2026年(第36回)福岡アジア文化賞

ホー・ツーニェン ©福岡アジア文化賞委員会

 

2026年5月22日、福岡アジア文化賞委員会は、アジアの学術研究や芸術・文化の分野で顕著な業績をあげた方を顕彰する「福岡アジア文化賞」の2026年(第36回)の各賞受賞者を発表。大賞には、東南アジアの地政学を織りなす力学や歴史的言説の複層性を抽象的かつ想起的に描き出す幅広い芸術実践を試みてきたシンガポール出身のホー・ツーニェンが選出された。同賞委員会は、ホー・ツーニェンの活動が「世界情勢が混迷する今日、アジアとは何か、アジアにおける日本とは何かという根源的な問いに多角的かつ可変的な視点をもたらす」ものであると高く評価した。

同日発表となった芸術・文化賞には、アジア舞踊の伝統を継承しながらも現代社会の文脈に即した振付や構成を試みると同時に、アジアの舞踊文化の発信と発展に重要な役割を果たしてきたタイ出身の舞踊家・振付家のピチェ・クランチェン、学術研究賞には、フィリピン社会をナショナリズム、エスニシティ、ジェンダーなどの多角的視点から掘り下げた研究をはじめ、東南アジア社会の人々の経験や歴史に寄り添い、文学研究と地域研究を横断する東南アジア研究者で作家のキャロライン・シー・ハウがそれぞれ選ばれた。

授賞式は9月14日(月)に福岡市民ホールで開催。9月12日(土)には、ホー・ツーニェンとピチェ・クランチェンが福岡市美術館、9月15日(火)には、キャロライン・シー・ハウがアクロス福岡で市民を対象とした講演会を予定している(授賞式、市民フォーラムへの申込は7月中旬開始予定)。

 

ホー・ツーニェン《ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声》2021年「ヴォイス・オブ・ヴォイド−虚無の声」山口情報芸術センター[YCAM]、2021年 Photo: ART iT

 

ホー・ツーニェン(1976年シンガポール生まれ)は、植民地時代の記憶、多様な言語・宗教・文化の交錯など、東南アジアを中心とする複層的な歴史を深く掘り下げ、亡霊や妖怪、虎、スパイといった現実と虚構の間を往来する存在を通して、アジアの文化的アイデンティティの多様性を探究。既存映像のアルゴリズム編集、3Dアニメーション、バーチャル・リアリティ、AIなどのテクノロジーを積極的に利用し、映像、音響、言葉が絡み合う没入型のインスタレーションにより、展示空間における映像表現の可能性を大きく拡張してきた。

代表作《東南アジア批評辞典》(2017〜)は、オンラインプラットフォーム上の画像や動画をアルファベット26文字に基づく概念でアルゴリズムが分類し、再生するたびに新たなストーリーが更新される。この構造はひとつの作品にほぼ無限の可能性を与えると同時に、歴史や物語の書き換え可能性というホーの中心的な主題を体現している。また、あいちトリエンナーレ2019において、豊田市の旧旅館・喜楽亭で発表した《旅館アポリア》(2019)では、京都学派の哲学者や、シンガポールに軍報道部として滞在した映画監督・小津安二郎の視点を編み込みながら、戦時下のイデオロギーに宿る二重性と矛盾を解き明かした。同作は、日本とアジア諸国の歴史的関係性を批評的に再考する重要な機会をもたらすものとなった。

 

ホー・ツーニェン《旅館アポリア》2019年、あいちトリエンナーレ2019、愛知、2019年 Photo: ART iT
ホー・ツーニェン《時間のT》2023年「ホー・ツーニェン エージェントのA」東京都現代美術館、東京、2024年 Photo: ART iT

 

ホー・ツーニェンは、オーストラリアのメルボルン大学で美術を専攻し、シンガポール国立大学で東南アジア研究の修士号を取得。2011年には第54回ヴェネツィア・ビエンナーレのシンガポール館の代表を務め、その後も第12回光州ビエンナーレ(2018)、シャルジャ・ビエンナーレ14(2019)など、数々の国際展に参加し、2023年にはシンガポール美術館で大規模回顧展「Time & the Tiger」も開催している。日本国内でも第3回福岡アジア美術トリエンナーレ(2005)をはじめ、キャリア初期より現在に至るまで数多くの展覧会に参加。近年はあいちトリエンナーレ2019、「ヴォイス・オブ・ヴォイド−虚無の声」(山口情報芸術センター[YCAM]、2021)、「百鬼夜行」(豊田市美術館、愛知、2021)、「エージェントのA」(東京都現代美術館、2024)などで印象的な仕事を残している。演劇分野においても、3年に一度ドイツで開かれる世界演劇祭/テアター・デア・ヴェルト(2010、2023)、オランダ・フェスティバル(2018、2020)などに参加。横浜で開かれる国際舞台芸術ミーティング[YPAM(旧TPAM)](2018、2019、2021、2024)にも複数回にわたり招聘されている。さらに、2019年に国立台湾美術館で開かれた第7回アジア・アート・ビエンナーレでは、シュウ・ジャウェイ[許家維]とともに共同キュレーションを手がけ、この秋に開かれる第16回光州ビエンナーレでも芸術監督を務めるように、キュレーションの分野においても高い評価を得ている。

 

福岡アジア文化賞https://fukuoka-prize.org/

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