2026年6月25日、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]は、2026年度の「アート・インキュベーション」のアーティスト・フェローとして、加藤明洋、小宮りさ麻吏奈、05(牧原依里+和田夏実)、高橋鴻介、楊いくみの5組を選出したと発表した。CCBTは最大1,000万円の制作費に加え、制作スペースの提供、技術・マネジメント面での支援、メンターをはじめとする専門家によるアドバイスなどをとおして、フェローの活動を全面的にサポートする。
「アート・インキュベーション」は、クリエイターに新たな創作活動の機会を提供し、そのプロセスを市民(シビック)に開放することで、都市をより良く変える表現・探求・アクションの創造を目指す、国内最大規模のアーティスト・フェロー制度。公募・選考によって選ばれたクリエイターを「アーティスト・フェロー」として委嘱し、これまでの4年間で計20組のフェローと協働し、パフォーマンスやインスタレーションなど新たな作品や表現を生み出してきた。
今年度のテーマは「シビック・ファッション」。社会を映し出す記号でありながら、多元的な個の表現可能性を限りなく有するファッションの性質を起点に、テクノロジーによる変容可能性を手がかりとして、既存の常識や習慣を超えた「まだない何か」を一時的に形づくる企画・表現活動を募集した。127件の応募のなかから、7名の審査員による書類・面接審査を経て、それぞれ異なるアプローチからテーマを考察する5組が選定された。フェローは、2026年7月から2027年3月までの約9か月間、CCBTを拠点にリサーチやプロトタイピング、作品制作を進める。同年8月以降は創作プロセスの公開やワークショップ、レクチャーなどを順次実施し、2027年1月以降はCCBTおよび都内各所で成果を発表予定。
[参考]菅野創+加藤明洋+綿貫岳海《かぞくっち》2022年、SusHi Tech Tokyo
[参考]小宮りさ麻吏奈《CLEAN LIFE》2025年、WHITEHOUSE Photo by Ujin Matsuo
[参考]Natsumi Wada, Yasuaki Kakehi《An Image of…》2021年、21_21 DESIGN SIGHT
ウェブ・エンジニアリングを基盤に、ブロックチェーン、AI、人工生命、映像などを用い、テクノロジーと社会の関係を問う作品を制作する加藤明洋は、自然環境の中で生存を試みる小型ロボット「ノラロボ」を放ち、ロボット、AI、人間が相互に関与しながら進化を続ける「人工物生態系」の構築に取り組む。ノラロボが生存中に記録する日記や遺言を元にAIが次世代機の進化プランを提案し、生存と進化のサイクルを繰り返すことで、人工物ならではの生態や継承のあり方を探究する。その過程はワークショップや展示としてひらかれ、テクノロジー、環境、人間の新たな関係性を想像するための視点を立ち上げる。
クィア的視座から「新しい生殖の方法を模索する」ことをテーマに、バイオテクノロジー、パフォーマンス、映像、インスタレーション、漫画などメディアにとらわれず活動する小宮りさ麻吏奈は、身体・言語・環境を含む総体的な「皮膜/interface」を纏うことの意味の再構築をとおして、「自己とは何か」を問い直すプロジェクトを展開する。わたしたちを定義するさまざまな言葉を「言語環境」として再思考するとともに、身体に棲みつく細菌叢から惑星における共生体としての「身体環境」を再発見するという、ふたつの軸からアプローチする。多様な主体との対話や協働、リサーチと実践の往還をつうじて、個人と社会の関係性を捉え直す視点をもたらすことを目指す。
映画作家・演出家の牧原依里(ろう者)と研究者・クリエイターの和田夏実(CODA)によるユニットで、視覚言語文化拠点「5005」を中心に、視覚身体言語の可能性をともに探求する05(牧原依里+和田夏実)は、視覚言語である手話を第一言語とする立場から、身体動作や視覚表現を起点に都市空間と身振りの関係性を再発見し、新たなコミュニケーションのあり方を設計する。ろう者と聴者が協働し、多様な身振りを収集・分析しながらデジタルアーカイブとして共有基盤化する。さらに、見通しや距離、光の活用といった視覚言語的空間設計の原理を応用した仕掛けを公共空間に実装し、参加型パフォーマンスをつうじて身振りによる相互作用の創出を試みる。
[参考]高橋鴻介《Braille Neue》2019年、渋谷区役所、Panasonic Center Tokyo ほか
[参考]楊いくみ《<p.§.>》2023年、渋谷PARCO
異なる文化や人の間に、よい関わりを生みだすための発明とデザインを手がける高橋鴻介は、都市に対して異なる身体・知覚・経験を持つ人々の視点を採集し、その多元的な眺め方を体験できる仮設建築「展望台」を都市に実装する。市民参加型のフィールドワークによる「発見」、採集した視点を体験へと変換する「変換」、都市空間へのインストールを行なう「実装」の3フェーズで構成され、それぞれの身体性から立ち現れる都市の豊かさをひらき、硬直した都市への眼差しを更新することを目指す。
インスタレーション、パフォーマンス、映像を横断しながら、鑑賞者の移動や知覚を含めた空間的な作品を制作する楊いくみは、ファッションが自己表象に有効な装置として信じられる一方で、「選択すること」と「与えられること」の境界は今日も存在するのか、という問いを起点に、東洋絵画の遠近法「三遠(高遠・深遠・平遠)」の概念を方法論として都市空間に投影したパフォーマンス・インスタレーションを展開する。同時多発的に分散して立ち上がる状況群は、ひとつの出来事としてリアルタイムで編み直され、公開される。演者と鑑賞者の境界を揺るがしながら、冬の時代にある自己の先に訪れる「早春」の風景を探る。
今年度の審査員は、蘆田裕史(ファッション論、京都精華大学デザイン学部教授)、石川由佳子(アーバニスト、エクスペリエンス・デザイナー)、四方幸子(キュレーター・批評家/十和田市現代美術館館長)、関治之(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)、津川恵理(建築家、ALTEMY代表)、小川秀明(CCBTクリエイティブディレクター)に、CCBTテクニカル・ディレクターを加えた7名。このうち小川秀明とCCBTテクニカル・ディレクターを除く5名がメンターを務める。
「アート・インキュベーション」プログラム:https://ccbt.rekibun.or.jp/core-programs/art-incubation
