賞〉
2011 年 京都府文化賞奨励賞
2009 年 アジアン・アーティスト・フェローシップ 名誉賞(バーモント・スタジオ・センター、アメリカ)
2006 年 京都府美術工芸新鋭選抜展 美術部門 最優秀賞第 5 回ヴァルセリーナ・アワード グランプリ(イタリア)

関連イベント

■アーティスト・トーク
日時:10月28日(土)14:00-15:00 ※開場は30分前から
開場:当館ミュージアムホール
定員:150名(先着順・無料・芸術の館友の会会員優先座席あり)

■「アーカイブス・オブ・ヒューマニティ」上映会
日時:10月28日(土)、11月12日(日)、26日(日)
10:30-17:30 繰り返し上映(上映時間約60分)
※ただし10/28(土)の13:30~15:30はアーティスト・トークのため上映中断
会場:当館ミュージアムホール
参加費:無料
入退場自由
制作 Co3コンテンポラリー・ダンス・オーストラリア、舞台装置 吉本直子、Bruce McKinven,Raewyn Hill

■こどものイベント「ザ・バードメーカーズ・プロジェクト 自分の服で鳥をつくろう!」
日時:11月5日(日)10:30-15:00 ※受付は10:10から。お昼休憩あり。
会場:当館アトリエ2
対象:小学3年生~高校生とその保護者 ※小学生は要保護者同伴
定員:15組(先着順)
参加費:有料(材料費)
※申込方法等詳細については、決まり次第、当館ホームページにてお知らせします。

■ゆっくり解説会
特別展「Perfum COSTUME MUSEUM」、「2023年度コレクション展Ⅱ Welcome!新収蔵品歓迎会」、本展の各担当学芸員による手話通訳、要約筆記付きの解説会です。
日時:11月12日(日)13:00-14:30 ※開場は30分前から
会場:当館レクチャールーム
定員:60名(先着順・無料)

 

開催情報

会期:2023年10月28日(土)―11月26日(日)
開館時間:10時―18時
休館日:月曜日
会場:ギャラリー棟1階 アトリエ1
観覧料:無料
主催:兵庫県立美術館
協賛:公益財団法人伊藤文化財団、兵庫県立美術館「芸術の館友の会」
助成:公益財団法人中内コンベンション振興財団、野村財団
特別協力:Co3コンテンポラリー・ダンス・オーストラリア

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